救援
翌日、夜が開けるとユービスは村に残った馬を飛ばし、チッチョルへ報告と救援要請に走った。
ケティア、アイエル、エーシエの3人は、チッチョルからの救援を待ちながら、リンシデにて村民への救護と護衛を続けていた。
リンシデでは89人いた住民のうち、生き残ったのは分かっているだけで32人。
半数以上の住民が犠牲に、もしくは行方不明となっていた。
「それじゃあ、魔物に攫われたというのは、君の弟さんなのね」
「はい、僕の3つ下の弟で、ルヴィオといいます」
事情を訊ねるケティアに、イアールは暗い顔で答える。
――それで、依頼書とは背格好が違っていたのね…
翡翠色の髪に金色の瞳は、依頼書にあった記載の通りだったのだが、背格好はもっと幼い少年のものだった。
訊ねた所、イアールは9歳、弟のルヴィオは6歳との事だった。
「でも、魔物が人を連れ去るなんて、おとぎ話でしか…」
エーシエは不思議そうに呟く。
確かに、人探しの依頼書には「魔物に攫われた」とあったが、ケティアもジエスも、最初はその内容を信じる事は出来なかった。
「その場には僧侶様も居たのですが、僧侶様は、もう…」
生存者の中に、僧侶の姿はなかった。
その姿は、もう物言わず犠牲者の遺体の列の中に、同じように並べられていた。
もう、ルヴィオ失踪の真実を知るのは、兄のイアールだけになっていた。
不可解な点も多く残る今回の事件だったが、行方不明となった弟を思う幼いイアールの心痛な面持ちに、ケティアも胸が痛かった。
翌日の朝、ユービスの要請を受けたジエスと金の獅子団の救援部隊がリンシデに到着した。
すぐに、チッチョルへの生存者の移送の準備と、他にも生存者が居ないか、村の捜索が行われた。
「大変だったな、よく生きていてくれた」
「ほんとに、今回は大変でしたよ…」
救援部隊の指揮を取るジエスは、想定外の『首』との戦闘を乗り越えたケティアを労う。
「でも、みんな頑張ってくれましたから」
ケティアは、ようやくゆったりと目を細めた。
「そろそろ、最初の馬車を出す。4人は先に引き上げてくれ」
「お心遣い、ありがとうございます」
ユービス、アイエル、エーシエの疲労の事を考えると有難い申し出だった。ケティアはジエスに頭を下げる。
「イアール君の弟さんの件はどうなりますか?」
ケティアは、ふとジエスに訊ねる。
「さすがに、これじゃなぁ…」
ケティアの言葉に、ジエスは頭を掻きながら言葉を濁すと、村の惨状を眺めた。
「商隊の連中には、行方知れずで報告するしかないだろうな…」
「そうですね…」
「その子にも一緒の馬車でチッチョルに行ってもらう。いつまでも、ここに置いておくのもさすがに酷だろう」
そう言うと、ジエスは馬車の方を指さした。
ケティアが馬車の方を見ると、イアールが馬車へと乗り込むところであった。
確かに、この荒れ果てた村の中に、子供をずっと置いておくのは不憫だった。
「さて、そろそろ馬車出すぞ、道中、気をつけてな」
「はい、お先に失礼します」
深々と頭を下げるケティアに、ジエスはイタズラっぽく笑みを浮べる。
「ビシデに、山ほどハンバーグ焼いておくように頼んでおいたから、着いたらゆっくりしてくれ」
その言葉に、ケティアの顔はパァっと明るくなる。
「お心遣い、ありがとうございます!!」
緊張が解けて、いつもの様子に戻ったケティアに、ジエスもいつものように、ガッハッハッと笑って見せた。




