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雨森倫太郎

異能の治療師が、人の心に潜む闇を祓う現代ファンタジーです。

 ガラス引戸が、ガラガラと賑やかな音を立てて開いたので、俺が玄関に目をやると雨漏り神社の宮司、雨森倫太郎あめもりりんたろうが厳めしい顔で立っていた。


「何だよ爺さん、腰でも悪くしたのか?」


 爺さんは俺の軽口を無視して、「時雨はおるか?」と聞いてきたので、「白川先生なら、今は往診に出てるけど…」と言うと、俺達の会話を聞きつけた詩織が、間仕切りカーテンから顔を覗かせる。


「あら、雨森さんお久しぶりです。今日は治療ですか?」と訊ねる詩織に、「いや」と首を振った爺さんが、待合室の長椅子に寝転がって漫画を読んでいる俺を睨みながら、「時雨に、ちょっとした頼みごとが有ってな…」と言ってから、俺に説教を垂れ始める。


「若い者が昼間からゴロゴロしおって。

学生の本分は勉学じゃろうが。

漫画など読まずに勉学に励まんか。

それに、学校はどうしたのじゃ?」


 こう言って俺の尻を杖で叩くので、その杖を払いながら俺は抗議の声を上げた。


「痛いだろう!止めろよ爺い!

今日は土曜日で学校は休みなんだよ」


 それを聞いても、俺の尻を杖で散々に叩き続けた挙句、「それなら、家に帰って勉学に励め」と説教を追加してくる。


しかし、俺も負けてはいない。


「そういう爺さんはどうなんだよ。

爺さんの本分は神社の宮司なのに、その本分を忘れて、いつも白川先生にお祓いを頼みに来るじゃねえか。

今回も、どうせそんな用事だろう」


 俺が文句を言うと、爺さんは鼻で笑いながら俺の隣に腰を下ろした。


「お前は何も分かっておらぬな。

白川流が、この世界でどういう存在なのかを…」


 それを聞いた詩織が、「どういう存在なんですか?」と聞きながら、丸椅子を引っ張って来て俺達の前に座る。


「この前、白川先生の母ちゃんが訪ねて来て、白川家に戻る戻らないで揉めてたから、俺達にも大体の事情は分かってるぜ」


 俺がこう言うと、爺さんは驚いた顔で俺を見つめて、「こんな小汚い所に京子さんが来たというのか?」と聞いてきたので、詩織は、あからさまにムッとしているが、俺は素直に頷いた。


「白川家は朝廷に医道で仕えた半家と呼ばれる家柄で、今でも世界中のVIPを相手に、ガッポガッポと儲けているって自慢してたよ」


 爺さんは苦笑いを浮かべながら、「当たっておるが、お前が言うと下世話に聞こえるな」と文句を言って、「だが、それだけではないのじゃ…」と前置きをしてから本題に入る。


「さっき小僧が言うたように、朝廷で医療従事者という側面を持っているが、室町時代以前は朝廷から全国の神社を支配する神祇伯じんぎはくに任じられておった。

 それに伴い、非皇族でありながら唯一王号の世襲を許されたことで、絶大な権力を誇っておったのじゃ。

 その後は、その強力な霊力を用いて、朝廷にとって最も重要な、神道の神秘性を高める役割、即ち、全国の神社に依頼されて実際の穢れを祓っておった。

 じゃから、さっき小僧が言うたように、白川家に神社として助力を求めるのは、宮司としての本分なのじゃ。

分かったか」


 俺は、アメリカ人みたいに小首を傾げながら軽く両手を掲げてみせた。


「そんな偉そうに、助けを求める正当性を訴えられても納得できないよ。

爺さんだって宮司なんだから、白川先生にタメを張って、自分でも祓ってみれば良いじゃん」


 それを聞いた爺さんは、苦笑いを浮かべながら大きなため息をついた。


「だからお前は、白川家の事を何も分かっておらんと言うておるのじゃ。

 何故、白川家が非皇族でありながら王号の世襲を許されていたのか…

千年もの間、白川伯王家と崇められていたのか…この意味がお前に分かるか?

 霊力では、この国で彼らの右に出る者など居らんということじゃ。

しかも時雨は、その白川家の中にあって、始祖である伯雨の再来と謳われるほどの天才じゃ。

そんな人間とタメを張ろうと思うほど、ワシは奢ってはおらんわ」


 そこに、タイミング良く白川先生が帰って来たので、爺さんの愚痴が終わって、依頼の話が始まったのだ。


 しかし、俺もその会話に参加しようとして、爺さんから怒鳴られた。


「子供が聞くような話ではないわ!

小僧は家に帰って勉学に励め!」

最後までお読み頂き、本当にありがとうございます。

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