観光ツアー
次の日からあちこちを見て回った。
農地にいって宇宙小麦を刈り取ったり、野菜を収穫したり、ミルクのでる家畜に触れあったり、鶏の卵をとって親鳥から追いかけまわされたり、そうしたふれあいの後、収穫した作物を食べた。
風が揺れ、潮にあたり、土に汚れて、水で注ぐ。
星と一つになっているような気がした。
2日目の夕方には人口太陽の光が差さない、ピアートの反対側へいった。
東極と呼ばれる氷の世界では、鳥類が進化した人鳥や、氷の上を滑る哺乳類も生息していた。
なかでも驚いたのが夜に浮かんだ光のカーテンだった。人口太陽による光の拡散が、宇宙の冷たさと織り混ぜて、奇跡のように現象を生み出した。
ミレイヤさんたちが一生懸けて描いたのだ。
私はこの光景を生涯忘れないだろう。
3日目は都市部の観光――になるはずだった。
旅の疲れでホテルでぐっすり眠っていると、それは起きた。
大きな爆発音と建物が激しく揺れる振動で目が覚めた。
何事だろうか!
身体は疲れていたけど、すぐに目が覚めた。感動で頭が休まっていなかったのかもしれない。寝間着のまま廊下のドアを開けると、高音のベルがジリリリリと鳴った。
顔をだして左右に首を振ると、私服姿のミュートさんが走ってきた。
「起きたのか」
「はい……。何の騒ぎでしょう」
「すぐに逃げるぞ」
「ちょ、私、着替えさせてください!」
顔だけ出しているが、身体はバスローブ一枚だ。さすがに恥ずかしすぎる。
ミュートさんはげんなりした顔で、
「1分だけ待ってやる。早くしろ」
「ちょ、短いですって!」
そういいながらダッシュで部屋に戻る。
彼の口調や険しい表情、なにより、異常が起きてからの迷いのない行動――液体コアを目指していた時の彼だ。
すぐさま自前のシャツと短パンに着替えて廊下にでる。
ミュートさんは私の手首を掴むと、エレベーターではなく非常階段へ走り出した。
「あの! 何が起きているんですか?」
「さあな。だが、お前が狙われている可能性がある」
「どういう意味ですか? また隠し事があるんじゃないですよね!」
階段を駆け下りながら問い詰める。だけど、先行しているミュートさんは何も言わない。
あぁもう! まただんまりモードか! あとで問い詰めてやる。
仕方なく階下をおりていくと、白い煙が下からあがってきた。
まずい。
すぐさま口元を手で覆う。だけど、目や鼻先を刺激する、燃えるようなものじゃない。あくまで視認性を悪くするスモークの一種だった。
踊り場で立ち往生していると、タオルで口を覆ったミュートさんがあがってきた。
「しゃがんでいろ」
そういった彼の手には黒い拳銃をもっている。
いったいどこで手に入れたんだ。危険な目に合うとわかっていなければ用意しないはずだ。
怪しんでいると、下から誰かが駆け足で登ってきた。
どうしよう!
上に逃げても袋の鼠だ。ここは隠れてやり過ごすか。
悩んでいた刹那、ミュートさんが身体をだして最上段から落ちるように跳躍する。スモークでよくわからないが、一瞬、ミュートさんが黒い人影を下敷きにしていた。
「動くな」
踊り場の陰から這いずるように近づく。そこには、黒の戦闘用スーツに分厚いヘルメットをつけた人物が、ミュートさんに馬乗りにされていた。
ヘルメットの眼前に銃口を向けられ、スーツの人物は降参とばかりに両手をあげていた。
「あなた、ミュートと、ツクモちゃんね」
くぐもった声でヘルメットの人物はいう。
「いま、このホテルは宇宙軍に襲われている。だから私たちは助けに来たの」
その人物は伸ばした腕を曲げてヘルメットに手をかけた。頭部がむき出しになると、顔立ちのいい女性が汗をかいて微笑んでいる。
「何者だ」
「大統領の仲間よ。このホテルは宇宙軍に知られた。私たちについてきて、安全な場所に移動するから」
いまだに信じられないのか、ミュートさんは銃口を向けたままだ。
逡巡している最中、下から連続した銃声音が響いてくる。
やっぱり誰かが襲ってきているんだ。
決断できずにいると、さらに数名のバトルスーツの人たちがやってきて、三名が私たちを囲んだ。
ミュートさんは静かに銃を降ろして腰のホルスターにしまう。
最初の女性はゆっくりと立ち上がると、ぶあつい黒革の手を伸ばしてきた。
「初めまして、私はジェミ。あなたを助けにきたのよ、救世主ちゃん」
「え……あ……」
流されるまま、私は握手を交わした。




