戦わなければならないもの
チッチョルに帰ってきて、5日。
遠征からの荷物の片付けや、お友達やご近所さんへのお土産配りもようやくひと段落がついた頃、ケティアは遂に、襲い来るものたちとの、避けることの出来ない戦いを余儀なくされる。
それは容赦なく、ケティアを打ちのめす。
認めたくない現実が、そこにはあった。
3文字の言葉たちが、ケティアに無慈悲に牙を剥く。
家計簿と生活費、そして財政難だ。
その3つが、ケティアに襲いかかっていた。
フィリアネとドルーネンでの散財は、思っていた以上にライトマン家の財政を圧迫していた。
赤い魔石を売ったお金も、もうすっかりと、すっからかん…
…と言うよりむしろ、ちょっと足が出ていた。
――私がなんとかしなくては…
ユービスは、団での演習の合間に荷運びのアルバイトに出てはいるが、そちらはエーシエとのデート代の為に頑張っているものだ。
そこを家計の宛にするのは流石に気が引ける。
アイエルは、学校のかたわらで、町の医療院に手伝いに行ってはいるが、そちらはほぼお小遣い程度の、無償のボランティアに近かった。
こういう時に頼りになるのは、やはり…
「なに?バイトのくちはないかって?」
漁師町チッチョルでも顔が利く、ビシデだった。
「そんなに、キツいんなら、少しくらいならヘソクリから借してやれるけど…」
そう言いかけたビシデだが、無言でケティアが差し出した家計簿(惨状)を見ると、爆速で顔色と意見を変えた。
「ケティア、仕事しろ。」
「…はい」
だが、ここで1つの問題がある。
隻腕のケティアは、荷運びなどの両手を使う力仕事、物作りや家事などの細かい作業などが、どうしても難しい。
そうなると、選べる選択肢は町の中での仕事よりも、どうしても魔石狩りや薬草採集などの町の外の仕事になる。
「ギルドで斡旋してもらうのが1番じゃないかい」
「やっぱり、そうなるよね…」
「…あんた、まだ、アルエンヌの事、苦手なのかい」
「…だってぇ」
浮かない顔のケティアの様子に、ビシデはヤレヤレと首をすくめる。
「これ干したら、一緒に行ってやるから、少し待ってておくれ」
そう言って、ビシデは洗濯物を竿にかけ始めた。
ビシデが洗濯物を干し終えると、2人はギルドセンターを訪ねた。
ドルーネンのような大都市では冒険者や商人、鍛冶師や傭兵ギルド等、様々な職業に対応したギルドがそれぞれに存在するが、チッチョルのような小規模な町ではギルドセンターは1つに集約されている事が多い。
チッチョルギルドセンターでは、武具や魔法具の制作、薬の精製などの専門的な依頼から、庭木の手入れや家事や育児の代行まで、チッチョルでの各種仕事や依頼事の受付と管理、斡旋を一手に取り扱っていた。
2人がギルドへ入ると、それに気づいた、カウンターの中の女性は2人の方をへと振り向いた。
腰まで綺麗に三つ編みに編んである青髪が、くるりと揺れる。
「チッチョルのギルドセンターへようこ…」
営業スマイル挨拶が、途中で固まる。
そのメガネの奥の表情は、ケティアを見ると、笑顔から一気に嫌そうな顔に変わる。
彼女はアルエンヌ・イルザック。
チッチョルギルドセンターで女性ながらに地方支部長を務める才媛。
そして、自他ともに認める、ケティアの天敵だった。




