建国の歴史
大型の公用車が停止して外にでると、ドーム型の屋根がある建物が目に飛び込んだ。メインゲートには何本の石柱が立っていて、古いお城を連想させた。
入口の下には大理石でできた真っ白い段差と、修景池があり、その端には噴水が上がっている。池の中には、竜のようなオブジェが頭から顔を出し、その反対側には柱に止まる鳩の彫刻があった。
「この噴水は、ピアス建国の理念を表現しております。みなさまが深海から我々を見つけ、空を作り上げた。その歴史を平和として刻むために作られたのです」
「おぉ!」
私が目を輝かせて驚いていると、ミュートさんが横で嘆息した。
「そんな高尚なものか。俺たちがやったことはただの道楽だ」
「うぅ!」
図星だ。胸に矢が刺さったみたいに手を当ててしまう。私は生命みたさに、ミュートさんは深海に行きたさにピアートへ来た。星の再生はおまけだ。
「結果はどうあれ、私たちの祖先はお二人に感謝しております。それではなかへ参りましょう」
執事さんが靴音をたてながら宮殿のような入口へ入る。大理石と石柱で飾られた室内は、赤い絨毯が通路に伸びて、各部屋に繋がっていた。
歩いていると、受付の女性から中のスタッフが、私たちをみるなり頭をさげた。
そんなすごい存在なのか。ちょっと扱いおかしすぎるんじゃないかな!
エレベーターで上階へいき、ひときわ豪勢なドアの前にくる。札には大統領室と書かれていて、緊張が走った。
このドアの中にピアートを統率する人間がいるのか。
執事さんがドアをノックして、失礼しますといいながら開ける。
無機質な室内と、2メートルほどのデスクの前には、私たちと似たような同世代の男性がいた。顔立ちは凛々しく、広告のモデルみたいなビジュアルで、大統領には見えなかった。
その人物は惑星の代表にもかかわらず、胸に手を当てて深々と頭を下げた。
「ようこそおいで下さいました。私は、ピアス国、第三代大統領イナミ・カシス・フォールと申します」
慌てて私もお辞儀をする。ミュートさんは気にしていなかったが、しぶしぶ合わせてくれた。
この人、権威や権力者にはほんとにどうでもいいんだな。
頭を下げると大統領が笑顔で握手を求めにきた。
緊張しながらそっとその手を重ねると、大統領の風貌に面影が残る。
ナグくん?……と、もう一人いる?
私は混乱しながら大統領に尋ねた。
「え、と、あの、どこかで聞いた苗字な気がしますが……」
「報告ありませんでしたか? 私の祖父母はナグ初代大統領とミレイヤ婦人ですよ」
「えええええええええええええ!」
咄嗟に頭上のシャンデリアを見ながら叫んだ。
大統領は微笑んだ後、隣のミュートさんに握手を交わした。
私はこめかみに指をあてて回しながら記憶をたぐる。
ミレイヤさんの下の名前はカシス・バージニア。 だから大統領の名前が馴染んだのか!
て、ちゃう!
「あの二人は結婚したの!? でも20歳くらい離れていない?」
大統領――いや、イナミさんは苦笑しながら、
「ミレイヤ様がブラックホールに行っている間、ナグ様が長く生きていたんですよ。ただ、年齢を合わせるためにコールドスリープを使ったみたいですが」
「はえー」
いつの間に付き合ったのだ。結婚式くらい呼んでほしかったのに。
残念がる私だが、ミュートさんは涼しい顔をしている。
「驚かないんですか?」
「あぁ、多少はミレイヤから聞いていた」
だからかよ!
「ちょ! なんで私に話してくれなかたったんですか!!」
「ツクモを驚かせるためだと本人たちに釘をさされた」
意外と律儀な人だな!!
またしてやられた! 亡くなった後もミレイヤさんの手のひらで踊っているなんて!
