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5話 村人の生活···

縛られた足を気にしつつ、俺はオレオに案内されながら村の道を進む。

道端には雑草の生えた石畳や、板が敷かれ、心ばかりの舗装が施されていた。


家々は古びて小さく、木枠の窓からは生活の様子が垣間見える。


一軒の家の前では、女性が包丁で少量の野菜を刻みながら、傍らの小さな釜で料理を作っている。


別の家の庭先では、子どもたちが土遊びをし、時折歓声をあげて虫を追いかけていた。


男性は村の中にわずかに見かける程度で、農作業や道具の手入れをしている。


腐った柑橘の匂いは、どうやら村から動物を遠ざけるための工夫らしい。


村人たちは粗末な服を着ているが、手際よく家事や仕事をこなし、生活のリズムがしっかりと根付いていた。


オレオはまだ少し緊張している様子だったが、俺が興味深げに村を見回しているのに気づき、少し肩の力を抜いたようだった。


途中、オレオが「ちょっと待ってて」と言い、道のところどころに落ちている果物の皮や枝のようなものを拾って、古びたカバンにしまい込む。


「お待たせ」


俺はふと疑問に思い、尋ねる。


「この村、男が少ないのか?」


オレオは首を横に振った。


「少ないわけじゃないよ。昼間は森の裾野の比較的安全な場所で狩りをしているから、今は村にいないだけ」


俺は眉をひそめ、さらに聞く。


「狩るって何を? モンスターとか?」


オレオは少し驚いたように笑った。


「森の裾野でモンスターに出くわすことは滅多にないよ。野うさぎや鹿とかだよ」


「なるほど……」


この世界にもウサギや鹿がいるのか。動物の呼び方まで同じなんだな……


「猪とか熊なんかもたまに森から出てくるよ。けど村の近くではあまり見かけない」


俺は頷きながら、縛られた手首を見下ろす。


――昼間に男衆が少ないのは、遠くへ狩りに出ているからか。


「お兄ちゃんの住んでるところはきっと都会なんだね」


オレオは目を輝かせながら言った。

狩りに出なくていい=都会、という認識なのだろう。


話しているうちに、オレオの緊張はすっかり解けていた。


古い屋根の隙間から煙が立ち上り、鍋で煮込まれる食材の匂いと薪の香ばしい香りが漂ってくる。

子どもたちの笑い声、女性たちの作業音、村人たちの穏やかな話し声。

それらが混ざり合い、村全体を生活の空気が包んでいた。


そんな村の端に、オレオの家はあった。

今まで見たどの家よりも一層古めかしく、今にも崩れてしまいそうだ。


畑には野菜の姿はなく、ところどころ雑草が生い茂っている。

長い間、手入れがされていないのが一目でわかった。


オレオは畑の横に無造作に転がっていた鎌を拾い上げると、俺の手足を縛っていた縄を切り、順に解いていく。


「手の縄も外してくれるのか?」


「うん、だってお兄ちゃん、悪い人には見えないから」

そう言うと、ニッコリと笑う。


――晴れて自由の身になった。


オレオはカバンから小さな袋を取り出し、俺へぐいと差し出す。

覗き込むと、そこには一日分の食料が入っていた。


「すぐ村を出ていくの?」


正直、俺はこのまますぐにでも村を出て、情報収集のために大きな街へ向かいたい。


だが、小さな村でこの有様だ。

この世界の情報をほとんど持たないまま、いきなり大きな街へ行くのは無謀に思える。


少し考えたあと、俺は口を開いた。


「……なあ。飯でも食いながら少し話をしないか?」


ぱっとオレオの表情が明るくなる。


「うん!ちょっと待っててね!」


そう言うと、家の横に並べてあった薪を両手で抱え、家の中へ飛び込んでいった。


「ただいまー!」


大きな声が家の中から響く。

そして誰かに話しかけているような声も続いた。


家の中に人の気配は感じないのだが……中に親がいたのだろうか?


自分の子どもがいきなり見知らぬ大人を連れてきたら、普通は驚くよな。

大丈夫なのか?


そんなことを考えながら、俺は言われた通り外で待つことにした。


しばらくすると、間口からオレオがひょっこり顔を出した。


「入って!」

まるで友人を招くかのように手を振りながら元気な声で呼ぶ。


俺はゆっくりと家の中へ足を踏み入れる。


家の中は薄暗く、壁も床も古びていた。

ところどころ板が歪み、長い年月を耐えてきた家だということが一目でわかる。


部屋の中央には簡素な木の机と椅子。

隅には小さな炉があり、オレオが抱えてきた薪を放り込んでいる。


「大した物じゃないけど、すぐ作るから座ってて!」


オレオは慣れた手つきで鍋を取り出した。


俺はふと家の奥へ視線を向ける。


外で待っている時、確かに聞こえた誰かと話す声。


「……なぁ」


俺は口を開く。


「さっき、誰かと話してなかったか?」


オレオの手が一瞬だけ止まった。

それから視線を少し下げる。


「うん」


小さく答えると、水瓶から水をすくい鍋へ入れた。


「母さん」


俺は黙って続きを待つ。


少しだけ振り返り、家の奥を指さした。


「奥で寝てるんだ」


視線の先、薄い布が掛かった簡単な仕切りの隙間からベッドらしき物が見える。


「ずっと、体が弱くて」


火がぱちぱちと小さく鳴る。


「外にはあまり出られないんだ」


オレオはそれ以上暗い顔をすることもなく、再び鍋へ視線を戻した。


「よし!材料を入れるね!」


そう言ってカバンを開く。

中から取り出したのは、さっき道中で拾っていたものだった。

傷んだ果物の皮や、木の枝はよく洗い手際よく陽の当たる場所へ吊るしている。


さらに――小さな山菜。

細い根の何か。

見慣れない葉。


それらを洗い次々と鍋に入れていく。


湯気がゆっくり立ち上る。


俺はその様子を見ながら、ちらりと奥のベッドの方を見た。

かすかに、人の寝息のような音が聞こえる。


――本当にいるのか。


少なくとも子どもの作り話ではなさそうだ。


俺はすぐに視線を外した。

この親子の境遇など知る必要はない。


今必要なのは――

この世界がどんな場所なのか。

どんな魔法があるのか。

どこへ向かえば効率よく情報を集められるのか。


それだけが重要だ。

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