「王国」と「首盗み」
夕暮れに馬を止めて、川のほとりに今夜は野営を張る事となった。
「日が短いと、やっぱり思うようじゃねぇなぁ…」
ジエスはそう言って頭を搔いた。
日が短い冬の時期は、どうしても移動に割ける時間が短く、移動出来る距離も同じく短くなる。
ジエスが冬に遠征を嫌う理由の1つだった。
「団長〜馬たちのケア終わったよ〜」
「おう、お疲れさん」
アイエルは、馬の疲労を癒す為の治癒術法をかけ終え、焚き火の番をしているジエスに声をかけた。
「こっちもちょうど、湯が沸いたとこだ」
ジエスはカップにココアの粉を入れてやると、お湯を注ぎクルクルとかき混ぜ、アイエルの前に置いた。
「熱いから気をつけろよ」
アイエルは、カップを手で包み、大好きなココアをフーフーしながら暖を取った。
「馬の様子はどうだった?」
「バッチリだよ♪今日は長めに走ったから、その分きっちり治癒しといた」
そう言うと、アイエルはココアに口を付けた。
アイエルは、前から気になっていた事を、ジエスに訊ねる。
「ねぇ団長…団長は、『首盗み』って言われるの、嫌じゃないの?」
ココアを手にしたアイエルは、ジエスにゆっくりと問いかけた。
「そうさなぁ…」
「私は、そう呼ばれるのヤダな…」
そう言うアイエルの瞳は、焚き火の炎なのか、涙なのか、ゆらゆらと揺らめいて見えた。
アイエルの言葉に、ジエスはジョリジョリとあご髭を撫でると、困ったように眉をひそめた。
「確かに『首盗み』なんて、聞こえは良くねぇよな…」
アイエルは頷く。
本来なら『首盗み』の金獅子なんて、不名誉もいい所だ。
「だがな、便利ではあるんだよ」
「便利?」
ジエスの意外な答えに、アイエルは不思議そうな顔をする。
「王国軍ってのは、気ぐらいの高い連中だ。傭兵なんてのは、使い捨ての道具くらいにしか思わねぇのさ」
ジエスの言葉が、苛立ちに染まる。
「だが『首盗み』と悪名高い傭兵団にゃ、王国軍からの使いっぱしりみたいな依頼は来ない。王国軍は、こちらの損耗なんて、屁とも思わないから、そっちの方が都合がいいのさ」
「それで『首盗み』なの?」
「その2つ名がある傭兵団が、お行儀良く使い勝手が良い訳がないだろ?」
その答えに、アイエルは再び頷いた。
「俺はなアイエル、王国軍なんぞの面子なんかよりも、兵士の命の方が大事にしたい。その為なら、『首盗み』って不名誉な名前も利用するのさ」
ジエスはその向こうに、まるで何かがあるように、焚き火をぼうっと見つめる。
「それに、王国軍とは因縁があるからな」
「因縁?」
「教国が陥落した時の事だよ」
その言葉に不思議そうにするアイエルの頭を、ジエスはポンポンと撫でた。
「いい機会だし、話しておくか。おまえさんにも関係ある話だしな」
それは12年前、ケティアたち、ユービスとアイエルの故郷が焼かれた日の話…
教皇国陥落の日。
ジエスはゆっくりと口を開き、アイエルに語り始めた。




