wanted -お尋ね者ー
意識が戻ると懐かしい生活臭の匂いがした。見慣れた機械と操縦席、そこへプラスチックの椅子に縛られたミュートさんが恨めしそうにその人を睨んでいた。
「やぁ、久しぶりだね。ツクモ、ミュート」
「ケインさん!?」
「ちょっと待ってね。リビングに調理ナイフがあったはずだ。それをもってくる」
ケインさんは操舵室を出てすぐに戻ってくると、ミュートさんの縄を切った。
ミュートさんは体勢を整えた後、一夜を共にしたかもしれない椅子を、廊下へ投げつけた。
「え、あ、あのどうして……」
「無事に助けられてよかった。それにしても、ツクモは少し大人になったね。ミュートは少し老けたかな」
「大きなお世話だ」
ミュートさんがぶっきらぼうに視線を逸らした。
「それより! なんでこの星にいるんですか。とっくにほかの惑星か未来に消えたとおもってました」
「あぁ、これは俺も聞いていない。ちゃんと説明しろ」
さっきまで縛られたことに腹が立っていたのか、ミュートさんの声音が低い。
ケインさんは数年前に一緒だった姿のままで、
「じつは二人に会うため、また深海基地でコールドスリープに入ってたんだ。それでナグくんにツクモたちが来た場合、起こしてもらうよう言伝しておいたんだ」
「ちょちょちょ!コールドスリープっていつから?」
「オーリスから液体コアを逃げた際、ワープを使っただろう? あのあとすぐにミレイヤさんと会った。そこで許可をもらい、また深海基地で眠りについた」
嘘でしょ!
あのときのことはよく覚えている。
ミレイヤさんは「さぁ……知らないわよ」
ナグ君は「2人とも、一緒じゃないんだ」
そう語っていたはずだ。
いや、待てよ……。
ケインさんの話が本当なら、あの二人が私たちに嘘をついたことになる。
「おい、ケイン。そろそろ目的を話せ。お前はピアート人じゃないんだろ」
ケインさんは小さく頷いて、
「それは認めるよ。でも、目的はすぐに話せない。一ついえるのは君たちを見届けたいんだ。この星の在り方をどうするのか。それが済んだら包み隠さず説明する」
「それってセレモニーのことですか?」
「うん、そうだね」
ケインさんが真顔になる。
「この世界に太陽や大地がある以上、人々は争いを止めない。どうすれば戦争がなくなるかその顛末を知りたいんだ。そして、その鍵はツクモさんがもっている」
「私、ちゃんとした人間じゃないよ!」
「いや。だからかもしれない。僕はそれが知りたくて随分前からこの星に来たんだ」
ミュートさんは煮え切らない顔をしているが、私はその言葉で信じるに値した。
ピアート人でもそうでなくても、この星を再生をさせようと協力してくれた。シード264を落下させたとき、一緒に喜んでくれたのだ。ケインさんも仲間なんだ。
「二人は私を信じてくれるかな?」
「もちろんです。そうですよね、ミュートさん」
「好きにしろ」
不服そうだけど、どこか認めてくれているようだ。
状況を整理しよう。
国家最高権力になった私は、犯罪者たちの間でwanted(お尋ね者)になってしまった!
