花嫁修業
「ファイアランスっ!!」
エーシエは今までのように手のひらからでは無く、手にした杖の先から炎の槍を放つ。
だが、それはガクガクと軌道がブレて、狙った的には届かず、文字通り的外れに地面へと突き刺さる。
今までは左手に杖を持ち、右手で魔法を放っていた。
だが、左手が無い今は、出力からコントロールまで、全てを杖を持った右手1本でこなさないとならない。
「もっと集中!!」
「はい!!」
ケティアの檄に、エーシエはもう一度気合いを入れ直す。
杖を使いながら魔法の威力は落とさずに、尚且つ、魔法のコントロールを同じ右手で行う。それはエーシエにとって至難の業だった。
みんなでショッピングをした日から2日後、エーシエに治療院からの退院許可が降りた。
そして、退院したエーシエを早速待っていたのは…
「じゃあ、修行しましょ♡」
ケティアの特訓のお誘いだった。
街の外で、他の団員の修練も兼ねての提案だった。
それからもう2時間ほど、ずっと的を狙って炎の槍を放っているのだが、まだケティアにバックラーを使わせる事が出来ていない。
そんな折、ジエスの声が遠くから響いてくる。
「おらぁ!!もたもたすんなぁ!!足は兵士の基本だぞ!!」
ジエスはユービスとアイエル、更に他の団員たちを引き連れて、街の外周の走り込みに出ていた。みんなの走る足音と共に、ジエスの声も近づいてくる。
「死ぬのは自分だけじゃねぇぞ!!気の緩みで、他の奴まで死ぬかも知れねぇんだ!!そうなりたくねぇなら、気合い入れろ!!」
――気の緩み…!!
エーシエは、自分が左手を失った時の事を思い出す。その原因こそが、気の緩みからきたものだ…
「…ケティアさん!!いきます!!」
「全力で!!集中っ!!」
「はいっ!!」
「ファイアランスっ!!」
渾身の力を込めた炎の槍だったが、その軌道はまたもガクガクと震え、今度は明後日の方向へと飛んで行ってしまった。
一方、ジエスたち一行は、ケティアたちの元まで来ると、ジエスは走り込みの足を一旦止めた。
「よーし、少し休憩だ、休め!!」
団のみんなは、息も絶え絶えといった様相だった。
ユービスですら息を切らすそんな中で、まるで何事も無いように涼しい顔をしているのは、意外な事にアイエルだった。
「アイエルは大したもんだな」
ジエスの言葉に、エッヘンと自慢げなアイエル。
「走ってる…間中…自分に回復魔法…使ってただけじゃねぇか…」
息も絶え絶えで不満げに文句を言うユービスに、ジエスは真顔で告げた。
「それも、立派な生き残る為の方法だ。それに、治癒士は戦場じゃ最後まで倒れちゃなんねぇだろ」
ジエスはポンポンとアイエル撫でると、言葉を続けた。
「やばくなったら、生き残るためなら、なりふりになんて構うな。これは鉄則だ」
「はい!!ありがとうございます、団長!!」
真剣な表情で、アイエルは答える。この場では金の獅子団の治癒士、ジエスの部下のアイエル・ライトマンだった。
ケティアはそれを満足そうに眺める。
「私たちも、少し休憩しようか」
「はい…」
ケティアたちも、地面に腰を降ろす。
今日はポカポカと日差しも暖かく、絶好の修練日和。ジエス同様、ケティアも気合いが入っていた。
「魔法って、イメージが大事って言うじゃない?」
「ええ、確かにそうですね、イメージの具現化というか…」
――イメージ…
「何か、強く、真っ直ぐなイメージ出来そうな物があれば、コントロール出来るのかもしれないんですけど…」
エーシエは、ユービスの方に目を向ける。
何よりも強いエーシエの思い。
エーシエは、ふと自分の右手に輝く腕輪に目を落とす。
無くしてしまった腕輪の代わりに、ユービスが託してくれた約束…
もうこの腕輪を、二度と無くす事の無いように…
――…っ!?…これだ!!
「…そうか、腕輪だ」
「…?」
「ケティアさん!!もう一度お願いします!!」
目を輝かせるエーシエ。その瞳は何かを掴んだ様子だった。
エーシエはケティアに向き合い、先程思いついた方法を試してみる。
エーシエは、無くしてしまった自分の腕輪のイメージを宙に描く。
――ユービス君が貸してくれた腕輪と、杖の先端、無くしてしまった私の腕輪を一直線に結ぶイメージ…
ユービスが貸してくれた約束を、無くしてしまった自分の腕輪に誓う。
――…もう、二度と、絶対に、この約束を無くさない!!
「ファイアランスっ!!」
一陣の炎が、ケティアを穿つ
その炎の槍は、今までよりも猛々しく燃え盛り、今までの何倍も鋭い速さで、軌道は一切ブレる事なくケティアの元まで届き、見事にバックラーを使わせた。
「出来た…」
ケティアは、いきなりの精度で狙いすまされたその一撃をなんとか弾く。その豹変に意表を突かれた表情だったが、次の瞬間ニヤリと不敵に笑う。
「いいわね、もっと来なさい!!」
「はいっ!!」
エーシエの炎の槍は、もうブレる事なくケティアはその全てをバックラーで弾き飛ばす。
「いい感じ!!そのイメージを忘れないで!!」
「はいっ!!」
「次は動く的を射抜く練習!!私の動きに着いてきなさい!!」
忘れる事なんて、絶対にない思い。
エーシエは、空が赤く染まるまで、ひたすらにケティアに炎の槍を放ち続ける。
それは1本たりと、ブレる事なく、その全てがケティアにバックラーを使わせたのだった。




