農業都市「フィリアネ」にて
結果から言うと、お買い物はアイエルの大勝利であった。
魔法具のハイブランド「カルデン」のネックレスを見事に勝ち取った娘は、 実に晴れ晴れとした顔で魔法具店を後にする。先程までショーケースに入っていたネックレスは、今はアイエルの首元で輝いていた。
――効果はお墨付きの様だし、まぁいいか…
満足気な娘の笑顔に、母は自分に言い聞かせる。ブランドの中ではお安めの品だったが、そこは天下のカルデン、ケティアのお財布にとってはなかなかの痛手であった。
「次は、武具屋さん見に行くの?」
「そうです、今度はアイエルに付き合ってもらいますからね」
2人は街の武具屋へと足を向けた。
農業都市「フィリアネ」
国内有数の小麦の生産高を誇るその街は、国を網羅する交易街道の末端の街ではあったが、メインの通りには様々な店が軒を連ねており、街はようやく訪れた戦禍の終わりを喜ぶかのように、活気に満ちていた。
結果から言うと、ケティアのお買い物もまた、大勝利であった。
その街の武具屋の品揃えに、今度はケティアが目を輝かせていた。
「すごい!!本当にこのお値段なんですか!?」
武具店のセール品のコーナーで、お値打ち価格にはしゃぐケティアなのだった。
武具店から出てきたケティアは、アイエルとは違う理由でホクホク顔だった。
「ママって、ほんとにセール品好きだよね。もう少しちゃんとしたの買ったらいいのに…」
「今、アイエルがそれ言うの…?」
ケティアが首元のネックレスを指差すと、アイエルはテヘっとおどけて笑って見せた。
「ライトアーマーの防具は、消耗品ですから。それに…」
「それに?」
怪訝そうに顔を覗き込むアイエル。
ケティアは笑顔で返すが、その目は全く笑っていなかった。
「一瞬でも『これ高かったのに』って思ったら、次の瞬間、死んじゃうから♡」
「…間違いないね」
2人が買い物を終えて、宿に着くとジエスが既に1杯(?)引っ掛けていた。
「おう、街はどうだった?」
「楽しかったよ、これ買ったの!!」
アイエルは自慢げにネックレスを見せる。本当に、見た目とは裏腹に、中身はしっかりと12歳の女の子だった。
「おお、良いもん買って貰えて良かったな!!」
ジエスは、いつもの通り、ガッハッハッと景気よく笑うと、ちょいちょいとケティアを手招きした。
顔を合わせると2人はアイエルに見えないようにヒソヒソと話し始める。
「だいぶ高かったんじゃないか…?」
「ええ…まぁ…それなりに…」
「…給料の前借りなら相談乗るからな?」
「そこはまぁ…なんとかやりくりしますので…」
後ろを向いて、ヒソヒソ話を始めた2人に、アイエルは頭に「?」を付けるのだった。
「そう言えば、今後の予定の方は、どうなりました?」
コホンとケティアはとりあえず、この事は置いといて、これからの事をジエスに訊ねた。
「おお、決めてきたぞ。次はここになる」
ジエスはそう言って、地図を広げ、1つの都市に指をさした。
「冬になる前、物資類の発注をせにゃならんのだが、この近辺で戦線が開いとるらしくてな、商隊の連中が前の街で足止めくらってるらしいんだ」
だいぶ風も涼やかになり、季節はそろそろと秋の終わりに近づいてきている。
今年も、団の越冬の為の準備を始めないといけない時期が来ていた。
彼の指の先、三又の街道が重なる都市
次の目的地、交易都市「ドルーネン」
「…ちょうど、帰り道のついでになる形になりますね」
「ああ、ウチの連中も首を長くして待っとるだろうしな。明日の昼前には出るぞ」
ドルーネンは、金の獅子団の拠点のある村と、ここフィリアネのほぼ中間に位置していた。交易都市ならば、物資の発注もかけられるし、一石二鳥というわけだ。
「団長も、や〜っと奥さんに会えるの嬉しいでしょ〜?」
茶化したアイエルの後ろで、店主がカトラリーセットをお盆ごと落とす音が響く。
「お二人、ご夫婦じゃなかったのかい!?」
――…え。
どうやら、店主はジエスとケティアの事を年の差夫婦だと思っていたらしい。
その事に大爆笑のジエスとアイエル。
傍らでは、ケティアは顔を真っ赤にしながら、必死に頭を振って否定する。
「そんな訳ないじゃないですかっ!!」
その様子に、暫くホールにはジエスとアイエルの笑い声が愉快に響いていた。




