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あなたの声

作者: あくあ

「好きだ。」


その一言をずっと待っていたのに、

あなたは何も言ってくれなくて…

今になってあなたの心の中を知るなんて…

私はあなたを何も分かっていなかった。



「ねぇ…私達…さ、付き合って今何年目だっけ?」

私は誠司の腕に巻き付きながら分かり切ってる質問をした。


「何急に…知らねぇよ。」

彼はたばこを吸いながら素っ気ない返事をした後

私の腕を、自分の腕からすぃっとはずした。


「…(知らないって…)何それ〜…」

はぁ…とため息をつきながら下を向いて、

「そう言うと思ってたけど…」と呟いた。


もう私達が付き合って5年目だ。

かなり冷たいというかクールな彼がよく

しつこい私と5年間も一緒にいるなぁ〜と毎日思う。


はっ!!!……


もしかして…言えないのかな?私のこと振れないのかな?

振ったらストーカーになるとか思ってるのかな???

こんなことも毎日思うのに、やっぱり別れなんてできない…

だって好きなんだもん。大好きなんだもん。


出会いは確か高校の時で、ぇっと…

私が男友達から殴られそうになったときに

誠司が助けてくれたんだった気がする…

細かく思い出せない自分が悔しい!!!


「誠司…」

ただ名前を呼んだだけでは彼は返事などしない。

知ってる。知ってるよ。


「私のこと、好きだよね!!??」

あえて「うん」と言いやすいように聞いた。

ホントは聞くのがすごく怖いんだけど…

明日は私の誕生日…でも明日は会えないから

今日、言葉のプレゼントが欲しかった。

「好きだよ」その一言だけでもいいの。

物のプレゼントなんていらないから…どうか…


「うざい。」



家に着くと、私は電気も付けず、ベットに横たわった。

ただ涙が流れて、何も考えられなかったの…


「別れよ。」


誠司の言葉の後に、こう一言だけ言って私は走って帰った。

どうして?2人の5年間はなんだったの?

誠司…嫌いだった?私のこと…ずっとうざいと思ってたの?


「ぅ…」

声が出てきて、私は朝になるまで1人で泣いていた。

想いは誠司に全く届いてなくって…1人で浮かれてたって…気づいた…



RRRRRR…RRRR



電話は、誠司が事故にあったという知らせだった。


病院にかけつけると、彼はベットで静かに眠っていた…


「意識が…戻らないの…」

誠司の母、美千代さんはそう呟いた。


「なんで…いつ…こんなことに?」


状況が飲み込めず、口からはすぐには思ったように言葉が出なかった。


「昨日の晩に…11時頃かしら…。交通事故にあったって…警察から電話が……」

美千代さんは目がうつろで、今にも倒れそうで…

私と別れたすぐ後に彼が事故にあったというのが

自分のせいだと思ったのもあり、私は何も言えなかった……


今は朝の6時。

美千代さんは母子家庭で、誠司になにが起こったのかわからなく

私に電話するのが遅れたと言った。


「誠司?」

別れようと言ったことに死ぬほど罪悪感があった。

私がもうちょっと一緒にいれば……

私が変なこと聞かなければ……

誠司がこんな事にはならなかったのに…

呼びかけても彼はピクリともしない。


「春美ちゃん…ちょっとお願いしてもいい?」

私が来て少し落ち着いたのか、美千代さんは

ゆっくりと私に話しかけてきた。


「何ですか?」

言葉がかすれて小さく出てきた。


「家に行って、誠司が起きたとき着る洋服持ってきてくれない?」


こくりと頷くと、家の鍵を預かり

4、5回行ったことのある誠司の家にタクシーで向かった。


がちゃ…


中はしんと静まりかえっていて、なんだか切なくなった。


誠司は意識が戻るだろうか…急に頭がそれでいっぱいになって

玄関に立ちすくんだまんま、昨日出し切ったはずの涙を

私は頬に伝わせた…


「誠司ぃ…」


別れたくなんてないよ。嘘だよあんなの。

いわなきゃ良かった。後悔してもムダなのに。ムダなのに。

最悪の誕生日になった…嫌、私がさせたのかもしれない。

あぁ…神様、どうか…どうか誠司を助けて。

好きなんて言葉いらないよ。

私は誠司が隣にいてくれるだけで幸せだったのに。


泣きながらシンプルすぎる誠司の部屋に入ると、

いつもの誠司の匂いがした。

何て言う香水だっけ…思い出せないよ…


ふと真っ白いベットの脇に、写真立てが置いてあるのに気付いた。

前に何度か来たときは気付かなかったのに…隠してたのかな?

そこには私と、苦笑いをしてる誠司がいた。

手に取ると、写真の後ろから白い紙が出てきた。


「なにこれ…」


すっと引っ張ると、不器用な字で一言こう書かれていた。



「春美、ずっと好きだ。」



誠司の字だった。


「ばか……」


私は誠司の何も分かっていなかった。

香水の名前だって、誠司の心の声だって、

何も知らなくて…聞こえていなくて…

言葉にしていなくても、分かっていたんじゃないの?

好きなんて言葉、私のワガママで言ってもらいたかっただけで

私の想いはちゃんと届いていた?

ねぇ誠司……


急いで病院へ戻った。



「誠司!!!」



病室に入ると美千代さんは椅子に座りながら寝ていて

私は彼女の反対側にまわり、誠司の手を握った。


「ゴメンね誠司。別れようって言ったのはなしにして?

 誠司がいないとダメなの。私。5年も一緒にいるんだから

 分かるでしょ?ねぇ。しつこくてごめんなさい。

 ずっと隣にいたいの。あなたの隣で安心して眠りたいの…」


手を握ったまま、私は眠ったらしい。

夢に誠司が出てきて、私の頭をなでてるんだもの。

笑顔で…嬉しくて…

なんでこんなに泣いちゃうんだろう…

誠司は静かに私を抱きしめた。


「春美…好きだよ。ごめんな…不安にさせてばっかりで…

 俺、うぬぼれてた。春美が離れていくはずないって…」


誠司の力は強くなった。

目を開けると、目の前には温かくて、優しい目をした誠司がいた。

彼はそっとこう告げた。



「誕生日…おめでとう…」


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― 新着の感想 ―
[一言] 感想じゃないかもしれないですが、この小説を読んでわかったことは、『相手に対する言葉の重み』を、もっとょくわからなっくてはいけないって、ことのような気がします。私は中3ですが、まだ1人の人とし…
2007/09/29 23:02 三浦 まりあ
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