「あのイナミ大統領。生前のミレイヤさんとナグ君はどんな感じでしたか?」
「悲しいかな、お二方は亡くなる寸前まで御国のために尽力されておりました。ですが、あまり一緒にいる姿は見かけませんでしたが、同じ場所にいるときはよく笑っていましたよ」
イナミさんは壁にかかった写真を眺めた。
皴のある厳つい顔だが、輪郭がナグ君の名残がある。
「少々、私のお話にお付き合いください。それが終わりましたら、お二人に見てもらいものがあります」
そういうと、執事を呼んで耳打ちをする。
私たちは大統領室に置いてある豪勢な椅子に座ると、イナミさんと座って向かい合った。
「改めて、ツクモ様、ミュート様、この度は建国100周年のセレモニーにきていただきありがとうございます。お二人のご功績はピアス国の歴史に刻まれております。どうか国民の方々にその雄姿をお見せください」
私たちってそんな偉い人になってるのか!
まっっったく考えもしなかった。どうしよう。
ミュートさんに目配せしたが、視線を逸らして逃げた。
こいつ何もかも知っているのかよ!
「あの、私たちがピアートを去ってから、きょうまでどういう成り立ちだったんですか?」
「おおよその流れを説明しますと――中央政府の支援により衛星オーリスの人工太陽化を安定させました。ピアートはひと月を掛けて氷河期が終え、星全体を海に変えたのです」
物腰の柔らかい口調に、二人の遺伝子を強く感じる。
「言葉にするよりも見たほうが早いでしょう。そどうぞこれをご覧ください」
イナミさんは近くのリモコンを操作すると、部屋の中央に立体映像が浮かんだ。
私たちがピアートにシード264をぶつけ、オーリスの地表に光が噴き出した姿が映る。そのオーリスは自転と公転をしながらピアートに光を向ける。降り注いだ光は白い星を青に変え、大地や山々が姿を現した。
「大地が蘇ったあと、次に必要だったのが食料でした。中央政府は惑星開拓用の簡易キットをもっており、彼らの協力で麦やトウモロコシの栽培、またこの星にある芋や米の生産に成功しました。継続して自給自足ができることがわかると、祖父はコールドスリープで眠っていたご先祖様たちを蘇られたのです」
カプセルから目覚めた人々の映像が映る。彼らは深海基地から潜水艇で陸上まで上がると、生まれ変わった太陽を見て驚き、耕された大地に微笑んでいた。
「そこからの発展は早かったです。タイムスリープで眠っていたほとんどの人は、科学技術を極限まで高めていました。彼らは海底基地の設備を地上に移して、ピアートを再興したのです」
映像は早送りで流れた。
色濃くなった大地からアスファルトに変わり、その上に巨大なビル群が作られていく。
何千年もかかるような文明が一瞬で出来上がる様は驚きの連続だ。
「都市計画にあたって問題も少なくありませんでした。一番厄介なのは、自給自足をするための人工太陽が中央政府の管理下にあったことです。
これにピアート人は激しく抗議しました。だからこそ祖父は、人口太陽の祖であったミレイヤ様に助けを願ったのです」
笑顔で出発したミレイヤさんを思い出す。
私には1年前の記憶なのに、この星では伝承になってしまった。
「ピアート出身の祖父と、中央政府の外交官である祖母の結婚は、この星を統治するのに理想的な関係でした。お二方は両陣営を懐柔して平和をおさめたのです。そしてまた、私の父もその象徴として大統領となり、この惑星の復興をご尽力されました」
「その御父上は?」
「公務に疲れきっていまして、いまは隠居されていますよ。祖父母のことは恐がっていまして、話したくないと青い顔をされておりました」
私とミュートさんは顔を見合わせて肩をすくめた。
どちらも頭脳明晰だもんなぁ。まして年齢を重ねれば知識も経験も増えてくる。並みの人間では太刀打ちできないだろう。
「ほかにも聞きたいことがあるでしょうが、お会いする機会はあります。改めてご質問ください。このあとは別室へご案内し、一度ホテルで休憩してください。午後から観光プランをご用意しております」
私は喜んでミュートさんの腕を取った。
ようやく念願の生命たちと出会える!
宇宙は死の世界だけど、星々から奇跡的に命が誕生する。その命は遺伝子の影響でいくつもの枝分かれをして、八百万もの生命を形作るんだ。
憧れていた体験に胸が躍った。




