とりあえず手合わせ
オーラに先導された一行はまずはギルドの倉庫に向かっていた。
「さて、その格好ではなんですから、まずはこの中から適当にどうぞ」
倉庫の中には様々な資材や、武器や鎧の類がきれいに保管されていた。
「色々ありますから自由に選んでください」
中に入ったタマキはまず壁にかかっているマントを手に取った。
「俺はこれだけでいいや。カレンはどうする?」
「そうですね、私は」
カレンはショートソードを手に取り、それからレザーアーマーが置いてあるほうに向かった。そして、その場で今の服の上からレザーアーマーを手早く身に着けた。
「これもあったほうがいいだろ」
そこにタマキがダガーを放ると、カレンはそれを受け取って腰のベルトに取り付けた。
「これで十分です」
「お二人とも、軽装ですね。では、行きましょうか」
それから五人は町外れの広場に到着していた。
「そちらのカレンさんは剣士のようですから、私とは手が合いそうですね」
そう言ってオーラはかついでいた剣を手に取り、広場の中心に歩いていった。カレンは黙って同じようにオーラの数歩先に立った。そして、ショートソードを抜く。その様子にオーラはうなずく。
「では、始めましょうか」
「いつでもどうぞ」
オーラとカレンは互いの剣を構えた。数秒の間二人は微動だにせずに向かい合い、そして、まずはオーラが動いた。
距離が詰められると同時に剣が上段から勢いよく振り下ろされた。カレンはそれを軽く横にステップしてかわし、オーラの横にまわりこむとショートソードを横薙ぎに振るう。だが、オーラも軽く横にステップしてそれをかわした。
二人はそこからゆっくり移動しながら、最初とは入れ替わった位置で止まる。
「思った通り、一流ですね。しかし、あなたの力はそれだけではないでしょう」
「それは確かにそうです。しかし、それはそちらも同じですね」
互いに軽く笑顔を浮かべると、二人は一歩ずつ下がった。そしてカレンは眼鏡を外してそれをタマキに向かって放り投げる。
「いきますよ」
カレンの瞳と髪が白銀に染まり、ショートソードも同じ輝きに包まれた。それを見たオーラは面白そうな笑顔を浮かべた。
「っ!」
次の瞬間、オーラがとっさに構えた剣にカレンの攻撃が直撃していた。オーラは一歩だけ後ろに下がったが、そこで踏みとどまり、すぐに体を反転させた。そして、一瞬で背後にまわったカレンと再び対峙する。
「完璧に受けられるとは思いませんでした」
「いえ、ぎりぎりでしたよ、これほどとは予想外です。さて、次はどう来ますか」
「では、遠慮なくいきます」
カレンの背中から白銀の翼が開いた。そして上空に舞い上がるとそこから一直線にオーラに向かって急降下していった。オーラはそれに対して剣を肩に担ぐようにして構えると、タイミングを合わせてそれをカレンに叩きつけた。
凄まじい打撃音が響き、オーラの持っていた剣がその後方の地面に突き刺さった。
「まいりました」
片膝をついたオーラは目の前のカレンに向かって静かに言った。すでに元の姿に戻っていたカレンが自分の剣を目の高さまで持ち上げると、それは半ばから折れ、先端が地面に落ちた。
「いえ、私の武器も壊れてしまいましたから」
「その剣はそれなりに上等な物ですが、私の剣と比べたらおもちゃみたいなものですよ。なので、私の完敗です」
そんな二人を見ながら要一は額に手を当てていた。
「なんか、とんでもないというか。それにあのオーラさんより強い人がいるなんて」
「確かに、カレンとあそこまで戦えるとはとんでもない実力者だな」
「すごい」
唖然とする要一に、感心するタマキ、惚れ惚れとしているまもると三者三様の様子だった。
それからカレンがタマキのほうに歩いてくると、タマキはさっきカレンが放り投げた眼鏡を返した。カレンはそれをかけると、一つ息を吐いた。
「お疲れさん。どうだった?」
「大変強い方でした。本当に驚きました」
「そうだな、まさかカレンのあの力をああやって受ける人がいるとは思わなかった。世界は広いな」
「そうですね」
そこに自分の剣を回収したオーラも来た。
「カレンさん、あなたの実力はよくわかりました。しかし、そちらのタマキさんの力も見せていただきたいですね」
