エーシエ・ユルヴィ
野営地に戻る頃には、3人はすっかりずぶ濡れになっていた。そんな体の冷えきった3人を、ジエスは笑顔で迎えた。
「ご苦労さん、テント暖めておいたぞ」
そういうと、首をクイッとテントに向ける。2つのテントが暖められていた。
実に豪快な性格のジエスだったが、こういう時はめっぽう気が利く。
ストーブでちゃんと男女用の2つを用意してくれていた。
「それじゃ、早速行きましょ、エーシエさん」
「…あ、いえ、私は後でも構いませんので、お先に」
「ダメです!!健康管理も、傭兵の大事なお仕事!!早く早く!!」
そう言って、ケティアは半ば強引にテントの中にエーシエを押し込んだ。
「それじゃ、ママ、手伝うよ」
「ううん、今日はエーシエさんに着替え手伝って貰うから大丈夫よ、ありがとうアイエル」
不思議そうなアイエルを残して、ケティアはテントに入っていった。
「覗いちゃダメよ?」
テントは支柱をしっかり立てる方式のもので、中は快適に広い。ストーブ魔法具のふわっと優しい暖気がテントの中を漂っていた。
「ごめんなさいね、脱ぐの手伝って貰っちゃって」
「いえ、全然大丈夫です!!」
エーシエは、不慣れで、更に緊張しながらも、一生懸命にケティアの着替えを手伝う。
着替えのお手伝いは、いつもはアイエルの役目。
正直アイエルに頼んだ方が早いのだが、エーシエにお願いしたのは、今日はちょっと2人で話がしたかったからだ。
2人は濡れた服を着替えると、向かい合って、炎の魔石の揺らめくストーブ魔法具を囲んだ。
エーシエ・ユルヴィ。
ユービスの一つ年上の17歳。
金の獅子団の中では実戦経験の少ない、まだまだ未熟なかけ出しのソーサラー。
――さて、息子の事はどう切り出したものかな…
「…あ、あのっ!! 」
少しの沈黙の後、先に言葉を切り出したのは、耳まで真っ赤になったエーシエだった。
紅潮しているのは、ストーブの熱のせいだけでは無いようだ。
「あの、私、ユービス君とお付き合いさせて、貰ってて、その…」
無言のケティアに、エーシエはさらに言葉を繋ぐ。
「本当は、経験不足で、実力も全然違うし、ユービス君と私では、不釣り合いなのは分かってるんです!!でも…」
その言葉は、寒さとは違う理由で震えていた。
エーシエは泣きそうになりながらも、しどろもどろになりながらも、必死に言葉を繋ぐ。
「本当に、ユービス君のこと、愛しています…」
「今日は、その事を、ケティアさんには、分かって、欲しくて…」
――ああ、そうか、今日は、ずっとこの事を伝えたかったのか…
自分が考えていた以上にユービスの事を深く思ってくれていたエーシエに、ケティアは目を細めた。
突然、今日の討伐に着いて行きたいと申し出た時も、彼女にとって意を決した、とても勇気と覚悟の要ることだったのだろう。
不器用でも、真剣にユービスに、その母のケティアに向き合うエーシエに、母の胸には言いようの無い気持ちが溢れる。
どうやら、息子の女性を見る目は間違っていないようだった。
今にも泣き出しそうなエーシエを、ケティアは左手でそっと抱き寄せる。
「ユービスの事、大切に思ってくれて、本当にありがとう」
耐えきれず、エーシエの頬には涙が伝う。
「これだけは約束して」
ケティアは、切に願いを伝える。
「生きて、生きて、生き抜いて、ずっと、ずっと、ユービスの隣に居てあげてね」
「…はい、絶対に、約束します」
今日は、日記に書き記すことが、また幸せな記憶が、たくさん増えたケティアだった。
――…エーシエお姉ちゃんか。
テントの外から、ちゃっかりと中を窺っていたアイエルは、フフッとそんな事を思っていた。
――ココア好きかな?
お湯を沸かしに向かうアイエルの足取りは、ウキウキと軽かった。




