赤い月に思いは巡る
今夜みたいな、赤い月の夜は嫌いだった。
あの日も、同じように赤い月が輝く夜だったからだ。
赤い月の光と、赤い炎と黒い影が、ゆらゆらと…
魔物たちの軍勢に故郷を焼かれたあの日の事が、どうしても脳裏をよぎるから。
あの夜は、故郷からどれだけの時間、どれだけの距離を逃げたのか、分からない。
だが、キュエムと一緒に逃げた道の暗さ、その怖さだけは、よく覚えていた。
無我夢中で走り、転び、立ち上がり、そして、また無我夢中で走った。
その末に、ようやく見つけた崖下の洞穴へと、みんなで身を寄せた。
「ひとまず、ここへ…」
息を切らしながらキュエムは、ケティアと抱いていたユービスを、洞穴へと落ち着かせると、自身もようやく息を整え始めた。
洞穴には、まだ幼いユービスの泣き声が響いている。
ユービスは心細さで、力いっぱいケティアの服の裾を掴んでいた。
「ここなら、休めそうだな…」
洞穴の奥に何も潜んで居ないことを確かめると、キュエムはそう言って火の魔石を取り出すと、火を付けた。
ボッという音ともに、火が灯る。
ケティアは、その音と光にすらも、ビクッと体をすくませた。
「ごめん、でも、暖まらないと…」
恐怖と寒さに震えるケティアと泣きじゃくるユービスに、キュエムはできる限り優しく笑いかける。
「大丈夫だから、じゃないと、その子も凍えてしまう」
そう言って、キュエムはケティアが抱く赤子に視線を落とした。
「大丈夫、僕たちが絶対に守るからね」
キュエムは、ケティアの腕の中のアイエルに笑いかける。
洞穴の中で4人で暖をとった。そのうちに、ユービスはケティアにもたれかかり、泣き疲れたのだろう、スヤスヤと寝息を立て始めた。
その様子にキュエムは、安心したように微笑んむ。
「君もおやすみ。僕が見張っているから」
そう言って、ケティアの頭をゆっくりと撫でた。
キュエムの言葉と笑顔に安心すると、ケティアもようやく目を閉じる。
緊張が解けると、ケティアは気を失うかのように、眠りに落ちた。
ケティアは遠くで嘶く馬の声で目を覚ました。
どれだけの時間寝ていたのだろうか、ケティアが目覚めた時には、洞穴の外はすっかり明るくなっていた。
キュエムの耳にもその声は届いていた。
今回のような戦時に、馬で戦場へと駆けつけるのは、王国軍か、傭兵団か、教会の救援団か、もしくは…
――野盗で無ければいいんだが…
焼かれた街を狙う、略奪目的の野盗の可能性もあった。
「助けがきたみたいだよ、少し行ってくる」
不安がるケティアを安心させる為に、キュエムはあえて、その可能性は胸に秘め、口にはしなかった。
だが、ケティアは、無言でキュエムの腕を掴みブンブンと首を横に振る。その目は残される事への恐怖の色で溢れていた。
「大丈夫だよ、みんな助かるから」
そんなケティアに、キュエムはゆったりと微笑むと、頭を撫でながら告げる。
「安心して、すぐに戻るからね」
そう言うと、キュエムは様子を探る為に、洞穴を後にした。
ケティアには、早く帰って来てと祈りながら待つことしか出来なかった。




