やがて思い出になる、今
――うーん…どうしようかな…
ケティアは思案していた。
…左手の円形盾で、ずっとボスの攻撃を凌ぎながら。
つまり、これは、即ち…
――このボス、見た目だけで強くないな…
その巨躯から繰り出される一撃は、まるで見かけ倒しで、先程まで倒していた魔物たちと比べても、毛を生やした程度の強さだった。
つまり、それは、即ち…
――エーシエさんの相手にちょうどいいかも…
ケティアは思案の末、わざと大きく、オーバーに攻撃を弾き始めた。
ボスから繰り出される一撃一撃の間隔は広くなり、その隙が大きくなる。
「今です!!魔法で足止めを!!」
「は…はいっ!!ソーンバインドっ!!」
ケティアの言葉に促されて、放たれたエーシエの魔法の蔦は地を這うとボスの足を絡め取り、動きを封じることに見事に成功する。
「続けて、相手の腕を狙って!!」
「はいっ!!アイシクルエッジっ!!」
続け様に繰り出された氷の刃は、鋭く光を放ち、見事にボスの腕を切り落とす。
「ラストに、前衛に合図を!!」
「はいっ!!ユービス君!!お願いします!!」
「おうよっ!!」
待ち構えていた、ユービスはエーシエの掛け声で飛び出すと、あっという間にボスの首を討ち落とす。
見事な息子の活躍だったが、ケティアの興味は全くもって別のことに向けられていた。
――「君」付けで呼ばれてるんだぁっ!!
ケティアはニマニマを必死に飲み込むと、引きつり気味の笑顔で、立派にボスを打ち倒した2人をねぎらう。
「お疲れ様、2人とも、お見事でした」
顔を見合わせる2人。エーシエの方は呆然としていたが、その言葉でハッと我に返ると…
「…やった…やったよ!!ユービス君!!」
そう言いながら、ユービスの手を握り、本当に嬉しそうにピョンピョンと跳ねた。
ユービスもその様子に嬉しそうに顔をほころばせ、笑顔を見せる、のだが…
――はっ!?そうだ!!
2人は同時揃ってバッとケティアの方に目を向ける。
ケティアは後ろを向いて、いつもの様に魔物から魔石をいそいそと漁っている…
フリをしていた。
とても2人には見せられないニマニマ顔は、どうしても抑える事が出来なかった。
「雨が酷くなる前に、取るもの取って退散です!!2人はボスをお願いします」
ケティアは2人の方を向くことが出来ずに、そっぽを向いたままボスの方を指さした。
「はいっ!!」
2人はケティアに促されて、ボスの魔石回収をし始める。
やがて、すぐにエーシエのはしゃぐ声が響いてきた。
「やったぁ!!ユービス君、紫だよ!!」
「おお!?マジだ!!良かったな!!」
今回のボスの紫の魔石は、赤の次に珍重されている色だった。
どうやら、弱かった割には不相応なレア物を秘めていたらしい。
ケティアはどうしても様子が気になって、2人の方をこっそりと覗く。
すると紫の魔石なんかよりも、更にレアなもの見てしまった。
嬉しそうにはしゃぐエーシエの頭を撫でているユービスの姿だった。
――うちの子が、ナデナデしてるっ!!
きっと、2人は紫の魔石を大切にずっと取っておくのだろう。
きっと、今日の冒険は2人にとって、とても大切で、とても幸せな思い出になるのだろう。
ケティアがそんな事を考えながら、魔石回収に勤しんでいると、不意打ちでユービスが後ろからガシッと肩を組んできた。
「…オカン、サンキュ」
「…うん?なんの事?」
「…ん、なんでもない」
ユービスには、それとなくエーシエに実戦指導をしていた事も、2人に気づかないフリをしていた事も、とっくにバレていたようだ。
そんな折、雨が強くなってきた。
「そろそろ引き上げましょう。殿は、私が受け持ちます」
ケティアはそう言うと、2人を先に立たせてテントへと走る。
先を走る2人、その腕には真新しいお揃いの腕輪が仲良く光っていた。
それに気づくと、ケティアの胸は幸せでいっぱいになった。
頬を伝う冷たい雨粒の中に、一筋だけ温かいものが流れる。
――お小遣い増やしてあげた私、やるねぇ。




