ドルーネン防衛戦
「思ってたより、やべぇな、こりゃ…」
自ら斥候に出たジエスと随伴したケティアは、高台から戦場を見渡した。
魔物たちの軍勢の数は約6000ほど。規模はさほどではあったが、それは2つに戦力を分けて、南北から味方側軍勢の主戦力に挟撃をかけている。
それにより、伸びきった戦線への増援は導線を阻害され、孤立した主戦力がすり減って行くのが見て取れる。
それを見たジエスは、苦々しく呟く。
「『ふた首』か、面倒だな…」
「もしくは、それ以上って考えた方が良さそうですね…」
二手に分かれた戦略的な魔物たちの攻勢、それは『首』が複数いる時の特徴だった。
5日の行軍を終えて、金の獅子団は戦場と目と鼻の先の位置まで来ている。既に臨戦態勢を取らせて、今は待機をさせてあった。
「挟撃の間を縫って、うちの戦力を向こうさんの主力に合流させる。主戦線を立て直す間の撹乱は南側の群れから、いつも通り任せる」
ジエスは戦場を見下ろしたまま続けた。
「俺はこのまま戦場に入る。ウチの連中は、俺のケツを追わせてくれ」
「分かりました、すぐに向かわせます」
日の光に黄金に輝くヘビーアーマー、金の獅子ジエス・エルモンド。
長柄斧を威風堂々と担ぐと、金獅子は振り向かずに、背中越しにケティアに命令を告げる。
「急げよ、人が死ぬ」
「はい、ご無事で」
ケティアは短く返事をすると、金の獅子団の本隊へと、自慢の瞬足を飛ばした。
「団長令!!団員は直ちに全速をもって、団長に続け!!」
合流したケティアの号令で、金の獅子団本隊は掛け声と共に、直ぐさまジエスの金色の鎧を目掛けて突撃をかけ始める。
ケティアとユービスの2人、矛と盾の2人を残して。
「こっちも行くわよ、ユービス!!」
「任せとけって!!」
地を蹴る具足たちの音に背を向けて、ケティアとユービス、矛と盾の親子は南側の敵陣真ん中へと向かい、突進を始めた。
矛と盾の連携は、実に単純で乱暴な戦法だった。
ユービスの持つ槍の柄の先端はU字型のカギが付いている。
ユービスはそこに ケティアの錨型のチェーンフレイルに引っ掛けると、そのままケティアごと振り回し…
「行くぜ!!オカン!!」
ケティアを宙へと放り投げる。
ケティアは着地と同時に、バックラーで魔物の放つ攻撃を弾き、着地の勢いのままに右腕のチェーンフレイルで、周りの魔物たちを薙ぎ払う。
ケティアの作ったその隙を突いて、ユービスの矛先も、次々と魔物たちを討ち倒して行く。
ユービスの槍とケティアのチェーンフレイルを用いた、ケティア自身を放り投げる投擲攻撃。
大柄なランサーのユービスと、小柄なライトアーマーのケティアにしか出来ない、唯一無二の戦法。
金獅子の誇る、矛と盾の親子の奇襲攻撃。
「ユービス!!振り回して!!」
「おうよ!!」
その言葉にユービスはケティアのチェーンフレイルを槍に付けたままで、その槍をブンブンと振り回す。
ケティアは振り回されながら、バックラーで魔物たちを薙ぎ払い、その目は回転する視界の中に『首』を探す。
――見つけたっ!!
「ユービス!!太陽から4時方向!!」
魔物たちの群れの中に『首』と思しき個体を見つけ指示を出すと、次の瞬間には、ケティアの体は既に宙を舞う。
着地と同時に魔物たちはざわめき、明らかに『首』を庇う動きを見せる。その違和感をケティアは逃さない。
――間違いない、こいつだ。
群れの中にいる、トカゲ型。
その姿こそ、四肢を地に着けて他の魔物たちに紛れ、目立たぬ様に気配を消してはいるが、この群れの戦型はケティアたち親子の動きを警戒し、明らかにこの個体を守る動きを見せていた。
ケティアとユービスの陽動。
その派手な動きは、魔物たちに2人の脅威を誇示し、その中に出る動きの違和感を炙り出す為。
ケティアは持っているバックラーで行く手を阻む群れの攻撃を払い退け、チェーンフレイルで周囲を蹴散らし、更にそのまま、『首』へと渾身の一撃打ち込む。
『首』は身を翻して、その一撃をひらりと躱すのだが…
それだけで充分だった。
「ユービスっ!!」「おらぁっ!!!!」
ユービスの一撃が、仰け反った『首』の腹を大きく抉り抜いたのは、ケティアの言葉と同時の事だった。
途端に、群れの統率は失われる。
2人に襲いかかる魔物たちも、頭や体をぶつけ合い、群れが放つ攻撃はちぐはぐに縺れあっている。それを確認すると、ケティアは直ぐさま号令を出す。
「本隊に合流!!ユービス、先陣を!!」
「了解!!かっ飛ばすぜ!!」
今度は矛の息子がその道を切り拓いていく。
2人は主戦力へ合流しているはずの、本隊へと向けて走り出した。




