15話 ギルドで出会った怪しい女···
ぶっきら棒な声かけに反し、高い声。
さっきまで笑ってた連中とは違う。
俺は視線だけそっちに向けた。
銀色の髪は肩に届かない長さで整えられ、鋭い目つきの小柄な女がこちらを見ている。
服の隙間からは短剣が見える。
他の連中より、少しだけ俺たちを見る目が違う。
興味本位じゃない。
女は深く鼻で空気を吸うと、ヘラりと笑いながら言った。
「アンタら……さっきの乗り物の奴らだろ?」
周りが一瞬、静かになる。
「だったら?」
その答えに女はさらにニヤリと笑う。
「少し、話をしないか?」
俺は答える前に――
そいつを“見る”。
――
名前:シルバー・ファンシー TM:12 / 75
スキル:幸運の嗅覚
特徴:活発/狡猾/逃げ足/詐術/詐欺/強い警戒心/幸運を嗅ぎ取る者/危機察知/状況判断/直感型/綱渡りの生存者
思わず一瞬、目を細めた。
(特徴、ひでぇな)
いや、俺も人のこと言えた立場じゃないが。
それにしても――
ギルドに来る途中で通りすぎた奴らのステータスも見れるだけ見てきたが
(詐欺って、堂々と書かれてるやつ初めて見たぞ)
しかも。
(この減り方……)
TM:12 / 64
(コイツ……絶対ろくな死に方しねぇな)
短い人生を、さらに削ってるタイプ。
特徴からして自業自得ってやつだ。
俺は小さくため息をつく。
そして――
視線を外した。
「……別にいい」
それだけ言って、カウンターの方へ向き直る。
詐欺師に用はない。関わるだけ無駄だ。
「は?」
「アンタにとって有益な話かもよ?」
「で、ギルドカード作るのに時間はどれくらいかかるんだ?」
俺は戸惑っている受付と話を進めた。
「そうですね……2時か……」
「おい、無視かよ!!」
女の声が強くなる。
(うるせぇ女)
「聞こえてる」
俺は短く返す。
「でも、あんたの話に興味ねぇ」
周りがざわついている。
女は一瞬言葉を詰まらせて――
すぐに、眉を吊り上げた。
「アンタら、治癒師探してるんだろ?」
「だったら話くらい――」
「詐欺師の話なんて、聞く価値あるか?」
空気が、一瞬で冷えた。
女の目が細くなる。
「おいおい……アタシが詐欺師だと?」
「何を根拠に言ってやがる?」
「別に」
俺は肩をすくめる。
「勘」
もちろん勘じゃない。
だが、説明する義理もない。
「チッ……感じ悪い奴だな」
だが次の瞬間。ふっと笑った。
「……まぁいい」
「せっかく“知ってる治癒師”を紹介してやろうと思ったのに」
その言葉に――
ほんの一瞬だけ、周りの空気が変わる。
(……ほら来た)
典型的な餌だ。
「そういうの、いいから」
俺は即答する。
「偽物用意して後で高い金でもふっかける気だろ」
「はぁ!?ちげぇよ!」
声を荒げる女。
だが、その反応すら信用できない。
「じゃあタダで教えるのか?」
「それは……」
言葉が詰まる。
(ほらな)
俺は白けた目で女を見る。
「時間の無駄だ」
「詐欺するなら他あたれよ」
そう言って視線を外した、その時。
「……待って」
小さな声。
オレオだった。
振り返ると――
オレオは、その女を見ていた。
縋るような目で。
「……お願い」
声は小さいが、はっきりしていた。
「その治癒師……どこにいるの?」
女が一瞬、驚いた顔をする。
「ルイ……」
オレオは俺を見る。
その目は――さっきまで自転車ではしゃいでたやつと同じとは思えない。
必死だ。
「もしかしたら……本当にいるかもしれない」
「この人の話だけでも、聞きたい」
(……チッ)
分かってる。
コイツが何を考えてるかなんて。
