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2話 終われない命とか聞いてない···

最初は意識がぼんやりとしていくだけだったが、時間が経つにつれ、横たわったままの体は思うように動かなくなった。


小さな動きすらとれない。


それなのに──


死にそうなのに全然死ねない……!!!


「……これが……この世……の地……獄……」

乾いた喉の奥で、かすれた声が漏れる。


心の中で願った。


もし本当にここが漫画に出てくるような異世界なら……

モンスターが現れて、一思いに噛み殺してくれ、と。


そして、機械の電源が落ちるように身体の機能が止まっていくのがわかった。


その過程を、俺はどこか他人事のように感じていた。


……ようやく、この時を迎えたんだな……


そこにあったのは安堵だった。


これで終わる。

やっと全て終わる……!



──テレビの画面をプツリと消した時のように、全てが消えかけた次の瞬間。


誰かが俺の手からリモコンを奪い取り、再びテレビの電源を入れたかのように─


目の前にパッと明かりが戻る。


腹の奥で盛大な音が鳴った。


ぐぅーーーー


「……え?」


意識が急激に引き戻される。


腹の音はあまりにもはっきりと“生”を主張していた。


「……は?!」


ガバッと勢いよく体を起こす。


そして気づく。


指も腕も足も腹も、やつれきる前の元の状態に戻っていることに。


体も正常に動く。

呼吸も苦しくない。

視界も鮮明だ。


「……どうしてだよ!」


ここがどこなのか、自分に何が起きているのか頭ではさっぱり理解できないが、

全身で理解してしまったことがあった。


——死ねない····。


「……っ」


膝を抱え、うずくまる。


逃げ場がない。

死にたくても、死ねない。


ゆっくりと周囲を見回す。


深い森の匂い。

淀みのない川の美しさ。

都会では味わうことのできない澄んだ空気。

風が頬を撫で、葉のざわめきが耳に心地よく届く。


五感すべてが無駄に“生”を主張してくる。


こんなの……拷問だ。




改めて川面に映る自分を見る。


知らない顔。


死んだあの日の俺とは違う、

得体の知れない場所で無理やり生かされている“誰か”。


ゆっくりと顔を水面へ近づけ深く息を吸い、覚悟を決めた。


「……よし、これで終わりだ!」


水の中へ顔を突っ込み、そのまま河底まで落ちていく。


冷たい水が鼻と口を塞ぎ、呼吸が奪われる。

苦しくてもがくが、徐々に意識が遠のいていく。


が。


次の瞬間、ふわりと世界が揺れた。


気づけば俺は、顔を突っ込む“前”の姿勢に戻っている。


まるで時間が巻き戻ったみたいに。


「永遠にループじゃねえか!」


「俺が苦しんで死ぬ瞬間を誰か楽しんでんじゃないのか!?」


水面に映る顔はゆらゆら揺れる度に俺を嘲笑っているように見えた。


「……くっそ」


まるで神が仕組んだ、悪趣味なジョークだ。


死に際に聞こえたあの言葉···


『あぁ、なんて罪深いのだ』

『この深淵なる常闇で、ソナタに地獄を与えよう』

『これは恩恵ではない。ソナタにとっての地獄なのだ』


もし、あの声の主が神なら……


「ここは地獄か?」


川面を見つめたまま呟く。


「死ねないのは罰なのか?」


諦めと呆れと虚しさが、胸の奥で渦巻いていた。


やがて怒りが込み上げる。


「ふざけんな……!」


拳を握り、何度も地面を叩きつける。


「俺が何したって言うんだよ!」

「悪いことなんか何一つしてないだろ! つまらない毎日をひたすら真面目に生きてたじゃねぇか!」


神も、前の世界も、この世界も、何もかもが腹立たしい。


だが怒りは長く続かない。


力が抜け、地面に額を押し当てる。


「……もう、どうでもいい……」


絶望が全身に染み渡る。


ここで生きる意味も、罰せられる理由も分からない。


だが、また怒りが湧き上がる。


「クソッ……何度も何度も苦しい思いさせやがって! 死ねないなら先に教えろよ!」


叫びは森に虚しく吸い込まれる。


怒り、絶望、無気力。

感情がぐちゃぐちゃに絡まり、思考が堂々巡りを続ける。


どれくらいそうしていただろう。


ひと通り感情を吐き出すと、

不思議と頭が少しだけ冷えて、徐々に冷静さを取り戻していた。


「とりあえず……確認するか」


ここは地獄か異世界か─


改めて周りをよく観察してみたら、鳥は普通の鳥っぽいし、これまで異世界風の生き物とは遭遇していない。


けど……もし、本当にここが異世界で、自分が死ねないのが何かの魔法効果だとしたら?


『これは恩恵ではない』


恩恵じゃない。


つまり俺にとってはこの状況は罰でしかないが、他の奴だったら恩恵になるってことだよな?


そんなことを考えてしまっている自分自身を、否定するかのように呆れた表情で、半ば儀式のような言葉を吐く。


「……ステータスオープン」


その瞬間、目の前を光が駆け抜けた。


そしてすぐ淡い光の板が展開され、文字が浮かびあがる。


口の端は片方つり上がったまま、画面から目が離せない。



「……嘘……だろ···」



考えてはいたものの、さらなる非現実的な状況を前にして、理解が追いつかなかった。


目の前に半透明の光が集まり、空中に一枚の画面が展開されている。


あまりにも唐突な出来事に、俺は思わず後ずさる。


「……え、マジで出たのか……?」


アニメや漫画で何度も目にした“お決まりの異世界儀式”。


まさか……本当に体験することになるとは思わなかった。


呆然としながら、恐る恐る視線を向ける。


そこには、はっきりと俺の名前で“情報”が表示されていた。


――――――――――

名前:天城 塁  TM:99996/99999

スキル:時間操作魔法

特徴:甘ったれ/無趣味/鈍感/死にたがり

――――――――――


思わず声を出して、上から読み上げていく。


そして次に、特徴欄が目に入った。


「甘ったれ、無趣味……失礼だろ!」


「鈍感ってなんだよ!?」


「死にたがりって……いや、そこは否定しづらいけど」


「特徴が失礼すぎる!」


反射的に画面を殴ろうと手を振り上げたが、ある項目が目につき直ぐに顎に手をやる。


「それにしても、この“TM”って何だ……?」

名前の横にある見慣れないパラメーター。

数値は最大値らしき表示の 99999。


この最大値が多いのか少ないのかも分からない。


MPやHPならわかるが……

99996/99999が何を表す値なのか不明だ。


この世界の常識が分からない以上、考えても無駄だな。


俺は小さく息を吐き、次にスキル欄を見る。


時間操作魔法。


いかにも異世界らしい能力だが。


「どうやって使うんだよ……」


発動方法も、効果範囲も不明。

情報がなさすぎるだろ。


……いや、待て。


俺はある違和感を思い出す。


これまで“死ぬ瞬間”、

必ず気付けば死ぬ前の状況に戻っていた。


まるで巻き戻しされたかのように。


「……まさか」


時間操作魔法が発動していた。


そう考えれば辻褄が合う。



立ち上がり思考を巡らせる。


「時間操作ってどうすれば発動するんだ?」


静かに流れる川面を覗き込み、そのまま片手を突っ込みながら言う。



「……時間よ、戻れ」


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