町
翌朝、タマキとオーゲンは朝食をとっていた。
「それにしても、まさか素手で武装した兵士を倒すとはな。よく鎧の上から打撃を効かせられるものだ」
「まあ、俺の打撃はちょっと特別なんだよ。それよりお前はこれからどうするんだ?」
「そうだな、あの兵士が言っていたことが気になるから、少し調べてみようと思っている。そっちはどうするつもりだ」
「俺は予定通り近くの町だな。まあ災厄の痣っていうのには興味があるから、俺も調べてみようと思ってるけどな」
「そうか、どうせなら一緒に行かせてもらおう」
「一緒にか。まあ旅は道連れって言うしな、俺もそのほうが助かる。よろしくな、オーゲン」
タマキが手を差し出すと、オーゲンはそれを力強く握った。
「おもしろいことになりそうだ」
「俺もそう思うよ」
それから二人は出発の準備をして、族長のもとに向かった。
「もう出発するのかい?」
「やっぱりお見通しか。そうだ、俺はタマキと一緒に行く。それと、一つ聞きたいことがあるんだが」
「災厄のしるしのことだね。なに、それはそのうち現れるさ。あんた達の前にね」
それだけ言って族長はにやりと不気味に笑った。オーゲンは軽く首をかしげてからそれに背を向けた。
「楽しみにしてる。あんた達も達者でな」
それからオーゲンはテントを出て行って、タマキと族長がその場に残された。
「行かないのかい?」
「いや、一つ聞いてみたいことがあるんだ。災厄のしるしっていうのは、どんな力とつながっているんだ」
「この世界を統べることができるものさ」
タマキはその答えを聞いてからすぐに族長に背を向けた。
「本当に短い間だったけどありがとさん」
「なに、いいものを見せてもらったからね。それと、色々と気をつけるんだね、だけど、あの男は信用していいよ」
「俺もそう思ってた」
そう言ってタマキはテントから出て行った。
それからほとんど時間もおかず、二人は集落から出て行っていた。馬に荷物を乗せてのんびり歩いている。
「この調子だとどれくらいで町に着くんだ」
「昼には着くはずだ。何もなければな」
「まあ、のんびり行きたいな」
その言葉通り、二人はのんびりと歩き、時たま行商人や旅人、巡回する兵士等とすれ違ったりもした。
「平和に見えるな」
「まあな。街道はさっきみたいな見回りもいるし、日中は大体安全だ。とは言っても、獣や盗賊なんかが出ることもあるけどな」
「盗賊団とか、いるのか」
「まあそれなりにな。この間依頼で小さいのを一つ潰したんだが、ああいう連中はそれでもまた出てくるだろうよ」
「それは、これから行く町でやったのか?」
「ああ、そうだ。だから宿代は心配しなくていいぞ。報酬は大したことなかったが、いつでもただで泊まれるところなら確保してある」
「それは気前がいいな」
「向こうは俺が頻繁に来るとは思ってないだろ。それに、用心棒をただで使えると考えりゃ安いもんだ」
「なるほど、そりゃそうだ」
それからさらに歩き、ちょうど昼頃に二人は町に到着していた。町は小さいながらも壁で囲まれていて、門には警備兵も立っている。だが、それはオーゲンの顔を知っていたようで、あっさりと町に入ることができた。
「さて、とりあえず宿に行くか。満室ってことはないだろうけどな」
というわけでタマキはオーゲンの後について宿に向かう。その宿はそれなりに大きく、中級と言える感じだった。オーゲンがドアを開けて中に入ると、そこは酒場のようになっていて、奥のカウンターにここの主人らしき中年の女がいた。
「あら、また来たのかい」
中年の女はオーゲンの姿を認めるとそう言った。それからタマキに視線を向ける。
「あんたに連れがいるとは珍しいね」
「まあな。それより、二人ぶんの部屋を用意できるか」
「あんたの頼みなら用意してやるよ。名前はなんだい?」
「タマキだ。よろしく」
「そうかい。まあオーゲンの連れなら大丈夫だろう」
宿の主人はそう言って鍵を放り投げ、オーゲンがそれをつかんだ。
「部屋は三階だ。一番奥の部屋だよ」
「ありがとうな」
それから二人は言われた部屋に行って荷物を降ろした。タマキはその室内、ベッドが二つに小さめのテーブルとしっかりした椅子、それなりに奇麗にされているのを見回した。
「けっこういい部屋だな。これがただっていうことはあんたが潰した盗賊団っていうのはけっこうなものだったんじゃないか」
「まあ普通ならな」
そう言ってオーゲンが椅子に座ると、タマキもその向かい側の椅子に座る。
「俺が相手にしたのは召喚獣を使う五人組だった。強盗をやってて、この辺りを荒らしに来た頃に、ちょうど俺もこの町にいたんだ」
「それで、困った住民から依頼を受けたのか」
「すぐにってわけでもなかったけどな。ただ最初は町の外だったのが、だんだん町中にも連中が出るようになってきた。俺はあまり興味もなかったし、警備兵の仕事だと思ってたから別に手を出さなかったんだが、さっきのばあさんから頼まれてな。腕試しと思って、連中の討伐を引き受けることにしたんだ」
「それから、あっさり終わったのか」
「まあ、五人のうち三人が召喚獣を使ってたから、いい運動にはなったな」
「どんな召喚獣だったんだ」
「そうだな簡単に説明すると、でかい鳥と狼、それと熊みたいのだったな。名前は忘れたが、まあ俺のシルバーファングの敵じゃなかったのは間違いない。召喚獣さえ倒せばあとは町の警備兵でなんとかなったな」
「なるほどな。それでこの宿に無料で泊まれるようになったわけか」
「そういうことだ。もしかしたら、また何か話がくるかもな。それよりタマキ、お前はこれからどうするんだ?」
「今日はのんびり過ごして、明日から災厄の痣について調べてみるさ。噂ぐらいなら聞けるかもしれないし」
「そうか、じゃあ俺は少し出かけてくる。鍵は預けておこう」
「俺も出かけるかもしれないぞ」
「鍵ならもう一つ貰っておくから大丈夫だ。また夜にな」
「ああ」
オーゲンは部屋を出て行き、タマキは一人になった。それからタマキは首からさげているアミュレットに手を触れた。
「サモン、災厄の痣っていうの、お前はどう思う」
「わからんな。だが、よほど大きな力なのだろう。それより、なぜ昨日は魔法をほとんど使わなかったのだ」
「こっちではばれない程度にしておこうと思ってな。俺はあくまでも旅をしてる、腕っ節の強い召喚獣使いだ」
「ふん、まあそれもよかろう。だが、我はあの身体で使えるだけの力を使うぞ」
「まあ、あれで使える力なら不安定な次元っていうやつでも大丈夫みたいだからな。でもまあ、ごり押しっていうのは難しそうだ」