天敵
「商隊の護衛とか良いじゃないかしら?報酬もいいわよ」
――あれ…?割とちゃんと仕事探そうとしてくれてる?
「任期5年」
――前言撤回。
「後は、隣町でマフィアのボスの用心棒とかあるわね」
「…ちょっと、アルエンヌ、ちゃんと探しておやりよ」
あまりにもケティアに塩対応なアルエンヌに、ビシデが苦言を呈する。
だが、アルエンヌはツンツンとした態度を崩さない。
アルエンヌの態度には、理由があった。
それはケティアの夫、キュエムにまつわる因縁。
キュエムの特技の1つに、歌があった。
ケティアとキュエムがチッチョルに移り住んだ頃、キュエムは生活費の為に、傭兵のかたわらで、酒場でその美声を披露するアルバイトをしていた時期がある。
その美声と整った顔立ちは、多くの女性を魅了し酒場の売上に大きく貢献していたのだった。
アルエンヌは、その時に出来たキュエムファンクラブの会長を務める程の、キュエムのファンだったのだ。
その後、キュエムのケティアの結婚を泣く泣く祝福したアルエンヌ。
それからずっと、アルエンヌとケティアの犬猿の仲は続いていたのだった。
ケティアを庇うビシデにやれやれといった様子で、アルエンヌは1つの依頼を提案する。
それは近隣の森での、薬草とキノコ採集の依頼だった。
アルエンヌもまた、ビシデ同様にケティアとは10年来の付き合いになる。ケティアの得意不得意はある程度把握はしている。
「あそこは魔物出るから、報酬もそこそこ。それに、ケティアにはその辺の魔物なんて問題ないでしょ?これでいい?」
表面上は塩対応なアルエンヌだが、ケティアの事を心から嫌いという訳ではない。
本当はケティアに対して、素直になりたいのだが、ずっとこの態度を貫いてきた手前、恥ずかしくて今更それを崩せないでいるのだった。
「さっさと依頼書にサインしてちょうだい」
そう言って差し出された依頼書には、隻腕のケティアを気づかい、ちゃんと文鎮が添えられていた。
――ほんと、素直じゃないねぇ…
それが分かっているビシデは、クスりと苦笑いをするのだった。
「はいはい、確かに。ほら、さっさと帰ってよね」
それが分かっていないケティアは、頬を膨らませむくれながら、ギルドを後にするのだった。




