母たちの、夜の語らい
ビシデもまた物思いにふけり、眠れずにいると、玄関からコンコンというノックの音が響く。
「誰だい?こんな時間に…」
そう言いながら玄関を開けると、そこにはケティアの姿があった。
「ちょっと、付き合ってよ」
そう言うと、ケティアは傍らのワインのボトルを拾って、ズイっとビシデに差し出した。
「あんたも、眠れなかったくちかい」
ビシデはそう言ってクスクスと笑うと、ケティアを部屋に招き入れた。
「あの子は、どうしたんだい?」
「ユービスと話に行ったよ」
「そうかい、なら良かったよ」
ビシデは満足げに短くそれだけ言うと、ケティアにグラスを手渡した。
それだけで何も言わないケティアに、ビシデはずばりとケティアがここに来た理由を言い当てる。
「キュエムの事、思い出してたんだろ?」
その言葉に、ケティアはハッと驚きの顔を見せる。
「…なんで、分かんの?」
「どんだけ、長い付き合いだと思ってんのさ」
「…敵わないなぁ」
そう言って苦笑いすると、ケティアはワインに口を付けた。
「久しぶりにあんたの口から、キュエムの名前聞いたしね」
「…そうだね、色々思い出しちゃった」
少しの沈黙の後、ケティアは言葉を続けた。
「…あの時は、ありがとね」
「あの時?」
「初めて会った時、アイエルの事助けてくれたでしょ?」
「ああ、なんて事ないさ」
後から聞いた話だが、あの時ビシデは産まれたての自分の初子を、亡くしたばかりだったらしい。
その事を聞いた時、本当に胸が苦しくなった事をケティアは思い出していた。
「私も、寂しかったんだろうよ。逆にアイエルが居て助かったのは、私の方さ」
「そっか…」
ケティアは、躊躇いながらも、昔を思い出した理由を、正直な自分の思いを口にし始めた。
「本当はね、こんな事、思っちゃダメなんだろうけどさ…ユービスとエーシエちゃんの事、どうしても羨ましくなっちゃってさ…」
エヘヘと、作り笑顔のケティアだが…
「そしたらキュエムの事とか、色んな事、思い出しちゃってさ…」
その声は震えていた。
そんなケティアの頭を、ビシデはわしゃわしゃと撫でつけた。
「私たちだって、親である前に女だからね、そりゃあ仕方ないさ」
ビシデはケティアの頭をその手でぐしゃぐしゃにしたまま、優しく言葉を続ける。
「それに、あんたは、親としても立派にやってるよ」
その言葉に、ケティアの目頭はグッと熱くなる。
「そうだと、いいんだけどね」
「血の繋がりがないのに、あの子たちをあそこまで立派にしたじゃないか」
「うん、2人とも大きくなったよ」
「誰にでも出来ることじゃないさ」
そう言うと、ビシデもグイッとグラスを傾けた。
それに続けて、ケティアもグラスに口を付ける。
「キュエムも、喜んでくれてるかな」
「当たり前だよ」
そう言うと、ビシデはケティアの前に、グッと拳を握ってみせた。
「もし、そうじゃなかったら、1発お見舞いしてやるさ」
「ちょっと、やめてよねー」
そんなビシデに、2人は笑いあった。
「そういえば、聞いておくれよ、こないだウチのがさ…」
ビシデは、自分の育児の悩みをケティアに相談し始めた。
ビシデの方が年上だが、ママさん歴は、ケティアの方が一応(?)長い。
ビシデは子供たちの愚痴と相談を。
ケティアは今回の遠征での出来事を。
ケティアとビシデは明け方近くまで、ワインを傾けたのだった。




