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24話 馬車の中、仲良しな?2人···

裏門付近に到着すると馬車は一旦停止した。


御者には——ラドゥナ村までと伝える。


「承知いたしました」


それ以上は何も聞かない。


ラドゥナ村という地名を出しても、顔をしかめたり、詮索する様子は一切ない。


ただ命じられた通りに——手綱を握る。


(徹底してるな……)


余計なことは聞かない。


それが“正しい態度”だと理解してる動きだった。


直後——馬車が走り出す。


ガタン、と軽く揺れたかと思えば、


すぐに加速。


(……速ぇな)


体感で分かる。


だが、不思議と不快じゃない。


揺れはある。


それでも、跳ねるような荒さはない。


衝撃をいなしている。


無理やり飛ばしてるわけじゃない。

制御されてる速さだ。


最低限の乗り心地を保ちながら、限界ギリギリを攻めてる。


御者の技術が、そのまま伝わってくる。


窓の外を見る。


さっきまでいた街が——


みるみる小さくなっていく。


門。


壁。


建物。


すべてが遠ざかる。


(……マジで速いなこれ)


体感で分かる距離の進み方。


その横で——


「す、すごい……!」


オレオが窓に張り付いていた。


目を輝かせて、外を見ている。


「速い……こんなに速いの、初めて見た……!」


完全に子供だ。


いや、子供なんだけど。


(まぁ、そりゃそうか)


荷馬車とは別物だ。

揺れるだけで、進むのは遅い。


それが当たり前の移動手段だったはずだ。


(これなら——)


頭の中で計算する。


荷馬車で六時間。


この速度なら……三時間は縮むな。


感覚的に、それくらいはいける。


ふと、

(各駅と特急みたいなもんか)


そんな例えが浮かぶ。


つい数日前まで満員電車に揺られてた自分。

それが、遠い記憶のように感じる。


(……なんか、もう別の人生だな)


苦笑が漏れた。



「……なぁ」


ずっと黙ってたシルが、いきなり口を開く。


視線を向けるとやけに真剣な顔。


「アタシを……このまま、どうする気だ?」


(……は?)


意味が分からなかった。


「どうするって……」


聞き返そうとして気づく。


こいつの顔...


本気で言ってる。


まるで、誘拐されて軟禁されてるかのような

怯えた表情。


「……っ、はは……っ」


込み上げるものがあった。


我慢しようとしても無理だった。


「っ、ははははははは!!」


盛大に吹き出す。


腹を抱える。



「お前……っ、何言ってんだよ……!」


涙が滲む。


「どうするもこうするも——」


息を整えながら言う。


「勝手についてきてんのお前だろ!」


指を差す。


「こっちは頼んでねぇぞ!」


シルの眉がピクッと動く。


「……っ」


言い返せない顔だ。


畳みかける。


「好きなとこで降ろしてやるよ」


軽く手を振る。


「帰りゃいいだろ」


あっさり。


本当にそれだけの話だ。


だが——


シルの表情は変わらない。


ギリッ、と歯を食いしばる音がした。


「それなら……あたしも、お咎めなし?」


片方の口角をわずかに上げる。


試すような言い方。


(……は?)


「なんだよそれ」


思わず素で返す。


「何の話だよ」


しばらく沈黙。

シルはじっとこっちを見ている。


そして——


(……あ)


理解した。


(こいつ……)


詰所でのやり取り。


俺のこと本物の貴族と思ってやがる。


自分が不敬な事しまくってるから処刑されると思ってんのか?


