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3話 条件不明すぎる···


·····変わらない冷たい水の感触。

ただそれだけ。


(はずっ!)


誰に見られていたわけじゃないが耳が熱くなる。


──でも、おかしいだろ。

スキルにはちゃんと時間操作魔法とある。


絶対使えるはずだ。

物体に干渉する魔法じゃない?

それとも、何か決められた呪文があるのか?


発動はいつも“死の直前”だったよな?


なにか条件が───


「まさか····魔法の発動条件は俺の死だったり……」

そう考え青ざめた。


時間操作で死を回避できる能力。


だとしたら……

永遠に終わりのない人生?


嫌な想像だけが膨らんでいく。


俺にとっては拷問に等しい能力。


これからどうすればいいのか……

俺は小高い丘を登った。


空は黒いキャンバスとなり、宝石を散りばめたように星が瞬く。


地球にいた時よりも月は近くに見える。

月のすぐ隣に蒼く光を放つ、もう一つの小さな月?


転生前に見ていた夜空と似ているようで少し違う。


夢であってくれとどんなに願っても、

お腹は空くし、眠気も強い。


遠くで獣の鳴き声が響く。


「ここが異世界なら……ドラゴンとかもいるのかもな……」


現実味のないセリフすぎて、言った傍から泣きたくなる。


ため息をつきながら夜空から視線を下の方へ向けた。


森の先に、点々と光が集まる場所が視界に入る。


その先へさらに視線を進めると、広範囲で光が集まる場所があった。


文明があることは明らかだった。


「まさか……こんな近くに人がいたのかよ!」


いや、ここが異世界なら、あそこに居るのが人かどうかもわからない。


最初は何もない地獄に落とされたのかと思っていた。


だけど、人がいるなら……

この世界の仕組み、スキルについて、色んなことがわかる。


それを知れば、この呪いみたいな能力に抗うことができるかもしれない。


淡い希望が胸に灯った。


俺は光が見えた方向へと勢いよく走り出した。



────




深い森へ足を踏み入れて間もなく、“それ”は現れた。


「本当にモンスターがいるじゃん……!」


思わず感動混じりの声が漏れる。


低いうなり声。

闇の中で光る赤い目。


月明かりに照らされ、姿が露わになる。


全身を黒い毛に覆われ、

湾曲した牙と角を持つ猪型のモンスター。


だが、その目は俺の知ってる野生の獣のそれじゃない。

禍々しい光を宿している。


次の瞬間、モンスターが地面を蹴った。


速い。


反射的に体を捻ったが間に合わない。


次の瞬間に視界が砕け散った。


気づけば俺は、深い森へ入る前のけもの道に立っていた。


「やっぱり生き返った····」


再び同じけもの道をとぼとぼ歩きだし、先程モンスターと出くわした場所まで辿り着く。


鼻をつく獣の匂い、ガサガサと何かが忍び寄る気配……


さっきとまったく同じだ。


怪しく光る赤い眼光が再び俺を捕らえた。


さっき体験した出来事がそのまま繰り返される。


今度はモンスターの突進を回避できたが、回避して逃げようとしたところを背後から飛びかかられ、強烈な痛みが背中に走る。


気がつけばまた、けもの道に立っている。


「くっそ! まじでクソだわ!」


「俺バカ?! スキルが時間操作なんだぞ? 蘇ってるんじゃなくて時間が巻き戻ってんだよ!」


「そのまま同じ道を進めば、また同じ猪モンスターに出くわすよな?!」


「そりゃそーだ!」


叫ばずにはいられない。


今まで変化のない場所で、死と生を繰り返していたせいで、想像力や思考力が低下していた。


蘇ってたわけじゃない。

時間操作魔法が発動して時間が戻ってるんだよな!


再確認するかのように、心の中で納得する。


そこから最初のルートを迂回して渓谷沿いを進み、確実にモンスターを回避した。

同じ失敗は繰り返さない。


これで安全だな。


そう思っていたのに。


「……うそだろ」


茂みを突き破る轟音。

現れたのは、さっきの個体よりも一回りどころか二回りはデカい、猪モンスターだった。


隆起した筋肉。

地面を抉る鋭い蹄。

湾曲した牙は、もはや槍そのもの。


この森は、こんなのが何匹もいるのかよ!


突進。


突き進む衝撃だけで木々が大きく揺れ、空気が震える。


俺は横に飛んだ。

回避は間に合った……はずだった。


「が、はっ……」


遅れて走る激痛。

腹部が熱い。

視界の端で、鮮血が霧みたいに飛び散った。


それが致命傷だということはすぐに理解できた。


「……もう殺されねぇぞ」

俺はモンスターを睨み、足に力をこめる。


降り出しに戻るのは絶対に嫌だ!


蹄を振り上げ、背後から突進してくるモンスターの動きを俺は確認した。

そしてギリギリまで引き付ける。


それと同時に、渓谷の狭間にある、人が一人立てるかどうかの足場に飛び降りた。


猪モンスターは俺の姿が突然消え、驚き、その巨体を制止することができずに深い谷間へ真っ逆さまに落下していく。


「ざまぁみろ!!!!」



─────


さすがに学習した俺は、今度は如何なるモンスターとも遭遇しないことだけに神経を尖らせた。


息を殺し、

足音を消し、

気配を読む。


自分から発せられる血なまぐさい臭いは、土や臭いの強い葉を使って軽減させる。


そこから時間をかけ、深い森を慎重に抜ける。


何日経ったのだろう?

それすらわからないが……


ようやく人の気配が漂う場所まで辿り着いた。


そして、ここに辿り着くまでにわかったことがある。


二匹目のモンスターに遭遇する前の道中、俺は“もう一度”餓死した。


にもかかわらず、


餓死した場所から別の場所へ移動した形跡はなかった。

肉体のみが健康な時点に巻き戻るだけだった。


ぽつりと独り言が漏れる。


「死因によって“戻り方”が違う?」


そしてもう一つ。


モンスターにやられた腹の傷を押さえながら歩いていた俺は、ふと違和感に気づいた。


痛みがない。


ボロボロにほつれた服も、いつの間にか穴のない状態に戻っていた。

服をめくると、そこにあったはずの深い裂傷は、

まるで最初から存在しなかったみたいに消えていた。


傷跡すらない。


あれ程の痛みだ。

普通の人なら、傷が消えた時点で違和感に気がつくはずだ。それなのに俺は、気づけない。


特徴:鈍感


「……なるほどな」


俺は痛みや恐怖への感覚が、人より鈍いのかもしれない。


それに、


致命傷ではあったが、

その傷が原因で“死にかけて戻った”記憶はない。


「なんかしらの効果が発動して傷が消えた?」


死=時間操作の発動条件だと思っていた。


けど違う可能性が出てきた。


例えば、壊れた肉体の一部だけを“過去”に戻す。


そんな芸当も可能なんじゃないか?


「いやいや……なんだよそれ」


今考えている可能性がチートすぎる上に、どうしてそうなるか現状を理解するには複雑すぎる。


単にすり込んた葉っぱの効果かもしれない。

モンスターがいる世界だ。何でも有り得る。


「転生前の説明も、チュートリアルも無しかよ……」


俺は舌打ちをして、捨て台詞のように呟いた。




森を抜けてしばらく歩くと、ようやく小さな村が見えた。



「やっと着いたか!!」

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