誘拐事件
――だいぶ寒くなってきたな…
空もすっかりと、秋から冬の様相を見せ始めていた。
ドルーネンで依頼していた商隊からの物資も届き終わり、金の獅子団の冬支度も順調に進んでいた。
その依頼の話が来たのは、そんな頃だった。
「人探しですか?」
「ああ、子供が行方不明なんだそうだ」
金の獅子団の本部へと呼び出されたケティアは、ジエスから告げられた内容に不思議そうな顔をした。
子供の行方不明。
それは、町の外で魔物たちに襲われたり、もしくはマフィアによる人身売買目的の誘拐など、嘆かわしい話だがこのご時世では、あまり珍しい話でもなかった。
「なんでも、依頼の話だと、隣の村で魔物に攫われたらしくてな…」
「攫われる?魔物にですか?」
魔物というものは、基本的には人を襲うだけの存在で、人を攫うなどという話は迷信でしか聞いた事がなかった。
「折り紙遊びでもしていたんですかね?」
「さぁなぁ?」
昔から、折り紙遊びをすると魔物が攫いにくる。という、子供を怖がらせるための迷信がある。
昔から、折り紙は縁起が悪いとされていた。
「懇意にしてる商隊から持ち込まれた依頼なんだが、団を動かす程の報酬でもなくてな…」
そう言うと、ジエスはテーブルの上の依頼書を、ケティアに差し出した。
「悪いんだが、ケティアたち親子と後衛のエーシエで、頼めないか?」
ケティアは依頼書に目を通す。
場所はチッチョルから2日ほどの距離にある、リンシデという小さな村だった。
誘拐された子供は、その村の教会で下働きをしている男の子らしい。
その事に、ケティアの頭には更に「?」が浮かぶ。
――魔物のしわざなら、生きてる公算はほとんどゼロだろうし…
―― そもそも、なんで教会の下働きの子の為に、商隊に頼み込むような事するんだろ?
更に、依頼料は傭兵団が小隊4人を動かすのに妥当な額面が書いてあった。
なのだが、やはり常識で考えると、とても子供1人探すために出すような金額ではなかった。
色々と疑問符の多い依頼ではあったが、これから冬が本格的に始まるという季節。
ジエスは冬に団を動かす事を嫌う。
しばらくは遠征で『首』を討伐した時の臨時の収入は無くなる。
家計や貯蓄の事を考えると、余裕があるに越した事はないし、なにより…
――アイエルのお誕生日もそろそろだし…
娘の13歳のお誕生日パーティーをより豪華にしてあげたい気持ちもあった。
「分かりました。明日には出発しますね」
「すまんが、よろしくやってくれ」
「はい、それでは、失礼します」
そう言うとケティアは団長室を後にした。
翌日、ライトマン一家とエーシエの一行は、隣村のリンシデに向かい出発する。
しかし、2日の旅程を終えて、リンシデの村で一行が目にしたのは…
村を襲う魔物たちと、それを率いる『首』の姿だった。