ムービーマニアのミュートさんからしたら垂涎ものの展開だろう。
そして最大の懸念事項が、この国で誰を信じていいかわからないことにある。
安全だとおもわれていたホテルは、宇宙政府の人間と、その反対勢力に襲われた。
ということは――中立であるイナミ大統領の陣営に互いのスパイがいて、情報を流していることだ。
ナグ君とミレイヤさんの血筋を考えたらイナミ大統領は味方の一人といえる。でもそれ以外は、様々な私利私欲と利権が絡んでいるに違いない。
うかつにピアス国の政治家たちに相談できない。信じられるのは同胞のミュートさんと、まったくの外部であるケインさんだ。
また元祖3人が揃うなんて嬉しい。最後の大仕事になりそうだ。
「あの、ケインさん。コールドスリープから私たちに会うまでの流れを知りたいです。また私が捕まりそうになった時、ワープを使うことがあるかもしれないですし」
「いいでしょう」
ケインさんは瞼を閉じて振り返った。
「前に話したけど、ツクモたちがピアート復興を見に来たとき起こしてもらうよう、ナグ君たちに頼んだんだ。ナグ君もミレイヤ氏も亡くなったが、二人の意思はきちんと受け継がれていたようだね。律義な人たちだった。
それで、私を目覚めさせたのは、年配の執事みたいない人だった。彼に100年のあらましを聞かされながら、潜水艇で浮上し、イナミ大統領の元へ向かった。ツクモたちがピアートに来て8時間後のことだったよ。
何事もなくセレモニーが終われば、最後に君たちと会う予定だった。しかし、うまくいかなかった。むしろ――想定どおりだったのかもしれない。
宿泊中のホテルが襲われ、ツクモとミュートが失踪した知らせを受けた。イナミ大統領は軍や警察を使って一晩中捜索したが、手掛かりは見つからなかった。
大統領はテロを想定していて、二人に護衛をつけていたが、見事に出し抜かれたといったよ。中立派のトップだと、宇宙と地上の過激派からスパイが来やすいと嘆いていた。
このままではツクモたちが利用されるとおもい、大統領官邸からワープして、君たちを救ったというわけだ」
ふむふむ……。長い回想を適度に頷きながら頭の中を整理した。
「それでツクモはどうするつもりかな?」
目を開けたケインさんはどこか怪しく微笑んだ。
「私は、ミレイヤさんやナグ君の意志を受け継ぎます。大体、人類は惑星を間借りしているだけで、所有物じゃないんです。それをみんなに知ってもらわなきゃ」
「じゃあセレモニーでツクモ条例を唱え、和平の道を記す方向にするのかい?」
「はい」
「――問題は、それまで俺たちを自由にしてくれるかだ」
ミュートさんが腕を組みながら操縦席を睨む。
「ケインさんのワープで宇宙へ行けませんか? それでセレモニーに近づいたらまた戻っていくんです」
ケインさんは額に手を置いた。
「残念ながらワープの施行回数が少なくてね、転移した後のリスクはわからないんだよ。たとえば操縦席のところへ復元しようとした際、座席の存在が上書きされて、消えてしまう場合もある。もし人の存在の上に書き換えたら最悪だ」
それは殺人事件にほかならないな。絶対にグロテスクだ。
「だけど、そうならなかったのはなぜですか?」
「事前に転移先の情報がわかれば可能なんだよ。記憶認識の比重が大きければ、安全な場所に転移できるとおもっている。ひらたくいえば、一度行ったことのある場所なら何回でも繰り返しできるんだ。
ちなみにシード264を移動できたのは、宇宙政府の詳細なデータがあったから。だけど、100年も経過したこの星では、知らない場所が多すぎる。ツクモたちの元へいくのは正直賭けだった」
「それで、他人に重なって復元したりすことはあるんですか? 私が捕まった時に私の上に現れるとか……」
自分の内側から人間が現れて胴体が破裂するのか。
恐ろしい話だな。
ケインさんが静かに首を振る。
「見知った相手だと、そういうことは起きないらしい。体感というか、直感が避けているみたいだ。ただし、私の知らない人物であれば存在を書き換えてもおかしくない」
ミュートさんは黒くなったモニターを眺めながら、
「今回はまぐれで上手くいったが、ワープは選択肢に入れるなってわけか」
「最後の手段だとおもったほうがいい」
私はミュートさんの肩に手を置いた。
「セレモニーまでの間、私たちで逃げ切るしかないですね」
「それはいいが、どこへ行く気だ」
私はミュートさんの肩に乗せた手を放して、人差し指を下に向けた。
「海にしましょう! 深海はレーダーでも探知しづらいですし、空の宇宙船だって潜水モードがある船も限られています」
「お前らしいな」
ケインさんはしわのある頬をゆがませると、
「せっかく惑星にきたのに、海に潜るのは残念だね」
私は大きく首を振り、ミュートさんは口元を緩めた。
「全然そんなことないですよ。一生見ていられます」
「深海は浪漫の塊だろ」
ケインさんは困惑した表情で咳をした。
「あー、若いっていいね。羨ましくなってきたよ」
私とミュートさんはいってる意味が分からず、二人して首を傾げた。




