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25話 シルの覚悟···

昼も夜も食いっぱぐれた上に、さっきまでの言い合いに疲弊して——シルはぐったりとした目で俺を見てきた。


「……腹減った」


力なく呟く。


その横でオレオも自分の腹をさすっている。


(まぁ……そりゃそうだよな)


まともに飯を食う余裕なんてなかった。


オレオはカバンに手を入れると、


中からリンゴ、パン、バナナ、チーズを取り出す。


「オレオ! お前ってやつは!!」


シルの目が一気に輝いた。


さっきまで死にかけみたいな顔してたくせに、現金なやつだ。


すぐに手を差し出してくる。


だがオレオは、シルにどれを渡せばいいのか分からず、少し困った顔で固まった。


その様子を見て、俺は手を上げる。


「待て」


ピタッと動きが止まる。


次の瞬間——シルがギロリと睨んできた。


今までで一番、殺意に近い目だ。


「……金は払うよ」


低い声で言う。


オレオがちらっとこっちを見る。


何か言いたそうな表情で、口をつぐむ。


俺はシルに向き直る。


「短剣、出せ」


「は?」


一瞬で顔が険しくなる。


「バカか! これと交換は絶対しない!!」


食い気味に拒否。


「交換じゃねぇよ、借りるだけだ」


シルは一瞬だけ迷ったあと、渋々と短剣を差し出す。


「……貸すだけだぞ?」


念を押すように言う。


「分かってる」


受け取って、俺は食べ物を切り分けていく。


リンゴもサンドウィッチも、きっちり四等分。


バナナもチーズも同じだ。


「……細けぇ性格してやがる」


シルが呆れたように言う。


「てかアタシの短剣を包丁代わりに使うな」


文句は言うが、目はしっかり食い物を追ってる。


(正直だな)


その横で——オレオはもう分かってる顔をしていた。


俺のやることを。


切り分け終えたそれを見て、俺はそのまま魔法を使う。


ほんの一瞬。


バラバラになったそれぞれが、バラバラの状態のまま元の形に戻っていく。


リンゴも、パンも、チーズも、バナナも——すべて元通り、個数が増えた。


元に戻したものを、そこからさらに“増やす”ことはできない。


でも——バラしたものを、それぞれ元に戻すことはできる。


その可能性に気づいた。


「……は?」


シルが固まる。


目だけが動いている。


「それも……時間魔法か?」


「まぁな」


軽く答える。


オレオとシルに手渡す。


オレオは素直に受け取って、嬉しそうに頬を緩めた。


シルは——


しばらく手の中のそれを、まじまじと見つめていた。


「……めちゃくちゃな能力だな……」


ぽつりと呟く。


そして、俺を見る。


「それに……お前もめちゃくちゃだ」


呆れたような声。


「こんな事で自分の寿命削るとか……ありえねぇ」


少しだけ眉をひそめる。


「食いもんなんて金出して買えば済むのに、わざわざ……」


そこで言葉を切った。


それ以上は言わない。


でも分かる。


“常識の外の人間を見る目”だ。


(まぁ……そうだろうな)


たぶん——いや、間違いなく、

俺以外の能力者なら、こんなことに力は使わない。


心の中でそう思いながら、俺は小さく息を吐いた。


(……で、どんくらい減った)


ステータス、オープン。


視界に画面が浮かぶ。


名前:天城 塁 TM:99683 / 99999

スキル:時間操作魔法

特徴:甘ったれ/無趣味/鈍感/死にたがり/新鮮な野菜の使い手/進化の針を進める者/リホーム技術者/個体増殖/そこそこの知能


(……あれ?)


思ったより減ってない。


ちょっと期待してたのに。


(てか待て)


「リホーム技術者って……詰所のやつか?」


思わず眉をひそめる。


(あと——そこそこの知能ってなんだよ!)


