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30話 才能···

湯気の立つ皿と、チーズを挟んだパンや果物が簡素な木の机に並べられていく。


小さな家の中に、トマトの酸味と肉の香りが広がっていた。


鶏肉と野菜のトマト煮込み。


ちゃんとした料理を前に有難みを感じる。


エレナは手際よく真新しい皿やスプーンを配り、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


昨日まで命の淵にいたとは思えないほど、その動きはしっかりしている。


「材料をたくさん使わせてもらったから、張り切って作っちゃった」


柔らかい声とともに、全員の前に皿が揃う。


オレオは目を輝かせていた。


「すごい……いい匂い……!」


我慢しきれない様子で、スプーンを握りしめている。


「ちゃんと冷ましてから食べなさいよ」


エレナが優しく言うと、


「うん!」


元気よく頷く。


子供らしい表情に、思わず小さく息が漏れる。



俺はスプーンを手に取り、一口すくう。


口に運ぶと——


「……うまいな」


自然とそう言っていた。


味はシンプルだが、ちゃんと作られている。


エレナは嬉しそうに笑った。


「よかった……」


その笑顔を見て、オレオが満足そうに頷いている。


まるで自分のことのようだ。



食器の触れ合う音と、穏やかな空気。

オレオはこの村を出てからの事を嬉しそうに話した。

ボブから貰った騎士人形は大切に棚に飾られている。

昨日までの事を、まるで夢の中の出来事のように無邪気に話す。


話が終わると、やがて——


エレナがゆっくりと姿勢を正す。


「……改めて」


静かに、俺を見る。


「私はエレナと申します」


落ち着いた声。


「旅の途中にも関わらず、私たち親子を救ってくださりありがとうござきました」


そのまま頭を下げる。


今度は仰々しいものではない。


だが、その奥には確かな想いがある。


「俺は、アマギルイです···」


(·······)


俺も何か返さなくては···


と思考をフル回転させていると─


「……そういえば」


オレオがふと顔を上げる。


「なんでルイは母さんの名前、知ってたの?」


ぽつりとした疑問。


全員の動きが、わずかに止まる。


確かに、昨日から俺はオレオの母親をエレナと名前で呼んでいた。


「……あー」


少しだけ言葉を探す。


(まぁ、隠す意味もないか)


「……見えるんだよ」


素直に答える。


「人の情報が」


オレオが首を傾げる。


エレナとシルも静かにこちらを見た。


「名前とか、寿命とか、スキルとか。あと特徴」


淡々と並べる。


「そういうのが、見える」


「……ステータスみたいなもんだ」


案の定、伝わってない顔だ。


すぐに、オレオだけが"ステータス"と言う言葉にピンときた表情を見せた。


「まぁ、“情報が見える”って認識でいい」


そう言い換えると——


「……どこまで分かる?」


とシルがすぐに反応した。


「そいつがどんな奴か大まかに分かる」


「そんな感じだ」


数秒の沈黙。


シルの中で、何かが繋がったのが分かる。


「……なるほどな」


ぽつりと落とす。


「レイグの能力見抜いたのも」


「あたしのこと最初から詐欺師とか言ってたのも——それか」


疑う素振りもなく受け入れた。


そして——


ほんのわずかに、視線が落ちる。


「……じゃあさ」


静かに口を開く。


一瞬だけ間を置いてから、


「……アンタが言ってた、アタシの寿命も」


確かめるように続けた。




「……ああ」


「見えてた」



小さく呟く。


あの時は流した言葉。


けど今は——違う。


「あと十年くらいと言ったが、正確には十二年だ」


はっきり言い切るとその瞬間、シルの指先がわずかに止まる。


だがすぐに——


「はっ……」


鼻で笑った。


「随分と短命じゃねぇか、アタシ」


「べつに長生きしたいとも思っちゃないがね」


そう言いながら食べ物を口に詰め込んだ。



俺はそこで、少しだけ言葉を挟む。


「勘違いすんなよ」


シルが目だけを向ける。


「寿命は“確定”じゃねぇ」


空気が変わる。


「早まることもあるし、延びることもある」


「死因を回避すればな」


視線をエレナに向ける。


「今回は、それができた例だ」


エレナは静かに頷いた。




シルはその様子を見て——


小さく息を吐いた。


「……なるほどな」


今度は、少しだけ柔らかい声。


「じゃあまだ、どうとでもなるってことか」


「まぁな」


俺は短く返す。


「お前次第だ」


シルは少しだけ黙ってから、


「……そりゃいいこと聞いた」


と静かに呟いた。


「少なくとも今は──お前と一緒にいても死なずに済みそうだな」


と皮肉っぽく笑って見せた。



「今はって···お前いつまで俺につき纏う気だよ」


「あ?お前に付き纏う?」


クククと笑った。


「今のアタシは天使オレオにくっついてるんだ!」


「勘違いしてんじゃねーよ!誰が死神に付き纏うか」


(化け物とか死神とか····ほんと、ろくな例えしねぇな)


