休日と帰還
タマキとカレンはその世界に数日間滞在した。問題を解決したおかげで魔獣はおとなしくなっていたので、その間、特に派手な戦闘はなかった。だが、タマキとカレンはそれなりに忙しい日々を送っていた。
「うーん」
ギルドの裏でセローアは手のひらを上に向けて、小さな火の玉を出していた。それは頼りなげな感じで浮いていて、今にも消えそうである。
「うまくいかなわいわね」
「それはまあ違う世界の魔法だからな。一応できるだけでもすごいんじゃないのか、たぶん」
「でもあなたは全部使えるんでしょう?」
「まあ、相性が良かったんだよ。でも攻撃魔法より補助系のほうが便利だと思うけどな」
「そういうのは苦手なのよ」
「そうか、それじゃ頑張れよ」
タマキはそれだけ言ってその場から離れた。それから町の入り口のドラゴン、ジローの前で立ち止まった。
「よお、元気か」
タマキがその鼻先を撫でると、ジローは軽く鼻息を吐き出し、目を開けてタマキを見てから、そっぽを向いた。
「相変わらずやる気ない奴だな」
それからタマキは町の外れに足を向けた。そこではカレンが要一にナイフ投げを教えている。カレンが投げるナイフは全てが的に当たっているが、要一が投げたナイフは的を外れたり、当たってもうまく刺さらなかったりで、うまくできてるというには程遠い。
「全然駄目じゃない」
それを横で見ていたまもるはあきれたような顔をしている。
「けっこう難しいんですよ」
「カレンさんはできてるじゃない」
「私は昔からやっていますから。それに、タマキさんもこれはできません」
話を振られたタマキは軽くうなずく。
「ああ、俺は武器とかは特に使えない。基本的に魔法かケンカだよ」
「普通勇者とか言ったら、武器とか覚えるんじゃないですか?」
要一はそう言ってナイフを投げるが、それは的を外れた。
「必要なかったからな。大体魔法でなんとかなったんだよ」
「ですよねー」
タマキの実力の片鱗を見ていたまもるは勢いよくうなずく。
「なんで俺は馬鹿力とトンカチだけなんだ」
要一はため息をつくと最後の一本のナイフを投げた。それは見事に的に突き刺さった。
「その調子です。今日はこれくらいにしておきましょうか」
そう言ったカレンは的に刺さっているナイフを回収し始めた。要一も主に地面に落ちているナイフを拾い集める。
「それより、そろそろ昼のことを考えてもいいんじゃないか」
「それでしたら、オーラさんからお誘いを受けています。ギルドで会食をするとおっしゃってました」
「へえ、ならちょっと散歩してから行くか」
そういうわけで、四人はのんびりとギルドに向かった。
そしてギルドに到着して中に入ると、そこにはオーラとケイン、その他のギルド員とそれにエニスが集まっていた。テーブルが中央に集められていて、そこには様々な料理が並べられている。
「おかえりなさい」
エニスが笑顔で四人を迎えた。
「ただいま、というか、ずいぶん短い時間で用意したみたいじゃないか」
要一がそう言うと、エニスは心もち胸を張った。
「しっかり準備したんですよ。ヨーイチさんがまた帰るまえにちゃんとパーティーをやろうって」
「そうなんだ、ありがとう」
「さあ、座ってください」
要一はエニスに座らされ、まもるはそれに生温かい視線を送りながら隣に座った。タマキとカレンはその向かい側に座る。それを見てからオーラはグラスを手にとった。
「さて、今回もヨウイチさんや、そちらのタマキさんやカレンさんのおかげで脅威を乗り越えることができました。とりあえず、こうして来て頂いた異郷の方々にささやかな感謝をささげましょう」
オーラはグラスを掲げた。一同はそれにならい、それぞれのグラスを掲げ、会食が始まった。
「しかし、今回は本当に助かりました。それに、あなた達の力はギルド員の刺激にもなったようですしね」
いつの間にかタマキとカレンの横に来ていたオーラがそう言った。さらに返事を待たずにオーラは続ける。
「本当はほかのギルドの支部からも人を呼びたかったのですが、最近は忙しくてそれもできないのが残念です」
「しっかりと機能しているならば、それはいいことだと思います」
カレンが答えると、オーラは軽く息を吐き出した。
「そうですね。まだまだ発展途上ですが、ギルドもここまで発展しました。このままいけば、何も助けがなくてもなんとかできる日もくるでしょう」
「まあ、そうできないうちはまた来ることもあるかもな」
タマキがそう言うと、オーラは微笑を浮かべた。
「そうですね、その時はまたよろしくお願いします」
そうして会食の時間は過ぎていった。
翌日、タマキ達四人はオーラとケイン、エニス見送られて次元の管理人のところに帰還をしようとしていた。
「ヨーイチさん、用がなくてもまた来てくださいね」
「もちろん。今度はもうちょっとまとまって遊びにくるからな」
「待ってます」
そこでエニスは要一から離れた。それからオーラが一歩前に出る。
「では、また会いましょう」
「ああ、またな」
タマキがそれに手を上げて応えると同時に四人の姿は消えた。