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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
3部 2章 バカンス
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地表

 セレモニーが1週間前に近づいた。

 人生で史上最高の怠惰を貪った私はミュートさんとともにピアートへ向かう。


 かつて氷で覆われた青い星は、空へ近づくごとに熱と音を立てた。大気圏突入用の耐熱シートとバリアを貼ったトライズが、重力に引かれていく。熱圏から大気圏に入ると、激しい振動と鉄の軋む音を奏でて突き進んだ。

 振動が収まると、トライズは機体を水平にして速度を維持する。


「はあーーー!」

 目に飛び込んだのはアクアブルーの海だ。

 水面がいくつもの波に揺れ、反射した疑似太陽が海を白く映している。

 上空のモニターを見上げれば、オーリスの光が太陽みたいに輝いていた。

 もし窓があったら全開に開けて空気と潮を全身で感じていただろう。

「すごいすごいすごいです! ミュートさん」

「そうだな」

「あっさりしすぎです! ほんとに光が色を与えているんですね!」

 この前まで宇宙で住めばいいやとおもってたのに、これを見た瞬間、気が変わった。地上に住んだら絶対に宇宙へ帰りたくない。

 手のひらくるっくるだ。

「ミュートさんもいっぱいみましょうよ」

「俺はブラックホールへ行く前から知っている。それより、航空機や渡り鳥が多い。空が狭くなっているから気をつけろ」

「わかりました!」

 さすがプロの運転手だ。私はナビを忘れて、生まれ変わった星の姿を見入っている。

 このまま潜水モード海の底を堪能したいが、待ち合わせの時間がある。それに1週間の予定は観光なのだ。楽しみはとっておこう。


 トライズはバリアを外した後、高度を取りながらレーダーにそって進む。すると海の端に港がみえ、その奥にビル群が連なっていた。

『こちら管制塔。所属トネリコのトライズか?』

「あぁ。宇宙軍の指示で大気圏に来た。このまま空港に着陸する』

『了解した。ほかの飛行機は出払っている。いつでもどうぞ』

「恩に着る」

 ミュートさんは一気に加速した後、レーダーのついたポイントをたどり、アスファルトの滑走路に向かった。低空飛行で着陸用のタイヤを出した後、一気に減速してゆっくり止まる。人口重力で反動を緩和しているのもあるが、大きな負荷もなくあざやかだ。

 トライズはタイヤをつけたまま停止すると、スロープをだした。遠方から運送用のバスがやってきたので、私とミュートさんは荷物をもって船をでた。

 風が気持ちいい!

 近郊の海から潮風が運んできて、髪や手の肌にさわりと触れる。ほのかにかおる塩のにおいも、飛行機の排気熱も、生きている気がして胸がいっぱいになる。


 幸せを感じていると、胴がやたら長いに黒塗りの車両がでてきた。

 足にたくさんのタイヤがついている!

 重力の問題もあるが、惑星によっては車輪のないエアカーなどが普及している。エアカーは小型化した核融合炉が使われており、車体を浮かすエネルギーとして利用していた。

 中央政府の管理する惑星でよく見かけるのだが、それがないのは、政府から独立したかったのだろうか。


 私とミュートさんは車両に乗ると、中はシックな香りと優雅なソファーが伸びていた。真ん中にはテーブルがあり、瓶の飲み物や果物がついている。

「お気に召したものがあればおっしゃってください。わたくしがご用意致します」

 運転席の後ろでは、紳士服を着た老年の執事が、胸に手を当てた。

 なんだ、この好待遇。自分がお嬢様みたいにおもえてきた。

「そんな、滅相もないです! 約束の場所まで10分くらいって聞いたから大丈夫です。そうですよね、ミュートさん!」

 反対側に座ったミュートさんはテーブルの果物をみるなり、肩を落とした。

「チョコレートがない……」

 こんなときでも欲しがるのかよ!


「それは失礼いたしました。次の御乗車までにご用意しておきます」

 えぇ! きょうだけ使うんじゃないの!?

 ただの観光だとおもっていたのに、ますます待遇が高くなっている。

 ミュートさんは興味を失ったのか腕を組んで目をつむっている。話し相手にならなさそう。

 とりあえずいいや。いまは豪勢な接待より街の様子が気になる!

 私は膝をソファに乗せて黒塗りしてある窓に向く。


 車窓の外は、舗装された道路と等間で大きなビルが建っている。ビルはガラス張りの特長のないものもあれば、電工看板がついた商業施設を見られる。通りを歩く人も様々で、スーツ姿の男性や、上品な洋服を着た女性、ムービーでよくみるような学生服の子どもたちがいる。

 4車線の道路は、よくある都会に比べて車両が少ない。ほとんどは大型バスで、十字路信号では道路のほかに電磁レールが地面に埋め込まれている。路面電車的なものか。


「レグダみたいにごった返してないですね」

 私が振り向いて執事さんにいうと、彼は穏やかに微笑んだ。

「はい、ピアスの都市部は、建設当時から中央政府がプランを立てておりました。既存惑星では私有地を売買しながら都市を築きあげますが、初代大統領であるナグ・フォール様は最初からこの構想を抱いていたのですよ」

「ほえーすごー」

 あのナグ君が大統領になったのか。

 まぁ、順当にいえばそうか。人工太陽の創設メンバーだし、ケインさんも消えてしまった。コールドスリープで眠っていたピアート人を起こすには、ナグ君の頭脳なしには無理だったろう。


 また外に目をやると、輸送車両の間にホバートラックがいるのに気づく。

「陸でもホバーを運用しているんですね」

「えぇ。むしろ50年前はホバーのほうが主流だったのですよ。個人車両がほとんどないのは、都市部で私有地が極力ないからです。

 住居は公共のマンションがほとんどで、住民は列車や定期バスで都市部を移動しています。ちなみにこれらを動かすエネルギーは、地下にある巨大な核融合炉によって賄っているのです」

「ほえー」

 そこまで計算して都市を再興したのか。

 街づくりの記録があるならその過程を見てみたいものだ。ミレイヤさんがいたらきっと同じように楽しんでいただろうな。

 そう思った途端に、目頭が熱くなった。

ミレイヤさんはもういないのだ。いまの街の姿を見る前にこの宇宙から去ってしまった。

「ツクモ様、ミュート様。そろそろ到着いたします。ご準備を」

 執事さんが一礼すると、私はしっかり頷いた。


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