14話 風になりたい···
俺達はとんでもなく目立った。
疎らに歩いていた人達は皆足を止めてこちらを見る。
わざわざ向かいの店から顔を出して見物してい奴もいる。
「ちょ、ちょっと待ってルイ……これ、本当に大丈夫なの?」
後ろからオレオの不安そうな声。
周りの様子なんて見る余裕はなさそうだな。
「大丈夫だって!ちゃんと掴まってろよ」
俺は軽く言って、自転車にまたがる。
後ろにオレオを乗せると、ペダルに足をかけた。
――スッ
最初の一漕ぎで、体が前に滑り出す。
「うわっ……!」
オレオの体がビクッと揺れる。
だがそんなことお構いなしに、俺はそのまま加速した。
ボビーの口笛の音がどんどん離れていく。
風が頬を打つ。
(……速い)
思っていたよりもスムーズに、滑るように進んでいく。
「ル、ルイ!速いって!ちょっと待っ――!」
「落ちるなよ」
「それが怖いんだってば!」
街の通りを一直線に駆け抜ける。
最初は恐怖で体を強張らせていたオレオも――
「……あれ?」
少しずつ声が変わっていく。
「え、ちょっと……すごい……!」
後ろから聞こえる声に、笑みがこぼれた。
周囲の景色が流れていく。
露店の布が揺れ、
通りの人々が振り返る。
「なんだあれ!?」
「馬も使わずに……!?」
「走ってる……?いや、違うぞ!」
驚きの声があちこちから上がる。
そして俺達を避けるように道の真ん中を開けてくれる。
中には口を開けたまま固まっているやつもいたが····
(まぁ、そりゃそうなるよな)
俺は少しだけスピードを緩める。
「オレオ、道わかるんだよな?」
「う、うん!えっと……この先を右!」
「了解」
俺はハンドルを切る。
曲がる感覚も悪くない。
むしろ軽い。
俺達はこの街に入る前に、まず、どこへ向かうのかを相談して決めていた。
目指すのは治癒院――じゃない。
オレオの経験から
きっと大金かそれ相応の身分がなきゃ門前払いだ。
だったら。
(情報を持ってるやつのとこに行く)
依頼を受ける連中、情報を売る連中、
いろんな奴らが集まる場所。
⸻ギルドだ。
「ねぇルイ!」
「なんだよ」
「これ……すごいね!」
さっきまで怯えていたとは思えない声だった。
「だろ?」
オレオの声は、完全に弾んでいた。
「風が気持ちいい……!」
「風に乗ってるみたい!」
小さな手が、後ろからぎゅっと服を掴む。
恐怖じゃない。
――楽しさで。
そのまま俺たちは、街の奥へと進んでいく。
「オレオ、ギルドってどのへんだ?」
「えっと……もう少し先だったと思う!大きな緑の建物がそうだよ!」
「オッケー」
「あ!この先、左!人が多いとこ!」
「見えてきたな」
通りの先に、ひときわ大きな建物が見えた。
出入りする人間も多い。
大きな袋を背負った奴、商人ぽい奴、
武器を持った連中。
“荒事慣れしてそうな奴ら”もいる。
(いかにもって感じだな)
俺はギルドの前でブレーキをかける。
キィ、と軽い音を立てて止まった。
「……ついた?」
「ああ」
オレオがゆっくりと降りる。
周りの奴らも足を止めこちらをというより、自転車を物珍しく眺めている。
オレオの目にはまだ興奮が残っていた。
俺は自転車を軽く叩く。
「今度、乗り方を教えてやるよ」
オレオの表情がパッと明るくなり、大きく頷く。
単純で子供らしい姿。
俺は視線をギルドへ向けた。
入口に近づくにつれて分かる。
中から聞こえてくるざわめき。
荒い笑い声。
金と力の匂い。
(さて……)
俺は小さく息を吐く。
(ここからが本番だな)
治癒師の情報を手に入れる。
それができなきゃ――
全部無駄になる。
「行くぞ、オレオ」
「うん!」
俺たちは入口の中へと足を踏み入れた。
――その瞬間。
中の喧騒が、一瞬だけ止んだ気がした。
――ざわっ
さっきまでの喧騒が、わずかに形を変えた。
完全に静かになったわけじゃない。
だが。
明らかに視線が集まっている。
「...見たか?あいつらだろ」
「さっきの変な乗り物……」
「馬もなしに走ってたやつか?」
ヒソヒソとした声。
隠す気もない好奇の視線。
警戒。
興味。
――そして、値踏み。
(商人もいるな)
明らかに“交渉したそうな目”で見ている。
だが俺は、気にしない。
興味があるのは、金じゃない。
俺は視線を滑らせながら、次々と相手を“見る”。
――ステータス。
頭の中に浮かぶ情報。
スキル持ちも多い。
双剣の舞、剛腕の盾、火炎の金槌、風袋、探究の目、重圧の礎……。
(さすがギルドだな)
よく分からないスキルから想像しやすいものまで種類は豊富だ。
だが、それでもスキル無しの奴らの方が多い。
(治癒系は……いなさそうだ)
それっぽいスキルが、一つも引っかからない。
舌打ちしそうになるのを抑える。
(まぁ、そう簡単にはいかないか)
「ルイ……」
後ろでオレオが少しだけ声を潜める。
周囲の空気に、気圧されてるのが分かる。
「気にすんな」
俺は短く言った。
そのままカウンターへ向かう。
視線は刺さったままだが、無視だ。
カウンターの奥には、一人の女性がいた。
年はそこそこ若い。
落ち着いた雰囲気で、いかにも“受付”って感じだ。
俺たちを見ると、軽く微笑んだ。
「ようこそ、ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
俺は単刀直入に言う。
「治癒師を探してる」
その瞬間。
ほんのわずかに、女性の表情が揺れた。
「……治癒師、ですか?」
「ああ」
一拍。
女性は少し困ったように微笑む。
「申し訳ありません。当ギルドには、治癒師の登録はございません」
(やっぱりか)
予想通りだ。
「そのような能力のある方々は、基本的に治癒院に所属していますので……」
「治癒院へ行けってことか?」
「はい……その方が確実かと」
やんわりとした言い方。
だが、結論は同じ。
(門前払いコースだな)
そのやり取りを――
周りの連中は、しっかり聞いていた。
クスクスと笑い声が漏れる。
「はは、治癒師だとよ」
「金持ってんのか?」
「無いに決まってんだろ」
露骨な嘲り。
隠す気もない。
オレオの肩が、わずかに強張る。
(……うるせぇな)
俺は小さく息を吐く。
だが怒るほどでもない。
言ってること自体は、間違ってないからな。
「他に方法は?」
俺は受付に視線を戻す。
「治癒院以外で、治癒師に会える場所とか」
女性は少し考える。
「……そうですね」
「個人で活動している方も、いないわけではありませんが……」
歯切れが悪い。
「紹介状が必要だったり、かなりの報酬を求められることがほとんどです」
(だろうな)
当然だ。
“病や怪我を治す力”なんて、安売りする理由がない。
「それに――」
女性は少し声を落とす。
「身元の分からない方の依頼は、避けられるかと...」
(まぁ、誘拐される可能性もあるし、普通に警戒するか)
「ギルドカードをお持ちでなければ発行いたしますが?」
「お時間は少し取りますが情報を登録していただければドミリス王国が認める身分証にもなりますので、治癒師への依頼もしやすいかと···」
ギルドカードか··
俺が頷こうとした、
そのとき――
「なぁ」
横から声がかかる。




