五話
空の上。
地上から隔離され人の手の届かぬその場所に。
八つの光が並んでいた。
八つの光はやがて輝きを強め。
地上の一人の女性に注いだ。
その時。
光の並びに。
二つの空席が空いた。
※※※※
地上のどこか。
影に埋もれ光指さぬその場所に。
九つの淀みがあった。
あるとき。
淀みは揺らぎ十となった。
物語は始まる。
それは一人の少女の。
けして救いの無い。
数多の幸せのための。
悲しき序章ーーー。
人が未だ獣を追う術の拙き頃。
人が未だ魔を恐れ神を敬う頃。
人が未開の地に踏み出すことを良しとせぬ時代。
時はたち、一人の女が子を生んだ。
何時か光に包まれたその女は営みの中で子を成すことはなく。
不貞を犯したとし故郷を追われた。
女は子を愛した。
限り無い愛情を注ぎ。
子は育った。
子は人に無き才を持った。
薪に手を添えれば火は興り。
大気を掬えば水が湧き。
駆ければその背を風が推し。
木葉を愛でれば恵みを落とした。
母は恐れた。
魔を扱う我が子を。
母は畏れた。
神に等しき我が子を。
母はそれでも愛した。
愛しき人為らざる我が子を。
時はたち。
母は天寿を全うした。
その最後の思いは。
唯一人遺してしまう我が子への愛のみだった。
子は未だ幼き姿をしていた。
母であり師である女の最後の教えと思い。
授かったものの重みを感じながら。
一滴の雫を大地に落とした。
その時。
大地に落ちた雫は輝き。
愛深き女の骸は小さな苗木となった。
※※※※
天上の八つの光。
空席の一枠が輝いた。
しかしそれも僅な時。
一際強く輝き。
瞬く間に消え去った。
其処に残るは。
八つの光と。
一枠の空席。
※※※※
時は経ち。
人が神の恩恵を忘れ。
神と魔を同一の物と捉える時代。
光指さぬ場所。
九つの淀みが眠る場所に。
幼子の姿はあった。
その身に力はなく。
憎悪に狂う獣に囲まれ。
小さき体に数多の憎悪を受け止めていた。
淀みは蠢き。
幼子を惑わす。
曰くー
ー愛に返すものが愛ならば
ー憎悪に憎悪を返すのは道理
ー…何故唯背負うか
幼子は傷多きその身にて返す
ー愛求めるならば愛すが道理
ー己と異なるを恐れるも道理
ーなれば説こう
ーいつかまた愛されるそのときまで
いつしか淀みは幼子を愛し。
幼子は変わらず淀みを愛した。
淀みの空席は埋まり。
何時しか幼子は童子となった。
※※※※
時は移ろい。
人が神を忘れ。
魔を魔でぬぐい去る時代。
童子は異界の者達と出会った。