監禁生活
両手を縛られたまま一夜を開けた。
ぞんざいな扱いをされるとおもったが、彼らは相応の敬意をもっているらしい。
マスクを外された場所は、場末のアパートの一室みたいで、くたびれたベッドが置いてあるだけだった。部屋の壁や天井は色褪せて、ところどころに壁紙がはがれている。
最近はラグジュアリーな部屋ばかり泊まって感覚がおかしくなったが、これが私にとって普通なのだろう。古びた道具に染まっているほうがお似合いだ。
緊張と疲労で疲れた私はそのままベッドで寝た。夢の中でドアが開く音と、わずかな会話が聞こえた。バトルスーツの人たちは交代で私を監視しているみたいだった。
目が覚めてトイレのドアまで護衛が来ると、改めて自分の置かれた状況に気づく。
どうやら私はこの惑星の最高権力者になっていたらしい。
まったく、ナグくんもミレイヤさんもなんて法律をつくってくれたのだ。こんな条例がなければ、今頃は優雅に観光を続けていたのに。
――ただ、この条例をつくった意図は何かしらあったとおもう。
ミレイヤさんは私との約束を守れず、ピアートで生涯を終えた。トネリコへ戻るすら惜しむほど、復興に追われていたのだろう。
トイレから部屋に戻ると、私はベッドに腰かけた。
さて、どうしたものか。
ホテルを襲ってきたのが本当に宇宙政府なら、私の法令を使って宇宙に有利な条件を提供するはずだ。いくつかの土地、あるいは観光事業や開発事業で稼いだ資金――そうした利権を使い、ピアートから搾取しようとするだろう。
ドアの前では女性の護衛が椅子に座って監視している。
年齢は20代くらいだろうか。渋い顔つきの彼女にはいった。
「ねぇ、あなたたちは私にどんな命令をしてもらいたいの?」
彼女は敵意に似た視線を向けるだけで、何も言わない。
「だんまりはよくないよ。たしかにさらわれたことはいい気がしないけど、私ってバカで単細胞だから、あなたたちに同情して味方につくかもしれない」
護衛の女性は小さく嘆息した。
「私たちは生粋のピアート人だ。この惑星は我々のものだったし、その歴史文明を築くのも我々であるはずなんだ。だけど、宇宙のやつらは科学力が高いのをいいことに衛星オーリスを人質にして、私たちの国を好き勝手やっている。景観のいい場所をリゾート地に変え、惑星外の人間を勝手に呼び、豊かな暮らしを与えた」
「それで国が豊かになるなら問題ないんじゃ――」
「そうじゃないから事をおこしているんだ。現地民の我々は、光の少ない寒い地へ追い込まれ、貧しく暮らしている。これの何が友好だ。あなたは宇宙政府を喜ばせるためにこの星を蘇らせたのか」
「……そんなこといわれても」
私は政治屋じゃない。何千万人のこの星にいたとしても、その幸せを一身に背負うなどできはしない。
そもそも、私が彼女たちに与えたのは、生命が生きていけるだけの環境だけだ。そこに住む人々がどう生きたいかなんて気にしなかった。富とか貧困とか権力とか、現地民が解決していく問題のはずだ。
「おい、何を騒いでいる」
ドアを開けてやってきたのは、私たちを連れ出したジェミさんだ。
最初はスーツで年齢もよくわからなかったが、くたびれたシャツにジーンズ姿から私より一回り年齢がいっているのがわかる。
「私を捕らえた理由を聞いていたんです」
「協力する気になったの?」
ジェミさんは私を蔑んだような目でいう。
「……残念ながら難しいとおもいます」
「だったら力づくで従ってもらう。こっちにこい」
向こうは銃をチラつかせて私を立たせた。ここで反抗してもどうせ暴力を振るわれるのだろう。面倒だし素直に従う。
軋む廊下を歩いて隣の部屋にいくと、椅子にくくりつけられたミュートさんがいた。ご丁寧に、背もたれに腕をくくりつけ、椅子の脚には足首で縛られている。口元にはタオルで喋らないようにしていた。男性だから厳重にしているのだろうか。
ミュートさんの目は獣みたいに鋭く、隙さえあれば喉元を描き切るような冷たい殺意がある。
そういえばこの人は軍の出身だったな。




