四話
「陛下。隣国の旅団が到着しました。陛下に謁見を求めています。いかがされますか?」
「…」
「陛下? …陛下。まだ、お悩みですか」
「…ソナタには、隠せんな」
「当然です。何年、あなたの背を追いかけたと思っていらっしゃるのですか」
「そうだな…もう10年ほどか?」
「10年と四月、そこに7日です」
「…細かいな」
「それだけ、大切だということです」
「…まだ、悩んでおるよ。あの日あの時、私はソナタらを選んだ。私は、生涯の信仰を誓った神を捨てたのだ」
「…」
「おぼえておるか? ソナタと我が出会ったときのことを」
「はい。賊に捕まった私を、陛下が救ってくださった時ですね」
「あの日、我は騎士になった折手にした愛剣を失った。度重なる賊との交戦に、我の技の未熟。ましてや、大戦の後ろくな手入れも出来ていなかったあの剣だ。よくぞ、あの時まで持ってくれたと感謝の念が絶えんよ。…あの方があの時われに新たな剣をさずけてくだされねば、今ここにお前とともにいることもなかっただろう」
「そして、私たちを選ばなくても、こうして私がここにいることも。ここにきし王国が建国することもなかったと、私は確信しております」
「そうだな。我が居て、ソナタらがいて、あの方から賜った剣があって、ようやくこの国は出来上がるのだ。…どれ一つ欠けても、ここにこの国はあるまい」
「であれば。…これを私が申し上げるのは見当違いなのかもしれませんが、あのお方がまた現界された時、この国があのお方を受け入れられる様、また受け入れていただけるようにするんもが、私たちに出来る最大の恩返しであり、また贖罪なのではないかと、私は愚考いたします」
「そう…だな。いつまでも立ち止まってはおれんか」
…-本当は。
お前達みたいなクズに。
この子を与えたくはない。
でも。
この子が。
お前の友であることを望んだ。
故に。
私はお前にこの子を託す。
この子とともに。
お前が守りたいものの盾となれ。
ここに誓え。
ほかでもない。
お前自身の魂に。
そして刻め。
その薄汚い魂の芯に刻み込め。
この子の名は。
トリュシュルー。
魂に従う者。
お前と。
この子の。
行く末に小さき幸を-…
「…陛下?」
「なんだ」
「今、首飾りが…」
「当然だ。我が友、トリュシュルーは常に我と共にある。たとえ離れていようともわれを叱咤激励するくらいのことは造作もなくしてくれようぞ」
「…参りましょうか」
「ああ」
我が永久の忠誠を誓いし神よ
我に牙を授け、この身を盾とせよとおっしゃられた神よ
貴方は今、何処に座して居られるのだろうか
あなたにこそ、見ていただきたい
我が眼下に広がる国を
貴方が与えてくださった牙が、この国の礎となったのです
我が生涯、貴方以外の神を信仰することはございませぬ
…たとえ、あなたが邪神と呼ばれていようとそれは変わりませぬ
我が願うはただ一つ
貴方のご尊顔を仰ぎ、ただ一言
あの時言えなかった礼を言わせていただきたい
「どう? 設定終わった? …ヒヅメ?」
ふと。懐かしい気配。すごく遠い場所で。誰かが私に。何かを願った。
「どうしたの? わからないところでもあった?」
「…ん。大丈夫。もうすぐ。終わる」
多分。私が。私になる前。きっと近くて遠い。暖かくて冷い。そんなセカイ。
「ん…終わった…よ」
「そっか。じゃぁ、今日はこのへんで寝ましょう。正式なサービスは明日からだから、今これ以上できることなんてないし」
いつか私が行かなきゃいけない世界だけど。今は。ここにいて。いい…よね?
「…眠い」
「…(あれだけ寝たのにまだ眠いの? ヒヅメって本当によくわからないわ…)」
…生暖かい目。この頃、ずっと。でも暖かいミズキは、すき。
「…うで?」
「…わかった。寝ようか」
一言でわかってくれる。ミズキなら。安心。
「…おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
…今日はなんだかいい夢をみそう。