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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
3部 4章 セレモニー
68/72

99条

「捕まっちゃね、トライズ」

「まぁ俺たちが乗っているとおもうから無碍にしないだろ」

 私たちは大統領執務室で、タッチパット式の端末の電源を切った。

 ――そうとも。数刻前から私たちはトライズを離れている。


 ワープ前。

 トライズの中で自動操縦を設定した後、私たちはケインさんの力で大統領官邸にある倉庫へ転移した。その後は、衛兵に接触して執事さんを呼んだあと、大統領執務室に案内されたのだ。

「はぁ……開会前にきたときは心臓が口から飛び出るかと思いましたよ」

「ごめんなさい。イナミ大統領しか信じられる人がいなくて」

「こちらこそ、国内の安定ができず申し訳ありません」

「仕方ないですよ。これを見越してミレイヤさんは私に未来を託したんですから」

 最期までぬかりのない人だ。

 待機していると、スタッフの人が執務室のドアを開けた。彼女は私たちを見て目を丸くしたものの、イナミ大統領が私を連れていくよう命じた。


 赤い絨毯の廊下を渡り、久しぶりの外にでた。

 ほのかに残る潮の香りに、空から注ぐ光と、星の回転によってなびく風。

 修景池の前に置かれた特設ステージの前には、大勢の国民が息を飲んで待っている。

 私とイナミ大統領が壇上に立つと、互いに手をとりあった。

「この度は建国100周年に祝して、全国民ならびに宇宙の方々に祝辞を贈りたい。だが、この記念すべき日に、一部で国家の転覆を狙う輩がいる。心当たりあるものはすぐに出頭することを望む」

 大統領の声は威厳があり透き通っていた。

「さて、きょうの式典に際し、特別なゲストを紹介する。我が国の礎であり、氷づけとなったこの星を救ったツクモとその仲間たちだ」

 歓声と拍手が沸き起こる中、私は小さく会釈する。

 後ろにいたケインさんとミュートさんも何かもそもそと動く気配があった。

 顔を上げると拍手が止む。私はピンマイクを軽く触れると、深呼吸する。


「ピアス国のみなさん。私はトネリコ所属のNo,99のツクモです。初代大統領、ナグ・フォールが制定した99条の張本人です」

 場内が息を飲む。

「私は遥か遠いブラックホールから3度目にピアートへ来ましたが、権力争いに巻き込まれました。大変悲しい出来事です。私たちは、争いのためにあなた方の祖先を助けたわけではありません。再び悲劇を起こさないよう、この惑星に水と光を与えたんです」

 頭の中で作った原稿を読む。その場の凍ったような空気が、私の脳内をすっきりさせた。

「私の望みは恒久的な平和です。宇宙だの地上だの、どちらが権力をもつという話ではありません。だからこそ、これまで冷凍睡眠していたツクモ条例を発令します」

 私はマイクを口元に近づける。

「フェアリーズNo99のツクモが命じます。条例の文章にある『惑星ピアートを再生させたフェアリーズのツクモに、あらゆる自由を保障すること』の権限者を、私からトネリコの『先生』に移譲します」


 その瞬間、会場がざわつき眩いフラッシュが四方から浴びせられる。

 隣にいたイナミ大統領が瞼を見開いて驚愕している。

 顔をそらして後ろをみると、ミュートさんが手で顔面を覆い、ケインさんが腹を抱えて笑っている。

 その直後に、私のモバイル端末が激しい振動が鳴った。

 反応が随分早いな。

「あの先生とは!」

 記者側から声が反芻した。

 私はしっかり頷き、

「トネリコの先生とは、ブラックホール基地を統括している人格型のAIです。私が試験管にいたときから世の中を教えてくれた親みたいな存在です」

「つまり、私たちの運命はAIが決めるということでしょうか」

「そのとおりです!」

 それは暴動ともクレームともいえない嘆き声だ。


「ただし、先生も基地の運営に多忙です! ですから実質的にその業務は10年に一度、法令の整備を行うのみにします。いうなれば国民の監視です。トネリコでは1年が1日に相対します。だから、一日一日を大切に生きて、10年後の条例精査に修正がないことを望みます」

 説明していると、モバイル装置がさっきより激しくなった。

 すると、正面に巨大な立体映像が浮かび上がる。トネリコの先生の姿だ。

「先生、時間差があるのに反応が早いですね」

「これはノルン本体ではありません。直近データをもとに復元した移行情報です。このやりとりは本体に共有されます」

「つまり分身みたいなものですか」

「そのとおりです。――ツクモ。いますぐその条例を取りやめてください。あなたが行おうとしていることは、ピアートならびに宇宙の人々の自由を奪うものです」

「それはできません! この数日、私はどうやってこの惑星を平和にできるか考えたんです。

 それに、トネリコにいるとき先生は言いましたよね『手伝えることがあればいってください。先生としてあなたの力になりたい』って」

 わたしがいうと、先生は失敗したとばかりに額に手を置いた。


「これはブラックホールっていう世界から隔絶された先生にしかできないんです。もし、先生を改ざんしようものなら、ブラックホールまでいって先生のデータを直接書き換えてください。

 だけど! そうしようものなら、その人は1年か2年、時代から取り残されます。その覚悟あるならどうぞトネリコまで来てください!」

 先生のコピーはイナミさんに向くと、

「――ピアス国、第3代イナミ大統領。ツクモは一度言い出したことは直しません。いかがなさいましょう」

「我が祖父ナグ初代大統領は、建国時に平和と安寧を願ってこの法律を制定しました。その理念を捻じ曲げることはできません。先生。ツクモ様の自由を行使するため協力をお願いします」

 先生は諦めたのかそっと目を閉じた。

「わかりました。その大役、努めてまいります」

 よし! 一人で拳を握る私だけど、場内は歓声どころか喧噪が入り乱れている。


 イナミ大統領は「静粛に」と威厳のある声でたしなめると、

「みなさん、たしかに不安になるかもしれません。しかし、平和とは国民一人一人が願い、それを目指すからこそ築き上げていけるのです。政治が安定し国民のみなさんも等しく幸福となれば、AIの介入する余地はないでしょう。いたずらに不安をあおらず、今日の日を新たな誓いとしてこの星の繁栄に勤めてまいりましょう! それがツクモ様の願いでもあるのです!」

 その瞬間、場内が拍手と喝采に代わった。これが代表者なんだ。

 ミレイヤさんとナグ君のお孫さんなら、きっとこの惑星をもっとよくできる。二人の意思はいまも繋がれているんだ。

「詳しい話は改めて精査し、皆様にお伝えします。それでは改めて式典に移りましょう」

 大統領はそういうと、舞台袖にいた司会者に目配せした。


 条例を言い終えた私はそそくさと舞台を降りると、司会者がセレモニーの続きを進行した。

 舞台裏に向かうと、腕を組んでいるミュートさんと口元が緩んだケインさん待っていた。

「どうだったでしょうか?」

「満点だよ」

 やっぱり!

 ケインさんにつられて笑う私だけど、ミュートさんが額を小突いた。

「むぅ、なんですか」

「またトラブルを増やして呆れているだけだ」

「これが最善だとおもったんです」

 ミュートさんは快晴の空を見上げる。

「あの二人は、天国で呆れているだろうな」

 そ、そんなことないもん。

 口にしようとしたけど、顔を覆うミレイヤさんを想像して、いたたまれない気分になった。

「そろそろいいだろ。ケイン、お前の素性を話してもらう。別室にいくぞ」

 そうだった。約束を忘れていた!


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