(誰が評価してんだこれ)


(更新してる奴がいるなら出てこい! 普通に失礼だろ)


内心で毒づいたところで、画面が消える。


顔を上げると——


シルとオレオは、すっかり満足した顔をしていた。


オレオは残った一セットを、大事そうにカバンへ戻している。


「……食わせてもらってこんなこと言うのもあれだけどよ」


シルが口を開く。


「こんなくだらない事に能力使ってたら——明日にはお前がポックリいくんじゃねぇの?」


オレオも不安そうに俺を見る。


その視線を受けて——

俺は乾いた笑いを漏らした。


「大丈夫だよ」


肩を落としながら言う。


「俺、寿命九万年あるから」


「は?」


シルが眉を吊り上げる。


「冗談言うのも大概にしろ」


普通にキレられた。


(いや冗談じゃねぇけど……)


横を見ると、オレオは何が本当で何が冗談なのか、完全に分かってない。


俺は軽く手を振った。


「はいはい、心配してくれてサンキューな」


棒読みで言う。


「まぁ——これでよく分かったよ」


シルが、ぽつりと言った。


「お前らが一文無しでも平然としてる理由がな」


シルはこっちをじっと見ながら続けた。


「時間魔法の実態は、よく分かんねぇ。でも——自分の想像を軽くぶっちぎってるってことは、よく分かった」


シルが小さく息を吐く。


「どうりで……アタシが、お前の“匂い”に引っかかったわけだ」


「……は?」


思わず顔をしかめた。


(こいつ何言ってんだ?)


完全に不審者を見る目になる。


するとシルは慌てて手を振った。


「ちげぇちげぇ! そういう意味じゃねぇよ!」


「その目やめろ!」


(いや普通そうなるだろ……)


シルは一度咳払いして、仕切り直す。


「アタシの能力はな——」


少しだけ得意げに言う。


「“幸運”を嗅ぎつける」


「匂いで分かるんだよ」


シルは鼻を指でトントンと叩いた。


(そういえば、こいつのステータスにそんなこと書いてあったな)


「濃ければ濃いほど——関わればデカい見返りがある。ただしその分、リスクもデカい」


(ハイリスクハイリターンってやつか)


「で、お前な——」


ビシッと俺を指差す。


「濃いとかそういうレベルじゃねぇ。外まで漏れてんだよ」


「……は?」


思わず自分の服の匂いを嗅ぐ。


(いや、普通に無臭だろ)


「違うって言ってんだろ!」


シルがツッコむ。


「比喩だ、比喩!」


「紛らわしいんだよ……」


「とにかく!」


シルは腕を組んだ。


「アタシはそうやって“当たり”を引いてきた。でかい魚をな」


ニヤッと笑う。


「まぁ、その分何回か死にかけてるけど」


(軽く言うなよ……)


「幸運と不運は紙一重だ」


シルの目が少しだけ真面目になる。


「欲をかきすぎればあっという間にカードがひっくり返る」


「雲行きが怪しくなったら——即撤退。それが鉄則」


「けどな..不幸の中に大きな幸運が隠れてる事が稀にあるんだよ」


「どこまで乗るか、どこで降りるか─それを決めるのは、自分の目利きと覚悟次第」


「あたしは大きな魚に成りそうな奴らに貸しを作って、大きくなったところで返してもらいにいくのさ」


「貸しが大きい程、リターンもでかい」


「なるほどな」


俺は適当に相槌を打つ。


こいつの目的はそこだったのか。


「で——今は?」


シルは一瞬だけ黙ってから、鼻に意識を集中させる。


鼻先に淡く、やがて濃く浮かび上がる模様。それは僅かに光を放つと、すっと消えた。


ニヤリと笑う。


「……絶賛幸運臭大放出中だな」


「正直、この先何が待ってるのか……未来がどうなるのか……恐いレベルだ」


小さく呟く。


「けど……」


オレオを見る。次に俺へ視線を移す。


「何故か希望が湧いちまう。お前らに関わることで、下手すりゃ今回こそ死ぬかもしれない」


「けど、それでも——アタシは」


「お前らに賭ける」


「途中で逃げる気は?」


「ねぇよ」


即答だった。


「憲兵の分隊長まで巻いて、ここにいるんだ」


「それなのに、今のとこアタシには何の旨みもないからな──最後まで乗るさ」


ニヤッと笑う。


「じゃねぇと損だろ」


(……まぁ、そういう性格だよなこいつ)


オレオがそのやり取りを横で聞きながら、


「すごいね……!」


と素直に感心している。


「匂いで分かるんだ……」


「まぁな」


シルは少しだけ得意げだ。


その横で、俺はもう一度だけ自分の服の袖を嗅いだ。


「こううん臭....」


(……やっぱ何も匂わねぇんだけどな)


「だから違うって言ってんだろ!!」


即ツッコミが飛んできた。


(騒がしい奴...)


でもまぁ——


悪くない空気だった。


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