7話 能力者らしい···
不安を隠しきれない瞳で、オレオが見つめてくる。
「村長みたいな、すごい能力があるの……?」
その視線を受け、俺は一瞬だけ目を細め――
次の瞬間、へらりと力なく笑った。
「さあな」
肩をすくめる。
「自分が何者で、どんな力を持ってて……そもそもここがどこなのかも、俺にはさっぱり分からん」
「だからお前に聞いてるんだよ」
あまりにもあっけらかんとした言い方だった。
オレオはきょとんと瞬きを繰り返し、やがて遠慮がちに口を開く。
「……もしかして、ルイは記憶がないの?」
「そんなとこだ。森で目覚めて何度も死にかけたのは覚えてるけどな」
(説明も面倒だし、そういう事にしておこう)
嘲笑しながら、深刻さの欠片もない返事をした。
けれどオレオは笑わなかった。
「そっか……」
小さく呟くと、椀を持つ手を離し、何かを決意するように顔を上げた。
「じゃあ、僕が知ってることなら何でも話すよ!」
素朴で、優しいが力強い声音だった。
「ここはドミリス王国」
「この村はラドゥナ村っていうんだ」
「ルイは何について知りたい?」
俺はオレオの勢いに少し呆気にとられつつも、
「とりあえず、この世界の魔法について···かな?」
と曖昧な返事をした。
するとオレオはコクリと頷き、話し始める。
「魔法はね、最初から使えるわけじゃなくて……ある日突然、目覚めるんだって」
「“魔法”が使えるようになった人達のことを、能力者とか魔法士って呼んだりするんだ」
「火を灯したり、水をきれいにしたりする生活に便利な魔法もあれば……」
「持っているだけで国の“ちゅうすう”に迎えられるくらい、すごい力もあるって大人たちが言ってた」
話しながら、オレオは少しだけ誇らしげに胸を張る。
「この村にもね、生活魔法が使える人はいるよ」
「だから畑とか、井戸とか、いろんなところで助かってるんだ」
幼いながらに一生懸命集めた知識。
それを誰かの役に立てようとする姿は、あまりにも健気だった。
(……能力は後天的に“開花”するタイプの世界か)
俺はオレオに向かって少し首を傾げ、問いかける。
「なぁ、能力者はどうやって自分の力を発動させるのか、わかるか?」
オレオは少し考え込み、
「えっと……手をかざしたり、じっと相手を見たり…?」
「なるほど……じゃあ、呪文とか、何かを地面に書いたりとかはしないのか?」
オレオは首を縦に振る。
「うん、そう。何かを唱えたり書いたりは皆してないよ」
「頭の中で思い描くと力が出せるって言ってた」
――イメージするのか。
「けど、最初に指先に火を灯すことを思い描いて魔法が使えたら、その後はその魔法しか使えないみたい」
能力の固定化。
それに、イメージできないことは能力として開花しなさそうだ。
「あとね、痣みたいなのが体に出ることもあるんだって。光ったりして、力が出てるよって目印になるらしい」
オレオは必死に魔法について説明してくれた。
俺はうん、と小さく息を吐く。
「……なるほどな」
「指先に火を灯せたからといって、後から火力を大きくしたり、その指先から出た火を飛ばしたりはできないんだな」
オレオはにっこり笑い、でも少し誇らしげに頷いた。
⸻
俺は川面に手を触れ、「戻れ」と唱えたあの時のことを思い出していた。
――あのとき、時間操作は発動しなかった。
「戻れ」と言っただけで、川が逆流する姿を具体的に思い描かなかったからか……?
言葉に意味はない。すべてはイメージ次第。
――つまり……。
俺は辺りを見回した後、立ち上がるとオレオの横を通り過ぎ、台所の前に立つ。
台の上にあった腐った葉のようなものを手に取る。
「この腐った葉っぱの名前···わかるか?」
オレオは俺の隣に立ち、顔を覗かせた。
「それはキャベツだと思う···」
思わずニヤリと口元が緩む。
この世界の野菜の姿を俺は知らない。
だが、この世界には地球にいた動物が生き、同じ呼び名で呼ばれていたり、“キャベツ”なんて聞き慣れた名前が飛び出すように、月が2つあることやモンスターや能力者の存在を除けばすごく共通点が多い。
――本当に俺が時間を操作できるなら、この腐ったキャベツの葉を新鮮な状態に戻すことはできるのか?
どこまでできる?
俺は葉を握り、心の中で丸々とした新鮮なキャベツを思い描いた。
すると胸の辺りが一瞬、温かくなったのを感じた次の瞬間、
ドン!!
台の上に丸々とした新鮮なキャベツが落ちた。
まるで時間が止まったかのような静けさ。
キャベツだけが、ゴロゴロと転がり、ゴトンと床に落ちる。
オレオは言葉を失い、目を見開いたままこちらを見つめる。
「え……えっ、今の……なに……?」
声が小さく震える。
どう反応すればいいのかわからない様子だった。
俺はすぐにステータスをオープンし、変化を確認する。
――特徴項目に、「新鮮な野菜の使い手」などというふざけた記載が追加されていた。
驚いたのはTMゲージだ。
99989/99999
1ポイント減ってる!
――初めて自分の意思で魔法を発動した。
触れた物だけ時間を巻き戻し、時間軸には影響を及ぼさなかった。
そして能力を使うと寿命が削られる?
この数値の1ポイントが仮に1年だとすると、これまで9年寿命を縮めた事になる。
いやまて……
そしたら俺にはまだ90000年以上寿命があるってことか?!
この世界において、それがどれほど希少で稀有な能力なのか……。
今の俺には、まだ知る由もなかった。
オレオはしばらく目を見開いたまま黙っていたが、やがて口を開く。
「……すごい……でも、なんで……?」
その問いかけに、俺はわずかに笑みを浮かべた。
「俺にもよくわからないが、どうやら俺は能力者らしいな」