(自分で言ったハッタリに、自分で引っかかってんのかよ)


一瞬、間が空いて——


「っ、はは……っ」


また来た。


今度はさっきよりデカい。


「ははははははは!!」


完全にツボに入った。


腹が痛い。


「お前……っ、それ本気で言ってんのかよ……!」


シルがムッとする。


だが、それすら面白い。


(いや無理だろこれ)


止まらない。


自分で作った作り話に、本気でビビってる。

可笑しくて仕方ない。




その空気に——


「ねぇねぇ!何の話!?」

オレオが身を乗り出してきた。


俺は一旦呼吸を整える。


「いやな——」

冷静に話そうとしたが顔がニヤけてくる。


「盛大な勘違い詐欺師の話だよ」


「はぁ!?」


すぐさまシルが噛みつく。


だが俺は無視した。



わざと間を取る。


「相手を騙すために、ツレを貴族に仕立て上げて」

「動揺した相手に、不敬罪だの、全員首が飛ぶだのって、やたら物騒なこと言い出した奴がいて....」


「おい待て!!」


シルが食い気味に止めに入る。


それでも続ける。


「意気揚々と脅してたのに——」


「やめろって!!」


「その直後に——」



俺はニヤリと笑う。


「相手を騙すためについたハッタリを自分自身が信じ込んでビビり散らかしてんの」


「っっ……!!」


シルの顔が一気に赤くなる。耳まで真っ赤だ。


「テメェ……!!」


拳を握る。


「誰だってああなるだろ!!」


バン、と座席を叩く。


「……あんなの見せられて、冷静でいられるかよ!!」


本気で怒っている。


「アタシがマヌケなんじゃねぇ!」


ルイに指を突きつける。


「お前が異常なんだよ!!」


(まぁ、それはそう)

ウンウンと頷いた。

だがニヤける顔は止められない。


「で、最後に極めつけな」


まだ笑いを堪えながら続ける。


「“あたしもお咎めなし?”だと」


「お咎めありだろ!面白死刑!」


「っっ……!!」


シルの顔がさらに赤くなる。


言葉に詰まる。


「いやー、今のは傑作だったな」

俺は腹を押さえながら笑った。


「くっ……」


シルが歯ぎしりする。


そして少しだけ間を置き——


「……で?」


さっきより低い声。


「本当に違うんだよな?」


まだ言うのかこいつ....やめろって。



「.....三大公爵家」

シルはまっすぐな目で続けた。


「お前、そこの人間じゃねぇんだよな?」


(……三大公爵家?)


俺は内心で首を傾げる。


「……なんだそれ」


素で返した。


シルの表情が固まる。


「は?」


「いや、だから何それ。この国の公爵家が俺と何か関係あるわけ?」



「お前……マジで言ってんのか?」


シルは呆れたように頭をかかえた。


「なんでそんなに無知なんだよ……」


その横で——


オレオが少し気まずそうな顔をする。


「……あの」


俺の方をちらっと見る。


「ルイは……その……」


言いづらそうに言葉を選ぶ。


「帰らずの森で、死にかけてて……」


小さく続けた。

「記憶、ないんだよ」


「……あ?」

シルが目を瞬かせる。


一瞬の沈黙。


「ははっ……」

シルの肩が小刻みに震えだす。


そしてー


「ははははははは!!」

シルが爆笑した。


「なるほどな!!どうりで!」

と言いながら俺を指差す。


「常識ってもんがなさすぎて頭がオカシイと思ってたんだよ!」


(は?何こいつ)


「死にかけた時に配慮とか礼儀ってやつも一緒に忘れちまったんだな!」


「納得したわ!」

シルは腹を抱えて笑いながら続ける。


「アンタさ、実はどっかの大貴族の家に生まれたけどさ——」


ニヤニヤしながら俺の方を見た。


「性格悪すぎて森に捨てられたんじゃねーの?」


(……言うじゃねぇか)


「お前の口の悪さの前じゃ、俺の性格の悪さなんて霞むけどな」


シルの眉がピクッと動く。


「は?」


「事実だろ」


そしてまた言い合いになる。


そのやり取りを見て——


オレオがぽつりと呟いた。


「……二人って、仲良しなんだね」



「「どこがだ!!」」


俺とシルの声が綺麗に重なった。


オレオはきょとんとした顔のまま——


少しだけ首を傾げる。


「ほらね」


にっこりと笑った。


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