4人の戦場
リンシデでは、駐留部隊による防衛線は崩壊し、既に村の中にまで魔物たち、更には『首』の侵入を許してしまっている。
村の状況は、とうに最悪の状況だった。
村の広場は血に染まり、通りには村民たちの死体が、点々と転がっている。
4人は急いで村に入るや、立ちはだかる魔物たちを蹴散らし、一目散に『首』の元へと走った。
村で魔物たちを率いていた、その『首』は一目で『首』だと分かる風体をしていた。
建物の陰から広場へと、不気味にゆったりと姿を現す『首』の巨体に、ケティアは心うちで舌打ちをする。
――まずいな、多頭の蛇型…
2つの頭を持つ蛇型の『首』は、こちらを睨む。
一体、何人噛み殺したのだろうか。
その口は既に血で真っ赤に染まっていた。
意を決して、ケティアはライトアーマーのセオリー通りに『首』の間合いに飛び込む。
だが『首』の頭が代わる代わるにケティアに襲いかかる。
ケティアは、その猛攻をバックラーで弾く中、わずかなか間隙を縫ってチェーンフレイルの一撃を打ち込むも、柔らかくしなる『首』の体はケティアの攻撃を避けることもせずに勢いを吸収し、まるで怯む気配もない。
『首』はケティアの一撃を、全く意に介さずに攻撃の勢いが落ちる事がなかった。
――しかも、こいつっ!!
「エーシエ!!行くぞ!!」
「うん!!ファイアランス!!」
ユービスとエーシエが、ケティアの加勢に出るがユービスの攻撃は反対のもう1つの頭に抑え込まれ、エーシエによる炎の槍も尻尾の一撃によって弾かれてしまった。
エーシエは即座に魔法を連射し『首』を狙うが、ブンブンと振り回される尾撃によって、その全てを防がれてしまった。
3人での一斉攻撃も、この『首』の前には軽くいなされる。
ケティアの防御と攻撃も、ユービスの連撃も、エーシエの魔法も、『首』の2つの頭と尻尾に阻まれ、隙を作る事が出来ずにいた。
その中で『首』の牙がユービスを腕をかすめる。
その瞬間、ケティアはチェーンフレイルで、ユービスを『首』の間合いの外に弾き飛ばす。
続け様に、アイエルへ叫んだ。
「アイエル!!解毒術法!!」
ケティアの言葉に、ハッとしたアイエルは兄の元へ走り、急いで傷口に解毒の術法を施す。
ユービス、エーシエ、アイエルの3人も相手の脅威を理解する。
――こいつ、毒持ち!!
「ソーンバインド!!」
エーシエは魔法の蔦で動きを止めようと試みるが、『首』はその巨体でいとも簡単に蔦を引きちぎり、その効果はまるでない。
ケティアの近距離での攻防と、エーシエの遠距離攻撃では相手を怯ませる事が出来ない。
ユービスの解毒を待って、近距離で攻撃させようにも、あの毒の脅威はどう考えても致命的。
同じ轍を何度も踏むのは、体力を消耗させるだけの愚策でしかない。
村民たちは、魔物たちに追われているこの状況下では、加勢はまるで期待出来ない。
――どうする…?考えなきゃ…
ケティアも『首』の連撃を、今は弾き飛ばせてはいるがそのうちに限界が来る。
もしくは『首』が他の魔物たちを呼び寄せ、物量で押し切られるかもしれない。
攻撃をさばき切れなくなった途端に、『首』の毒牙の餌食になる…
そうなれば、待つのは最悪の結末だけだ。
――せめてもう1人、ソーサラーが居てくれたら…
もう1人、違う角度から『首』を狙う後衛のソーサラーさえ居れば戦局は変わるのだが、今はエーシエの1人しか居ない。
ケティアは『首』の攻撃を縫って、後方へと飛ぶと、そのまま街灯にチェーンフレイルをひっかけ、森の時と同じく自分を振り子のように『首』との間合いを取る。
その、森でしたのと同じ動きに、ケティアにある1つのアイデアが浮かぶ。
――…っ!!これならいけるかもっ!!
今までやった事が無い戦法だが、躊躇っている余裕は無い。
こうしている間も、魔物たちは村人に襲いかかっている。
「エーシエちゃん私に向けて!!ありったけの速さでファイアランスを撃ちまくって!!」
そう叫ぶと、ケティアは『首』とは逆の方向へと、飛び退いた。




