鐘の音
鐘の音が、晴天の空に高く鳴り響く。
翌日、今回の戦闘で犠牲になった人たちを弔うための鎮魂の儀式は、教会にて執り行われた。
参列者の中には、金の獅子団の代表として団長のジエスとアイエルの姿があった。
「…では、黙祷をお願いいたします」
僧侶の言葉に、2人は目を閉じ祈りを捧げる。
閉じた瞼の向こうで、涙を流す遺族たちの悲痛な声だけが聞こえていた。
――やはり、これだけは慣れんな…
黙祷を解くと、ジエスは隣に立つのアイエルに目をやった。
彼女は翡翠色をした治癒士の礼装をまとい、今回の式に参列していた。
腕章を持つ教会に公認されている治癒士は、鎮魂の儀式への参列が義務とされている。
傭兵団長のジエスと共にアイエルがこの場に居るのは、それが理由だった。
終始、表情を変えずに佇むアイエルの横顔は大人びていて、とても12歳の子供には見えなかった。
献花を終え、祭壇へ一礼をするとジエスは御布施を置いて、アイエルと共に教会を後にした。
「2人ともお疲れ様でした」
教会の外で待っていたケティアが声をかけた。どうやら、式での娘の様子が気になって仕方がなかったようだ。
「おう、今回も無事に終わった。今回もアイエルは立派だったぞ」
その言葉に、ケティアはホッとした母の顔を覗かせる。
「そうでしたか、アイエルもお疲れ様」
「…うん」
母の言葉にアイエルは虚ろげな顔で、一言だけ返す。式はしっかりとやり遂げたが、やはり、だいぶ疲れている様子だった。
その時、式の終わりを報せる鐘が鳴り響いた。
「―――ったな…」
その独り言は、鐘の音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
鐘が鳴り止むと、ジエスはポキポキと音をたてながら首を回した。
「さて、それじゃあ俺は、ウチの連中と合流して、これからの予定でも立ててくる。2人はどうする?」
「一度、宿に戻ります。アイエルは着替えないといけませんし…」
「それもそうだな」
「行こうか、アイエル」
ケティアはアイエルの方に目を移すが、彼女はまだ虚ろげに一点を見つめていた。
「アイエル大丈夫?」
その言葉に、アイエルはハッと我に返った。全く話を聞いていなかった様子だ。
「…え、あ、大丈夫。なんだっけ?」
「礼装を着替えないといけないから、一旦、宿に帰ろうって」
「えっと、うん、そうだね」
「そしたら、お買い物に行こ!!」
彼女は笑顔でそう言った。しかし、それは母に心配させまいとするものだった。
ケティアはそれを察して、娘の様子を気遣う。
「本当に大丈夫?」
「うん、私、魔法具屋さん見たいし」
「それに、お兄ちゃんから聞いたよぉ、今回の魔石は赤だったんでしょ〜?」
そう言うと、アイエルはニマっとイタズラっぽく笑ってみせた。
――バラされてる…
赤い魔石が、他の色の魔石の何倍も高い値で売れる事は、アイエルも知っていた。
「なんか新しいの買ってもらっちゃおっかな〜♪」
そう言うと、アイエルは宿へ走り出した。
「おう、それじゃあ、また後でな、2人とも」
ジエスはそう言って、片手を上げて2人を見送った。
楽しそうに宿に向かうアイエルに、ケティアは眉をひそめながらも、ゆったりと微笑んだ。
「うん、いこっか」
宿にてアイエルの着替えが済むと、母と娘は街へとくり出した。
「そういや、お兄ちゃんは、今日もデート?」
「みたいよ、本人は隠してるつもりみたいだけど」
「バレバレなのにね」
クスクスと笑う母と妹。兄の恋愛事情は、女性陣にはバレバレだった。
「今回のお小遣いは、ちょっと多めにしてあげちゃった」
「ママも、やるねぇ」
イタズラっぽく笑う2人。ケティアの言葉にアイエルは更にニマっと笑う。
「それじゃ、私も奮発してもらっちゃおかな〜♡」
――余計な事、言わなきゃよかった…
ウキウキ顔のアイエルに、内心、冷や汗の母なのだった。




