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重なる世界の、重ならない私  作者: 守納
第一章 歩
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二話

―…Behindern(阻み)

Ablehnung(拒絶し)

Negativ(否定する)

Ich einzelnen, kleinen Kayowaku, noch bestimmte Anzahl(私は個、小さくそれでも確かな個)。


縦長な六角形の半透明状の板が半球状に私の背後を覆う。


薄紅色に染まる草原。遠くには黒煙を吐き出す、以前は芸術品と見紛わんばかりだった王都。

その様子からは、遠目にも陥落していることは間違いない。


― …Trauer(嘆き)

Leiden(苦しみ)

Stöhnen(呻き)

schrei(悲鳴)。

War diese Körper abgebaut, Tränen in Manajiri, lassen Sie uns Make-up Tod mit Blut auf den Lippen.(この身を砕き、眦に涙、唇に血で死に化粧をしましょう)


左腕の感触がない。両足も同様。右腕は、ひどく冷たい。なのに、全身が熱病に冒されてでもいるかのように熱い。


もう、ここまでのようだ。これで終わらせられなければ、『彼等』を殺すことなどできそうにない。


燃える王都を背に、同じく満身創痍といった様子の『彼等』。

重厚な鎧は、皹割れ煤け、本来の役目を終えている。此方に向けられた大剣もまた、歯零れ亀裂が入り、無惨な様を晒していた。


剣神・ワタヌキ。


今だ輝く切っ先は、しかし本人の疲労からか揺らいでいる。身に纏う、着流しの衣はほつれ、焼き焦げ、傷付いた素肌を除かせていた。


勇神・ヒビキ。


二人のは以後には、濃い疲労を伺わせ、普段浮かべた微笑みは見る影もない女性。


慈神・ヨリ。


…私の、大切な家族。


― …Ich zeige, den Geist.(私が示すのは、心)

Emotionen, das ist alles. Es gibt nichts mehr. es gibt keine Notwendigkeit, zu vererben.(喜怒哀楽、その全て。残るものはない。遺す必要もない)

Freude, genießen Geist Spinn, knoten, und in der ewigen Welt verwurzelt.(喜び、楽しむ心は紡ぎ、結び、永劫世界に根付く)


守りたかった。

 一緒に、戦いたかった。

 背中を預かりたかった。預けたかった。

 同じ勝利を喜び、同じ失敗を悔やみたかった。

 父の隣に立ちたかった。

 兄の背を守りたかった。

 母の腕の温もりが欲しかった。

 …もはや、叶わない『幻想』。

 道は違え、意思は交わらない。

 想いは伝わらず、交わすのは手の温もりではなく刃の痛み。


-…Wut Traurigkeit auch, indem er ein Messer, das weh(怒りも悲しみも、全て傷つける刃となって).

 Ja mit dem Ende auf Dinge, die roh, unendlich sind vielmehr alle endlich(生ある物には終わりとともにあり、無限はなく、全て有限). 

 Kommen zum Ende, niemand konnte, daher ist es, besuchen Sie, wenn es mein Herz berührt(終わりの訪れは、誰も知りえず、故にそれは、私の心に触れたときに訪れる).


 本当は、一人で、守るために編み出した。刃の剥く先は、家族じゃないはずだった。

 本当は、家族の盾にするため編み出した。守られるはずの人たちは有象無象ではなく。

 …なぜ、私は心(鋒)を家族に向けているのだろう?

 …なぜ、私の心(盾)をゴミに使っているのだろう?


「何故だ…! なぜ…!」


 …お願い。


「なんでだよ、! なんでこんな!」


 …止めて。


「お願い! 止まって!」


 もう…-


「「「『……』ァ!!!!」」」

「もう、その名で呼ばないでぇええええ!!!!!!!!!」


 だって…『それ」は、『彼』の名前で。

 …『私』の名では、ないのだから。





























「…これ、邪魔」


 次の授業の準備をしていると、小さく声が聞こえた。


「ん~? あ、ごめん」


 声の方を見てみれば、私の教科書が散乱していた。立掛けたカバンは、なぜか少し後ろの方にとんでしまっている。おおかた、男子の誰かが暴れた拍子に蹴り飛ばしでもしたのだろう。


「…ん」

「んぁ? あぁ、ありがと…ヒズメ?」


 おおかた集め終わったところで、数冊の教材が差し出された。お礼を言うために顔を上げれば…そこにあったのは、どこか現実味のかけた少年。

 日暮 十二月三十一日。私、火澄瑞希(ヒスミミズキ)の唯一の親友だった。


「どうしたの? 学校に来ただけでも珍しいのに、休み時間に寝てないなんて」

「…よく言う。 …寝てた私を…拉致したの…誰…?」

「そうでもしないと、出席日数足りないでしょうが」


 火砥のやつと一緒にこの子の家に押しかけて、寝ているところを着替えさせて背負ってきたのが、つい今朝のことだ。…といっても、この一月、もうずっとそんな調子だけど。


(もう、完全に火砥と揃ってこの子の世話係に認識されてるのよね、うちら…)


 これで、保護者の認識ではなく夫婦の認識だったら…。とても、嬉しいのだけれど。火砥は、邪魔。


「そういえば、もう誘われた? イゴニバム・オンライン」

「…ん。…もう…ソフトも…もらった」


 火砥…で思い出した、この子をゲームに誘うというあの話題。

 ヒズメは、学校に来ない間基本的にインターットをしている。以前彼の妹に教えてもらったところによるとファンタジー系のMMORPGを片っ端から手をつけて言っているらしい。

 それを聞いた火砥が、自分がベーアに参加したゲームに誘おうかと思っていると今朝言っていた。どうやら、もう話を持ちかけたみたい。


「そう、そのゲーム、私も軽くだけどやったるから。今日の夜にでも軽くレクチャーする?」

「…ん…。…今日は、いい。VRMMO…初めて。設定とか…いろいろある」

「へぇ? そうなんだ。ヒズメのことだから、もうとっくにいくつもタイトルて、出してると思ってた」


 少し、というかだいぶ驚いた。でも、まぁそう不思議がることでもないのかもしれない。YRMMOは最近発売され始めたばかりだし、ヒズメは膨大な量のタイトルに手を出している。まだ手が伸びていなかったというだけで、今回の誘いはちょうど良かったのかもしれない。

「…予鈴、もう鳴る…」

「そうね、じゃぁまた後で…って言いたいとこらだけど、あなたのことだからどうせまた明日…は休みだから、月曜の朝になるんでしょうね」

「…否定は…しない…」

「いや、少しはしなさいよ」

 冗談めかしたセリフに返された予想外のセリフに、思わず頬がひくついた。


(まぁ、今はこれでいいわよ。…でも、ずっとこのままでいるつもりはないからね…?)


 どんなに好意を伝えてものらりくらりと躱す彼。でも、気がつかないうちに…外堀は埋められていくものなのだ。

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