出会い
洞穴から出ていくキュエムを見送ると、しばらくして、1人残されたケティアは自分の腕の中にいるアイエルの異変に気づく。
アイエルの目は開いてはいたが、泣くことも出来ずに、ぐったりとしていた。
ケティアは必死にアイエルを揺するが、アイエルは泣くこともしなかった。
――…だめっ!!死んじゃだめ!!
いてもたってもいられずに、ケティアは自分の乳房を必死にアイエルに咥えさせた。
アイエルは母乳を求め、必死に乳房を吸うのだが子供を産んだ事のないケティアから、乳など出るはずも無かった。
それでも、ケティアは奇跡に縋る事しか出来なかった。
だが、乳を吸うアイエルの力はだんだんと弱くなっていく。
「…だめっ!!死んじゃやだっ!!死んじゃだめっ!!死なないでっ!!」
泣きじゃくるケティアの悲痛な叫びが、洞穴に響く。
その声に驚いて、ユービスも目を覚ますと大きな声で泣き出してしまった。
ケティアの胸が、焦りと不安の色で染まっていく。
「おい!!誰か居るのか!!」
その時、入口からの光に、人影が映った。
その声は、キュエムの物とは違う、野太い男の声だった。声の主がキュエムでは無いことに、ケティアは震え上がる。
洞穴の中で泣いている幼い男の子と、その隣で、こちらも年端もいかない女の子が必死に赤子に乳をやっている。
その様子を見ると、男は叫んだ。
「おい!!ビシデ、来てくれ!!」
「どうしたい?あんた…」
男の言葉に、大柄な女が現れる。
「…すまんが、頼めるか?」
男の言葉に女は洞穴を覗くと、ケティアとアイエルの様子を見て、すぐにある事に気づく。
必死に乳房吸うアイエルからは、母乳を嚥下している様子がない。
「あんた…それ、乳なんて出てないだろう」
そう言うと、ケティアから、アイエルを取り上げた。
「…っ!!だめっ!!返してっ!!その子を返してっ!!」
アイエルを取り上げられ、半狂乱で泣き叫ぶケティアに、女はぶっきらぼうに答える。
「大丈夫、取って食いやしないさ」
そう言って、自分の乳房を取り出すと、アイエルに吸わせ始めた。
アイエルはようやく口に入ってきた母乳を、ゆっくりとだが、しっかりと飲み始めた。
「そうそう、ゆっくりでいいからね、たくさんお飲み…お腹空いてたんだね」
半狂乱のケティアだったが、その様子に呆気にとられる。
そんなケティアに、男はそっと用意した毛布をかけてやると、今度は頭を撫でながらユービスをあやし始めた。
「ほら、もう大丈夫だぞ。泣くんじゃない、男の子だろう」
その2人の様子に、呆然とケティアから、緊張と力が抜けた。
女はアイエルに乳をやりながら、目を細めながるとケティアに優しく話しかける。
「危ないとこだったけど、もう大丈夫さ、あんたも安心しておくれ」
女はそう言うと、アイエルに愛おしそうに優しく目を落とした。
「そうだ、いい子だね、たくさん飲むんだよ」
そんな時、辺りの偵察から帰ってきたキュエムの声が洞穴に響く。
「お前たちっ!?ケティアたちから離れろっ!!」
愛する者を守ろうとするキュエムの毅然とした言葉に、男は刺激しないようにゆっくりとした口調で答える。
「大丈夫だ、あんたらに危害を加えるつもりはない。安心してくれ」
必死に身構えるキュエムに、男はさらに続けた。
「俺は傭兵団、金の獅子団の、ジエス・エルモンドってもんだ」
それが、ケティアとキュエム、ジエスとビシデの初めての出会いだった。




