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16話 治癒士の男···


この店に入った時から、俺は店内の人間を見ていた。


客も、店員も例外なく。


頭の上に浮かぶステータスを流し見して、その中に一人だけ他とは違う奴がいることにも気づいている。


だが俺はあえて何も言わずにいた。

シルの話を最後まで聞くためだ。この女が何を考えているのか、それだけは見ておきたかった。


水を二つ頼んだ時点で、俺たちには金がないことをシルは初めから見抜いている。

それでもここに連れてきた。しかも、ちゃんと治癒師のいる場所に。


(…金じゃない、自転車が欲しいでもないならコイツの目的は何だ)


だが、考えても分からないことに今ここで時間を使う気はない。

だから俺は単刀直入に本人に質問した。


シルはまた、指でトントントンとテーブルを叩きだす。


「もし、あんたらが治癒士に会えたら…」


「アタシのお願いも1つきいてもらえるか?」


治癒士がここに居る以上、これは確定事項だな。


「その願いによるな。何が望みだ?」


シルはニヤリと笑い、人差し指を止め、こちらを指した。


「今のアンタ達に望むことなんざないよ」


「いつかアタシがお願いした時に叶えてくれたらいいのさ」


「だから、その願いとやらによる」

「例えば死んでくれって言われても俺は死ねないからな」


ぷっと吹き出し笑うシル。


「そりゃあ、そうだ」

「死ねって頼まれて納得するバカな奴はいねぇよ」


ガハハと笑う。


(いや…そういう意味じゃないんだが)


「アンタのできる範囲のことでしか頼まないよ」

「貸し1つみたいなもんさ」


こいつが俺に何か頼み事したくなった時に、俺の所在がわかるのか?

こいつ…バカなのか?

それとも、何かスキルの効果があるのか…?


「まぁ、それでいいなら…」


「よし、決まりな!」


今早急に解決しなきゃいけないのは、この女の言動が怪しいとか、何者かとか探る事じゃない。

オレオの母親を治せる治癒士を一刻も早く見つける事だ。


恐らく…シルは治癒士の男から声がかかるのを待ってる。

そいつが俺達に興味を持つか持たないか判断させるために、無駄に話を長引かせてる。

シルから治癒士の正体を明かす気はないだろう。


…こんな茶番はもう飽きた。


俺は黙って席を立つ。


「…ルイ?」


俺とシルのやり取りを黙って聞いていたオレオの戸惑った声が背中にかかる。


シルは警戒して椅子から立ち上がるとゆっくりと短剣に手をかける。

それに構わず、俺は店の中央に向かって声を張る。


「この子の母親は!体の内側から細胞が徐々に病に侵食されて死に至る、医者では治せない“不治の病”と呼ばれるものだ!食事はほとんど摂れない。顔色は白いまま戻らない。立てないし、呼吸も浅い――余命は極わずかだ」


一気に言い切ると、店内の空気が止まった。

酒を持つ手が止まり、視線が集まる。

誰も笑わない。茶化しもしない。ただ、静かに聞いている。


「この病気を治せる治癒士を探している!」


沈黙のあと、低い声が落ちた。


「…無理だな」


それをきっかけに、ぽつぽつと声が上がる。


「そんな病、俺は聞いたことねぇ」

「さいぼう…って何だ?」

「原因がわからないなら治癒士でも無理だろ」

「凄腕の治癒士でも致命傷を塞ぐのが精一杯だぜ」

「外からわかる病気なら治せると聞いたが…内からは…無理だ…助からねぇ」


馬鹿にしているわけじゃない。

皆がただ現実をそのまま言っているだけだ。


オレオの気配が揺れる。

だが、泣いてはいない。必死に堪えているのが分かる。


俺はそのまま歩き出した。向かう先は決まっている。


カウンターの前で足を止める。

その奥には無言で酒と水を運んできた、あの男。


視線を合わせない。傍から見たら無愛想なただの店主――だが、スキルは違う。


(掌の癒し…ね)