「でもさ──」


そのやり取りにオレオは戸惑いつつ声を上げる。


「ルイって魔法いっぱい使えるよね?」


全員の視線が集まる。


「普通、最初に使えた一つじゃないの?」


シルも腕を組む。


「……そこだよな」


「能力者の扱う魔法は一つ。それが常識だ」


鋭い視線が向く。


「なんでお前は、能力が二つもある上に、魔法がいくつも使えんだ?」


「あー···」


少し考えて、


「ステータスは能力とは違う初期装備みたいなもんだ」


沈黙。


「……は?」


シルが固まる。


オレオもエレナも、完全に“?”だ。


「最初からついてる能力ってことだよ」


「特別なもんじゃない」


「いや特別だろ」


即座に返される。


「能力は一人一つだぞ」


「魔法も、最初に発動したやつしか使えない」


シルはそれが常識だと言わんばかりに眉をひそめる。


「本当にそうなのか?」


俺は逆に聞き返した。


「ステータスが見れるのは例外として、俺の能力は厳密に言えば時間"操作"魔法だ」


「これしか戻せない。みたいな決まりはない」


「傍から見れば複数の魔法を使ってるように見えるだろう」


「オレオの話やシルの話を聞くと、魔法は一度使った効果で固定化されるってのが常識なんだよな?」


オレオが頷く。


「確かに、能力によってはそれもあるだろうけど、そうじゃない能力もあるんじゃないか?」



「本当は他にも使えるのに、その常識のせいで一つしか使えないと思い込んでる」


俺はいつになく真剣な顔で言う。



「そんなわけ···」


シルが言いかけて、そんな事が有り得るのか?と言いた気な目に変わる。


「オレオ、お前の能力はなんだと思う?」


「えっと···元気のない人に、元気が出るようにできる能力···?」


「そうだな」


(……ずっと違和感があった)


俺は、表情を変えないまま考えていた。


視線は皿に落としたまま。


(ステータスは——更新される)


これまで見てきた限り、間違いない。


魔法を使って何かすれば、特徴に内容が追記される。


他にも経験や行動に応じて——少しずつ。


(なら……)


オレオのステータスを思い出す。


スキルは希望の息吹。


そして——


あの“特徴”。


生命の源。

希望の芽生え。

成長を促す者。

改心への導き

万物への影響力——


(いつ開花したのかは不明だが……項目が多すぎる)


10歳の子供にしては、あまりにも。


ふと、思考が繋がる。


オレオは、自覚していない。


だが——


無意識のうちに、能力を使っていたとしたら。


母親の側にいた時間。


衰弱していく身体。


それを、必死に支えようとしていたはずだ。


(その過程で——)


いろんな能力を使い続けていた。


知らないまま。


繰り返し。


結果として——


“特徴”として、蓄積された。


(……あり得るな)


オレオと一緒に街へ行った時もそうだ。


何故かオレオに触れると、強く心が揺さぶられる時があった。

俺だけじゃないはずだ。


これまでの事を思い出す。


オレオの感情が大きく動いた時


玩具屋のボブも、女憲兵も。シルも。

誰もが知らないうちにオレオの能力に"影響を受けいてた"可能性がある。


飲み屋のガラの悪い連中ですら····

最後には改心したかのような表情をしてた。


もちろん触れば効果は最大値なんだろうが。


希望を持ったり、改心したり、心が成長したり····

万物にそんな影響を与えるスキル····


オレオの近くにいれば、そいつにとって必要なエネルギーが満たされていく。

だから、こいつを守ってやりたいとすら思えてくる。

発動条件は不明···


(オレオの方がよっぽど神の遣いっぽいじゃねぇか···)



視線をわずかに上げる。


目の前では、オレオが夢中で料理を口に運んでいた。


頬を緩めながら、嬉しそうに食べている。


その姿は、どう見ても普通の子供だ。


(……だが)


あの光。


あの変化。


そして——あのステータス。


確信に近い違和感が、胸の奥に残る。



「……どうかしたの?」


エレナの声で、意識が戻る。


「オレオの才能についてだ──」


「オレオの才能?」


エレナがキョトンとした表情を見せる。


「あぁ、試したい事がある」



俺はオレオを連れて外へ出た。



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