可能性があるなら、どんな細い糸でも掴むつもりなんだろう。
たとえ――それが罠だったとしても。
俺はもう一度、女を見る。
ニヤリと笑っている。
完全に“流れを掴んだ顔”だ。
(……やっぱ気に入らねぇな)
俺は深く息を吐いた。
「……話だけだ」
女の口角が、さらに上がる。
「最初からそう言えばいいのによ」
(ほんと、気に食わねぇ)
女はニヤリと笑うと、くるりと背を向けた。
「ついてきな」
数歩進んだところで、ふと思い出したように振り返る。
「ああ、そうだ。まだ名乗ってなかったな」
軽く手を振りながら言う。
「アタシはシルだ」
どこか芝居がかった口調。
だが、その目は笑っていない。
(本名は名乗らないか……胡散臭ぇ)
「ルイだ」
短く返す。
「オレオ……です」
オレオは少し緊張した声で続いた。
「ふーん……」
シルは俺たちを一瞥すると、また歩き出す。
「外行くぞ。ここじゃ話しにくい」
俺たちはギルドを出た。
シルの後ろをオレオがついて歩き、さらにその後ろから俺は自転車を手で押しながらついて行く。
大通りから外れ、人通りの少ない道へ。
さらに路地を曲がると、空気が変わった。
進むと酒と煙の匂い。
笑い声と怒鳴り声が混ざった、濁った音。
その先、細い道を何回か曲がる。
「ここだ」
シルが顎で示した先には、古びた木の扉。
看板は傾き、文字もかすれている。
どう見ても“まともな店”じゃない。
(分かりやすいな)
シルは迷いなく扉を押し開けた。
ギィ、と嫌な音が鳴る。
中に入ると、一斉に視線がこちらを向いた。
だがすぐに、興味を失ったようにそれぞれの会話へ戻る。
シルは慣れた足取りで奥の席へ向かう。
「こっちだ」
壁際のテーブルに腰を下ろし、俺とオレオも向かいに座った。
椅子はギシ、と嫌な音を立てる。
そこへ店員らしき男が無言で近づいてきた。
シルは指を二本立て
「いつもの。あと水を二つ」
短いやり取り。
それを聞くと男は何も言わずに去っていく。
こいつ完全に常連だな。
シルは肘をテーブルにつき、さっきまでの軽い雰囲気とは違う...少しだけ、真面目な表情でこちらを見つめた。
「さて」
口元だけで笑う。
「どこから話す?」
俺は即答する。
「治癒師に会う条件を言え」
余計な前置きはいらない。
シルは小さく肩をすくめた。
「せっかちだねぇ」
「まぁいい」
ちょうどそのタイミングで、飲み物が運ばれてくる。
濁った色の酒と、水の入ったグラス二つが無言でテーブルに並べられた。
シルは迷わず酒を手に取り、一口飲む。
それから――
俺たちを見る。
「結論から言うと」
わざと間を置く。
「いるよ。治癒師」
オレオの肩がビクッと揺れる。
「ただし――」
シルの目が細くなる。
「そいつは簡単には動かない」
(ほぅ……)
俺は何も言わずに続きを待つ。
シルは指でテーブルをトントンと叩いた。
「金じゃ動かない」
「身分も関係ない」
「じゃあ何で動くと思う?」
試すような目。
俺は短く答える。
「気分か?」
シルはニヤッと笑った。
「半分正解」
そして、少しだけ声を落とす。
「――“面白いかどうか”だ」
空気が、ほんの少しだけ張り詰めた。
俺は静かに目を細める。
(……面白い、ね)
シルは続けた。
「だから“普通”の依頼人は相手にされない」
「でも――」
グラスを傾けながら、言う。
「奴が“何か”に興味を持てば……話くらい聞いてもらえるかもね」
(自転車か?)
まぁ本当にそいつがオレオの母親を治せるなら自転車くらいくれてやるわ。
俺はため息を一つ吐いて、背もたれに寄りかかりながらシルを見た。
「で、お前の目的は?」




