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ツクヨミ

 むかし、むかし、讃岐さぬきのある山に、モグラ男が住んでいました。


 モグラ男は、生まれつき瞳孔どうこうがなく、昼間はまぶしすぎて、目を開けることができませんでした。

 だから、夜になると起きだして、村までひそかに掘った穴をすすみ、畑の作物を食べました。

 幼いころに両親をなくしたので、彼にはそれしか生きるすべがありませんでした。


 でも、淡い月の光の中でみる世界を、彼はとても好きでした。



 ある日、彼は、村の豪族の白い屋敷にたどりつきました。

 豪族の屋敷の畑はひろいので、少しぐらい作物を食べてもばれませんでした。

 ばれても、イノシシのしわざだと思われるので、モグラ男はこの畑が好きでした。


 いつものように、モグラ男は、畑でイモを食べてかえろうとしましたが、月あかりの中に奇妙な光が見えました。


「きれいな光だなあ」

 

 とつぶやきながら、彼は光の方に、ふらふらと歩きだしました。

 しばらく行くと、白い屋敷の中の少し床が高くなった建物の窓から、その光がもれているのがわかりました。


 引き寄せられるように、彼はその光の方へ近づいていきました。

 そして、階段をのぼって、戸をそっと開けました。


「……だれ? 刃良と ら?」


 不思議な光をもつ瞳が、モグラ男を見返していた。

 よくみれば、その女の左目は青く輝き、右目は翠色みどりいろの淡い光を放っていた。

 髪は白銀色で、白い着物をまとっていたが、身体全体も、月の光のような淡い銀色の光に包まれていた。


「きれいな目だなあ。まるで、猫の目みたいだ」

  

 モグラ男は、その幻想的な光景にみとれながら、のんきな声をだした。

 

「あら、お客さん? めずらしいわね。そこに座ってください」


 女は驚きもせずに、竹で編んだ敷物を差し示した。

 黒いの木床の中心には囲炉裏いろりがあり、その光に包まれた女はにっこりと微笑しながら、お茶をすすっていた。

  

 モグラ男は素直に敷物に座ると、その女をまじまじとみつめた。


「あなたは、お月様みたいですね。きれいな光だ」


「そう、ありがとう。私はひかり姫と言います。あなたはどこからいらっしゃたの? おまえは?」


 ひかり姫はモグラ男を不思議な両目でみつめながら言った。


「……おれは、モグラ男です。なまえは……ない」


 モグラ男は恥じて口ごもりながら、やっと答えた。


「そうなの。それは困ったわね。では、あなたのなまえは『月読ツクヨミ』にしましょう」 

   

「ええ! なまえをつけてくれるの?」


 モグラ男はびっくりして、黒い目を丸くみひらいた。


「めいわくかしら? そういう神さまのなまえがあるのよ。月の神さまよ」


 ひかり姫は小首をかしげながら、モグラ男をみつめかえしました。


「うん、だいじょうぶ。ツクヨミでいいよ。うれしい」


 モグラ男は黒い目を輝かせて、子供のようによろこんだ。

 そして、ふたりは朝方まで、たわいない話をしました。

 モグラ男は、とても残念でしたが、朝日がのぼる前に山へ帰りました。   

まさか、日本神話の話になるとは思いませんでした。

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