「それはいいけど、俺の相手は?」
「そういうことならば、ヨウイチさんにまもるさん。あなた達二人でやってみてはどうですか?」
「え?」
「もちろん」
「ええ?」
要一の反応は鈍いが、まもるはやる気まんまんらしかった。
「じゃあ、やってみるか。二人とも、遠慮はいらないからな」
タマキもやる気があるようで先に広場の中心に歩いていった。
「よし」
まもるが六角形のものを取り出して落とし、それを足で踏むと赤茶色の小型ロボット的なパワードスーツがその身を包んでいった。
「要一君、早く準備したら?」
「わかりましたよ。次元の鉄槌よ! その姿を現し我が手におさまれ!」
その言葉と同時に、要一の手の中に巨大な鉄槌が出現していた。
「へえ、面白いな」
二人の武器を見てもタマキはそう言うだけで特に動じた様子はない。
「要一君」
「わかりました。フォーム! チェーン!」
要一の次元の鉄槌がチェーンに変化し、それがタマキに向かって投げられた。タマキはそれを右腕を上げて防ぐが、チェーンはそこに巻きついてタマキの動きを拘束する。
「アタッチメント! マシンガン!」
バックパックから右手にマシンガンを装着したまもるはそれをタマキに向かって乱射した。無数の弾丸が土を巻き上げ、タマキの姿を隠す。
「なるほどな。これはすごい」
だが、煙が晴れるとそこには全く無傷のタマキが立っていた。その上、タマキは自分の腕のチェーンをいつの間にか外していた。
「でも、このくらいじゃ駄目だな」
タマキは腰に手を当てて、次の攻撃を待つ姿勢になった。要一はチェーンを手元に戻し身構える。そして、まもるは左手をバックパックに伸ばした。
「アタッチメント! チェンソーブレード!」
チェンソーが動く音が響く中、まもるは要一の前に出た。
「要一君、援護よろしく」
「わかりました。フォーム! スピア!」
要一はチェーンをスピアに変えて構えた。
「行きますよ!」
まもるは脚部のジャンプブースターを水平に噴射してタマキに突進する。
「ちょうどいい、考えてた新技いくぜ! メテオフィスト!」
タマキの左腕を燃え盛る岩が覆っていった。そして、まもるのチェンソーブレードとそのメテオフィストが激突して火花が散る。
「まだまだ! ライトニングブレード!」
次はタマキの右手が雷をまとい、刃のような形状になった。
「伸びろ!」
だが、そこに要一のスピアが伸びてきた。タマキはライトニングブレードでそれを逸らせながら、足を踏みしめた。
「二十倍! バースト!」
タマキの足元から爆発が起こり、まもると要一の攻撃をその勢いで弾き返す。タマキはその爆発の勢いのまま二人を飛び越え、その後ろにまわるとゆっくり振り返った。
「どうした二人とも、終わりか」
タマキの言葉に、よろめいていた二人は体勢を立て直した。
「こうなったら」
まもるはバックパックから残りのアタッチメントを排出した。そして脚部からアンカーを地面に打ち込んで体を固定した。
「脚部固定完了。バックパック、キャノンモード変形開始」
バックパックが展開しまもるの頭上に巨大な砲身が構築されていった。
「砲身構築完了。エネルギーチャージ開始」
「じゃあ俺も、フォーム! キャノン!」
要一のスピアが大砲に変化した。
「タマキさん、ちょっと待っててくださいね」
「ああ、そういうことなら早めにな」
三十秒後、要一とまもるの砲身から同時にエネルギー弾と鉄球が発射された。
「いくぞ、サモン」
そうつぶやいてタマキがマントを取ると同時に、それが漆黒に染まる。そしてそのマントがタマキの目の前にひるがえって二発の砲弾を包み込んだ。
「ブリザードストーム!」
それからタマキの目の前に竜巻が発生しマントの中の砲弾を空に舞い上げた。
「ここだ!」
タマキがその竜巻の中に飛び込み、その体を上昇させていく。
「トルネードクラッシュ!」
その勢いのままタマキは足を空に向け、超高速で砲弾にきりもみ状態のキックを炸裂させた。大きな爆発が起こり、数秒後、やはりタマキは無傷で着地する。
「いや、ありえないよ」
要一はなんとかそれだけ言うだけだった。