ピアート法
ジェミさんたちの動きは頼もしかった。
私とミュートさんにガスマスクをつけた後、彼女たちはチームを組んで1階まで護衛してくれた。ロビーではなく、食堂からキッチンを通って裏口に進んだ後、荷物運搬用の大型車両が停止していた。
私とミュートさん、そして、一緒に護衛をしてくれたジェミさんと黒スーツ二人の五名がコンテナに乗り、車両はゆっくりと走り出した。
これでいいのだろうか。
不安になるが、あのまま部屋に残るよりマシか。
ミュートさんはホルスターに手をそえたまま、対面に座るジェミさんと戦闘スーツ二人を見ていた。
「ねぇ、ミュートさん。どうして私たちは襲われたんですか?」
私の問いかけに、黒スーツの人たちはヘルメットをこっちに向けた。
「お前がこの星の救世主だから利用価値があるとおもったんだろ」
「でも、オルグ総督たちは私たちを歓迎してくれましたよ。なんでそこで捕まえなかったんですか?」
「あいつらにも体裁はあるだろ。セレモニーの出席は大統領側には伝えている。それなのにピアートへ到着前に失踪したら、間違いなく宇宙軍を疑うはずだ。まぁ、ホテルを襲撃した連中が宇宙政府だといえる保証もないが」
ミュートさんは腕を組んで黒スーツに向いた。
「はぁ……おかしいことになったなぁ……。私たちただ観光目的で来ただけなのに」
「おかしいのはお前の頭だ」
「なぬ!」
「大統領官邸でこの星の歴史を見ただろ。ナグやミレイヤだけじゃなく、お前も俺も、英雄扱いされてるんだよ」
「そうだったんですか!」
「少しくらい気づけ」
珍しくミュートさんから怒られた。珍しく人前でいっぱい話すし。よほど腹にたまっていたのかもしれない。
「それにしても、セレモニーまでのプランとかどうなっちゃうんだろう。明日は都市内の観光なのに、私たちを巡ってあちこちで襲撃が起きたら、みんな不安がるよなぁ」
「気にする必要ないだろ。この星の人間の都合なぞ俺たちには関係ない」
ミュートさんの言葉に護衛二人の身体が微かに動き、咄嗟にジェミさんが腕を伸ばして制止する。
「ミュート殿、あまり私たちを刺激されては困ります」
「本当のことだ。ナグとミレイヤには義理があっても、この星の所有権を巡った駆け引きなど、どうでもいいことだ」
「ちょっとミュートさん! 言い過ぎですよ」
にわかに殺気立つ車両に、なんとかたしなめる。
「大体、私たちがピアートの救世主だからって、この惑星をどうするかなんて権限はないですよ。そうですよね、ミュートさん」
同意を求めるつもりだったが、ミュートさんは沈黙を貫いた。
対面にいるジェミさんは信じられないという表情で、瞼を大きく開けている。
「まさか! ミュートさん!」
ぐいと顔を寄せるが、彼は顔をそっぽ向けた。
もう何年も一緒にいるから、その態度でわかった。
「また隠してたんですか!」
「お前にはいわないほうがいいとおもった。また碌でもないことを言い出すからな……」
「あー信じらない! 心外です! ド心外です!」
ミュートさんは深くため息をつくと、
「ミレイヤからも打ち明けるかは任すと言われたんだ。俺だけのせいにするな」
この男はミレイヤさんを盾にすれば許されるとおもっているのか!
「あなたはピアス星憲章を知らないのですか?」
ジェミさんが魚みたいに口をパクパク開けながらいう。
「教えてください。私に何の権限があるんですか?」
ジェミさんは視線をつま先に合わせながら、冷たいトーンで言う。
「ピアート法99条。通称ツクモ条例といいます。その内容は『惑星ピアートを再生させたフェアリーズ99のツクモに、あらゆる自由を保障する』ものです」
「はあああああああああああ」
私は開いた口が塞がらなくなった。
「だだだ、誰がこんな意味わかんないものを考えたんですか!」
「ナグかミレイヤしかいないだろ」
ミュートさんは諦めたように額に手を置いた。
「それって私がこの星の女王様ってことじゃないですか。何をしても許されるってことですか!?」
「女王様というか神様だな」
「――は!」
どおりで、ここ数日の食事や寝室がやたら贅沢だったのか! 私の機嫌を損ねたら首が飛びかねないから……。
「こんな権限いらないですよ!」
「だから黙っていたんだ。不要だとおもうならセレモニーの前に大統領へ伝えるんだな。良くも悪くも、この星の命運はお前が握っている」
「ジェミさん、いますぐイナミ大統領に連絡してください」
「――それはできません」
冷酷な声とともにジェミさんが拳銃をこちらに向けた。それと同時にミュートさんと黒スーツの二人が拳銃とライフルを構える。
「え、なんで……」
「おい、冗談はよせ。これは憲法違反だ。お前らは国家反逆罪で捕まるつもりか」
「元からそうする予定だったよ。フェアリーズツクモ。あなたを使って衛星オーリスの所有権を私たちにもたせる」
そこで車両がゆっくり停止した。
「どうやら私たちの拠点についた。ここで降りて従ってもらう」
どうしよう?
ミュートさんに目配せするが、諦めろというふうに首を振る。
なんてこった、相手の策にはまったのか。
黒スーツの人物が黒い布をもって、私の顔に被せてきた。光すら通さないフェイスマスクに視界を奪われると、両手首を縄のようなもので縛られた。
誰かに引っ張られながら車両の段差を降りると、夜の風が全身を包んだ。
ぬるく、ゴミゴミした生活臭が鼻についた。