俺の気配に気づいても男は顔を上げない。

グラスを拭く手も止めない。何も知らないふりをしている。


くだらない。


俺はそのまま口を開いた。


「それで、アンタは何ができる?」


その瞬間、店内の空気が張り詰めた。

店主の手が止まる。

わずかな間のあと、ざわ、と周囲が揺れた。


小さな動揺が広がる中、シルの方を見ると、あいつは完全に固まっていた。

目を見開いたまま、こっちを見ている。


俺は視線を戻す。


「治癒魔法が使えるんだろ?」


このチャンスを逃がす気はない。


店主はゆっくりと顔を上げた。

その目が初めて俺を捉える。

さっきまでの、ただの店主の目じゃない。



名前:レイグ・ベリントン TM:16 / 91

スキル:掌の癒し

特徴:悟る者/現実主義/選別の思想/借りを嫌う/冷静な観察眼/合理主義/苦しみを取り除く者/安寧を与えし者/均衡を重んじる



白髪混じりの長髪を束ね、頬には深い傷があり、年老いてはいても体格はガッシリとしている。


“癒す”という言葉とはかけ離れた見た目。

殺し屋と言われた方がしっくりくる。


レイグはしばらく何も言わなかった。

ただ、俺を見ている。

警戒し――“見極めている”目だ。


「…誰に聞いた」


低い声だった。

店内のざわめきが、一段階落ちる。


「別に誰にも」


俺は肩をすくめる。

レイグはシルの方をジロリと睨む。

あらぬ疑いをかけられシルは勢いよく首を横に振った。


一瞬。

男の目が細くなった。


周りの連中も察したのか、さっきまでの半信半疑が確信に変わっていく。


「マジかよ…」

「レイグの奴が?…まさか」


ヒソヒソとした声。

だが男は一切気にしない。

視線はずっと俺に向いたままだ。


男がグラスを置く。

コト、と小さな音がやけに響いた。


「そこのガキの母親の病を治したい、と」


「ああ」


間髪入れずに答える。


男はわずかに息を吐いた。


「…話は聞いていたが」

「それは不可能に近いな」


「不可能に近いってことは、可能性もあるってことか?」


「アンタには治せないのか?」


俺の矢継ぎ早な問いに、レイグは鼻で笑った。


「俺の能力は傷や、病気に伴う痛みや苦しみを取り除く能力だ。治す能力じゃねぇ」


淡々とした口調だった。


「だが、こんな能力でも一応世間じゃ“治癒士様”の括りなんだぜ?」


皮肉を含んだその言葉に、店内の何人かが顔をしかめる。


「世間で崇められてる治癒士なんてのはな、一部の奴らを除けば、どいつも大した能力じゃねぇ。医者や薬でもできる事を、時間かけずに魔法でやってるだけだ」


吐き捨てるように言いながらも、その目はどこか冷静だった。


「だが、そこに救いを求める奴も大勢いる。治癒魔法なら傷跡も残らねぇし、長い治療もいらねぇ」


「素早く治す事で助かる命もある」


「たとえ治りはしなくても、病の進行を遅らせたり、一時的に回復させたり…能力者によってできる事は様々だ」


そこで一瞬だけ間を置き、俺を見た。


「俺の能力はな、苦しみに顔を歪ませた奴を楽にしてやれる」


「痛みを取り除いて最後は心安らかに眠るように死ねるのよ」


なるほどな、それは死にかけてる奴らが縋りつきそうな能力だ、と俺は内心で呟く。


「治癒もどきの…役に立たねぇ能力よ」


「お前がどこの誰か知らねぇが…その“目利き”に興味が湧いた」


「俺も随分長く生きたからよ、命は惜しくねぇ」


「お前も命を捨てる覚悟があるなら、“不治の病に”ついて特別な話を教えてやるよ」


空気が少し変わった。

軽口は消え、代わりに重たい何かが滲む。


「まじか。それは助かる」


俺は世間話でも聞くかのような軽いノリで返すと、レイグは不敵に笑った。


「ここに居る奴で命が惜しい奴は今すぐ出ていけ…」


「世の中にはな?聞かなきゃよかったって話が転がってんだよ」


その言葉に皆が息を飲み、何人も席を立ち慌てて店から出ていく。


恐怖は、時に強い興味に変わる事がある。

恐怖より興味が勝った数人が店内に残った。


もちろんオレオも覚悟した目をしている。


レイグは一人一人の目を見つめ確認すると、低く、静かに語り出す。


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