日記と盾
夕食を終えると、ケティアは部屋に戻った。
いつもは何皿も空けるケティアだったが、今日は少なめの2皿に留めておいた。
これからのお財布事情を考えると頭が痛いケティアだったが、楽しかった今日1日の事を思い返すと、少しだけ気持ちが軽く、暖かくなった。
――ちゃんと日記に書かないとな…
ケティアは腰の袋から日記帳を取り出す。
手のひらに乗るサイズの小さな日記を、ケティアは常に持ち歩いていた。
今は亡き夫が遺してくれたケティアにとって、何よりも大切な日記帳。
そこに1日にあった事を記していくのが毎日の日課だった。
綺麗な装飾の付いたピカピカな表紙を、妻は愛おしく撫でた。
今日、みんなでお買い物に行った事。
ユービス、アイエル、エーシエが、とても仲良くなって、楽しそうにしていた事。
服屋さんで、みんなでファッションショーをした事。(その後、店員にちょっと嫌な顔をされた事)
少し散財しすぎて、反省してしまった事。
日記の最後を閉める文章を書き終えると、日記帳はケティアの文字を吸い取り、また白いページに戻った。
この日記帳は魔法具になっていて、ケティア以外の人は読めないようになっている。
ケティアだけが書いた文字を浮き出させる事が出来る、不思議な日記帳だった。
日記を付け終わると、ケティアは買ってきたワックスを取り出し、自慢の皮のバックラーに片手で器用に塗り始める。
ケティアはこの皮の光沢が大好きだった。
これも、亡き夫の遺してくれた大切な品。
このバックラーも魔法具になっていて、革製ながら、どんなに強力な魔物の一撃を食らっても、魔術すらをも弾き飛ばしても、傷の1つも付く事がない、夫が作ってくれた特別製。
このバックラーのおかげで、今回の『ふた首』との難局も乗り切る事が出来た。
金の獅子団の、盾の母の…
愛おしい愛おしい、最強の盾。
ワックスをかけ終わると、ケティアはバックラーを乾燥のさせる為にベッドに立て掛ける。
目を閉じると、ケティアは心の中で夫に話しかけた。
――ねぇ、あなた…
――ユービスにも大切な人が出来たよ…
――アイエルも本当に立派に頑張ってるよ…
――2人とも、本当に大きくなったよ…
ケティアは堪えきれずに、バックラーをその胸に抱きしめベッドに倒れ込む。
大好きな、皮とワックスの匂いが妻の胸を満たしていった。
――ねぇ…褒めてくれる…?
「ママー、お風呂準備出来たってー、入ろー」
アイエルの呼び声に、ケティアはベッドから立ち上がる。
「はーい、今行くね」
少しだけ、枕が濡れていた。




