20話 詐欺師の真骨頂···
沈黙を破ったのは——俺だった。
「···何を疑ってるかは、だいたい見当つく」
ヴァルクを真っ直ぐ見る。
そのあと、わざとらしくシルの方へ視線をやった。
「そいつ絡みで、盗品か何か···もしくは詐欺で手に入れた“物珍しい何か”ってとこだろ」
シルが「は?」と眉をひそめる。
「おい、ちょっと待て——」
「だが」
被せるように続ける。
「こいつとはこの街で知り合ったばかりだ」
「案内を頼んだだけで、あとは——」
肩をすくめる。
「勝手に興味持ってついてきてるだけだ」
「ちょっと!!」
シルがすかさず口を挟む。
「アタシは別に好きで同行してるわけじゃねぇからな!」
不本意そうに顔をしかめる。
「巻き込まれてんの、こっちだっつーの」
ヴァルクはそのやり取りを無言で見ていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「···“作った”と言ったな」
視線が、俺に戻る。
「この街に流入した者の記録はすべて確認している」
「だが、そのような物を持ち込んだという報告はない」
一拍。
「どこで作った」
「材料は何だ」
「どうやってそれを入手した」
矢継ぎ早に飛んでくる。
「それが答えられないのであれば——」
目が細くなる。
「“作った”とは言えない」
(···めんどくせぇな)
内心で舌打ちする。
ヴァルクは続ける。
「あれが仮に貴重な素材で構成されている場合——」
「領主への上納品、あるいは所有物である可能性も否定できない」
「領主への上納品は我々の管轄外」
「そのため確認が必要だ」
ヴァルクのその言葉に俺は正直に答える。
「どうやって作ったか......魔法で」
「魔法だと..?」
これに関してはそうとしか答えられない。
「上納品かどうかは確認してもらっても構わねぇよ」
俺は即答した。
だが——
「確認には時間がかかる」
ヴァルクは淡々と言う。
「三日から五日だ」
「···おいおい」
思わず声が漏れる。
「そんなに待てるか」
首を振る。
「俺たちは今日中にこの街を出る」
「急いでるんだよ」
はっきり言い切る。
だがヴァルクの表情は一切変わらない。
「疑いがある以上、正式な手続きが終わるまではここらから出せない」
「規律だ」
「人の命がかかってるって言ってもか?」
少しだけ声が低くなる。
「それでもだ」
即答。
一切の迷いがない。
「規律は特別な事案を除き例外を認めない」
(話になんねぇな)
空気が重くなる。
「三日もあれば——」
「無理だって言ってんだろ」
被せる。
「今日中だ」
「出さない」
「今すぐ出る」
「出さない」
「出る」
完全な平行線。
部屋の空気がピリつく。
そのやり取りを——
シルは黙って見ていた。
背もたれにもたれたまま、足を組み、指先でテーブルをトントン叩いている。
目だけが、わずかに動く。
口は挟まない。
だが、完全に状況を見ている目だ。
沈黙が落ちる。
誰も動かない。
「この者達を三日間の拘留とする。また、この決定は延長を要する場合、それに従い期日を延長するものとする」
ヴァルクは表情を変えずに後の兵士に告げた。
「記録しろ」
下級兵はその言葉に粛々と従う。
だが、その次の瞬間。
シルの口元が——ニヤリと、不敵に歪んだ。
テーブルを叩く指先を止めてシルがゆっくりと立ち上がる。
椅子が小さく軋む音。
そのまま、ヴァルクを——見下ろすように視線を落とした。
「···あんたらさ」
低く、吐き捨てるように言う。
「命、大事じゃないみたいだな?」
空気が変わる。
この部屋へ入ってから一切表情を崩さなかったヴァルクの眉間に、初めて皺が寄った。
シルはそれを見て、くくっと馬鹿にしたように笑う。
「取り押さえろ」
即座にヴァルクの命令が飛ぶ。
下級兵が一歩踏み出す。
その瞬間——
「触るな」
シルの声が落ちた。
懇願ではない。強気だ。
そのまま、シルはゆっくりと俺の方へ視線を向けると、じっと見つめてくる。
そして——
「···もう、よろしいでしょう?」
口調が変わった。
さっきまでとは別人みたいに、丁寧で、落ち着いた声。
「いくら身分を隠したいというご希望とはいえ——」
一歩、こちらへ近づく。
「この様な、強引な取り調べに付き合うなど···」
わずかに目を細める。
「考えられません」
真っ直ぐな眼差し。
冗談の気配は一切ない。
(···は?)
俺は思わず眉をひそめた。
(こいつ、とうとう頭でもいったか?)
意味が分からない。
だが——
シルはそんな俺の表情を見ても、怒りもしない。
むしろ——
ふっと、柔らかく微笑んだ。
「ルイ様」
敬称付きで、呼ぶ。
空気が、ざわりと揺れた。
下級兵の動きが止まる。
視線が一斉に俺へ集まる。
「な——」
シルを取り抑えようとしていた下級兵が言葉を失う。
ヴァルクの目が鋭くなる。
先ほどまでとは明らかに違う、警戒の色。
(···なるほどな)
一瞬で理解した。
(そういうことか)
シルは——
この状況を“特別な事案”に引き上げる気だ。
規律の例外を無理やり作るために。
(無茶苦茶やりやがる)
だが、筋は通ってる。
ここでただの一般人じゃなくなれば、扱いは変わる。
ヴァルクがどう動くかは分からないが——
少なくとも、今のまま拘束される流れは崩れる。
俺は小さく息を吐いた。
(乗るしかねぇか)
目の前で、シルは変わらず微笑んでいる。
まるで最初からこうするつもりだったみたいに。




