誕生日
オブリラへと入る街道には、山間部へと入る手前に、数件の商店と宿が併設している宿場があった。
ジエスはそこで1晩、宿を取り翌日オブリラへと入ろうとしていたのだが…
「すまんが、ベッドに空きが無くてね…」
「気にしないでくれ、これじゃ仕方ねぇ」
数室しかない宿はベッドも足りず、担ぎ込まれた負傷した王国軍兵士たちが廊下まで溢れていた。
それを見たアイエルは、急いで治癒の為に駆け出そうとするが、ジエスは腕を掴み首を横に振る。
しかし、その制止を解いたのはアイエルではなく、ケティアだった。
アイエルはすぐに負傷兵に駆け寄り、手当てを始める。手元で薄緑色の明滅が宿の中を照らす。
「ケティア、何考えてる…この人数じゃ、朝までかかるぞ?」
「それでも、団長、やらせてあげてください」
納得のいかないといったジエスに、ケティアはそっと耳打ちする。
「…あの子、明日が誕生日なんです。好きなようにさせてあげてください」
大切な日を悔いを胸にしたままで迎えて欲しくは無い。
ケティアは懸命に処置に当たる愛娘を、慈愛に満ちた目で暖かく見守る。
「大丈夫です。私がちゃんと見てますから」
アイエルが最後の負傷兵に治癒を施し終わったのは、もう日付が変わり夜中の3時を過ぎた頃合いだった。
「お疲れ様、アイエル」
「うん、疲れたよ〜」
そう言って伸びをするアイエルに、ケティアはそっと背中から手を回す。
「うん、本当に自慢の娘よ」
その言葉に、疲れきったアイエルの瞳はじわっと涙で潤む。
「13歳のお誕生日おめでとう、アイエル」
「うん、ありがとう、ママ…」
それだけ言うと、アイエルは安心しきった様子で、ケティアの腕の中でゆったりと眠りに落ちる。
「…うん、早く帰ろうね」
ケティアもゆっくりと目を閉じた。
瞼の裏に、幼かった頃のアイエルの姿が、ケティアの胸に去来する。
――本当に、立派になったね
翌朝、一行はオブリラへと赴くのだった。




