表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/56

赤い月に思いは巡る

今夜みたいな、赤い月の夜は嫌いだった。

あの日も、同じように赤い月が輝く夜だったからだ。


赤い月の光と、赤い炎と黒い影が、ゆらゆらと…

魔物たちの軍勢に故郷を焼かれたあの日の事が、どうしても脳裏をよぎるから。


あの夜は、故郷からどれだけの時間、どれだけの距離を逃げたのか、分からない。

だが、キュエムと一緒に逃げた道の暗さ、その怖さだけは、よく覚えていた。


無我夢中で走り、転び、立ち上がり、そして、また無我夢中で走った。

その末に、ようやく見つけた崖下の洞穴へと、みんなで身を寄せた。


「ひとまず、ここへ…」

息を切らしながらキュエムは、ケティアと抱いていたユービスを、洞穴へと落ち着かせると、自身もようやく息を整え始めた。

洞穴には、まだ幼いユービスの泣き声が響いている。

ユービスは心細さで、力いっぱいケティアの服の裾を掴んでいた。


「ここなら、休めそうだな…」

洞穴の奥に何も潜んで居ないことを確かめると、キュエムはそう言って火の魔石を取り出すと、火を付けた。


ボッという音ともに、火が灯る。

ケティアは、その音と光にすらも、ビクッと体をすくませた。


「ごめん、でも、暖まらないと…」

恐怖と寒さに震えるケティアと泣きじゃくるユービスに、キュエムはできる限り優しく笑いかける。

「大丈夫だから、じゃないと、その子も凍えてしまう」

そう言って、キュエムはケティアが抱く赤子に視線を落とした。

「大丈夫、僕たちが絶対に守るからね」

キュエムは、ケティアの腕の中のアイエルに笑いかける。


洞穴の中で4人で暖をとった。そのうちに、ユービスはケティアにもたれかかり、泣き疲れたのだろう、スヤスヤと寝息を立て始めた。

その様子にキュエムは、安心したように微笑んむ。

「君もおやすみ。僕が見張っているから」

そう言って、ケティアの頭をゆっくりと撫でた。


キュエムの言葉と笑顔に安心すると、ケティアもようやく目を閉じる。

緊張が解けると、ケティアは気を失うかのように、眠りに落ちた。


ケティアは遠くで(いなな)く馬の声で目を覚ました。

どれだけの時間寝ていたのだろうか、ケティアが目覚めた時には、洞穴の外はすっかり明るくなっていた。


キュエムの耳にもその声は届いていた。

今回のような戦時に、馬で戦場へと駆けつけるのは、王国軍か、傭兵団か、教会の救援団か、もしくは…


――野盗で無ければいいんだが…


焼かれた街を狙う、略奪目的の野盗の可能性もあった。

「助けがきたみたいだよ、少し行ってくる」

不安がるケティアを安心させる為に、キュエムはあえて、その可能性は胸に秘め、口にはしなかった。


だが、ケティアは、無言でキュエムの腕を掴みブンブンと首を横に振る。その目は残される事への恐怖の色で溢れていた。

「大丈夫だよ、みんな助かるから」

そんなケティアに、キュエムはゆったりと微笑むと、頭を撫でながら告げる。


「安心して、すぐに戻るからね」

そう言うと、キュエムは様子を探る為に、洞穴を後にした。

ケティアには、早く帰って来てと祈りながら待つことしか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