WANTED GIRL
船の改造をしている間、宇宙旅行者用の格安施設で寝泊まりすることになる。
その間、長旅用の食料と修理部品、日用品などを揃えておく。身体一つで飛び出してきたので衛生用品や衣類などがなくて苦労したが、それもようやく解放される。あと、あれも買おう。また数か月の船旅になるからな。
トラベラーショップで安価のツナギを着て店を出た後、毎日着ていたネーム入りのツナギを自動掃除ロボットの吸気口に投げた。
よし! これでようやくNO.99から解放されるな。
気分がいいのでうーん、と両腕を鉄の空に伸ばした。
この星に大気圏があったら一番いいのだけど、欲張りはいえない。
できたらテラみたいな自然豊かな星に行ってこの眼に焼き付けたいんだが。
これって、人工的に生まれた私のエゴなのかな。
歩いていると宇宙政府管轄の警備施設を見かけた。
施設といっても小屋みたいに小さい。正面カウンターにトラブルシュータ―用の人造ロボットと、横の無料端末があるだけだ。中に入り、ロボットに軽く手を上げた後、無料端末を開く。
ここには宇宙のニュースや探し人や指名手配犯など、政府の情報を自由に検閲できた。少しドキドキしながら指名手配犯を探したけど、私やミュートさんの情報は載っていなかった。
たかがフェアリーズが脱走しただけ取るに足らない問題なんだろう。安心したと同時に虚しくなった。
私たちは何のために生まれて来たんだ。
利用されるだけ利用されて、外の世界では何の価値も見出せていない。
愛情をもって生まれたわけでもなければ、世界から期待されるわけでもない。
このままどこかへ消えてしまおうか。
いや、そんなことをしても無意味だ。ミュートさんみたいにトネリコで仕事を続けている人は、外の世界に自分の居場所を見出せない。
人は寄りかかる木が欲しいのだ。
「失礼します」
声をかけられた。
潤んだ視界を閉じて、目の奥をぐっと飲み込むと声のほうを向いた。
中肉中背の中年男性だった。紳士服に縁のない眼鏡で、右手に薄い茶色のカバンをもっている。営業マンみたいな井出達だ。
「イズモツクモという方はいませんか? たしかこの星に来ているとのことですが……。その端末には載っていなくて」
「へ?」
え、たしかに私はツクモを名乗っているけど、そんなファーストネームは知らない。
偶然だろうか。政府は私たちの存在を隠し、秘密裏に処理しようとしている?
考えすぎかもしれないけど、警戒を強めた。
別のツナギに着替えたのは正解だったな。
「どういう人なんでしょう?」
「私も見たことがないんですよ。テラ人だとおもうのですが」
「地球人!?」
おもわず動揺した。
「ですが、天の川銀河まで3000万光年あるため、彼らがここへ来れるはずないのです。なのに、どういうわけか彼がここにきた情報があるらしくて」
彼? 男性なのだろうか。
「私、テラ人がこの銀河にいるなんて初めて知りました。あなたは何か知っているんですか?」
男性は静かに首を振った。
「いえ、見たことはないです。ですが、ゾンブレロ銀河では有名な話ですよね? 宇宙歴5771年に起きた【陰の転換点】、ハイテクストの来訪でテラの文化がもたらされました」
そういうと、男性は眼鏡をかけなおした。
この人のいうとおり、ブラックホールの観測データをもたらされたのがこの年だ。私たちフェアリーズの起源でもある。
男性は何かを探るように眼鏡の奥の瞳をじっと向けてくる。
「失礼ですが、あなたのお名前は?」
「ツ――モモ、です」
とっさに99から1を足してしまった。百はモモと呼ぶからだ。
ツクモという人物を探している分、私の名をいうのを躊躇った。同一人物と思われても困るからかもしれない。
それに、眼鏡の男性にはどこか怪しい雰囲気があった。
私がいえたことではないけど……。
「すみません、モモさん。私はこの銀河にきたばかりで、先の情報もここにある端末で知ったのです」
「ほぇ~」
別の銀河って意味かな。
一体どうやってきたのだろう? 話を聞きたいが、私も宇宙の惑星に来たのはきょうが初めてだ。
「一応、私はここの銀河出身でテラのことは知っていますけど、テラ人と会った人は一人もいないはずですよ。テラのあるアマノガワ銀河も、文明が発達しておらず転移技術はないはずですから」
「そうでしたか。すみません、この星の歴史に疎くて……」
男は薄くなった頭に手を当ててお辞儀をする。
うーん何者だろう? もしや、独立惑星出身なのだろうか。
たしかにゾンブレロ銀河は広大で、政府の管轄にない惑星も存在する。
――ますます怪しい人物だな。
「モモさん、テラ人がわかりましたらまたここへ来てもらえますか? 数日間、私はここで調べていますので」
「わかりました」
疑いは晴れないが、テラ人には会ってみたい。見つけたら世紀の発見になるかもしれない。
用事があるからといい、謎の男性とさよならの挨拶を交わして警備施設を出ていった。
頭上には相変わらず鉛色の天井があって、地上から建物が伸びている。地中の巨大都市はどこまでも拡大し続けていた。こうして大勢の命と機械たちが、生と死を繰り返して文明と歴史を重ねていくのだろう。
私たちフェアリーはその傍観者にすぎないのかもしれない。
自分の生まれた意味ってなんだろう。
何度も浮かんだ問を文明の空に投げかけた。




