表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
序章 旅立ち
5/72

理由

「ありがとうございます、かばってくれて」

 へこへこ顎を上下するけど、返事はない。彼は黙々と虚空を眺めている。


 困ったなぁ、コミュ障がすぎる。 もしかしてほかの仕事ができないから、パイロットしかやれないんじゃないか。

 疑わしい目で見つめていると、羽虫を祓うかのように手で遮った。

 私の考えを読めるの!?

 とにかく、静かなほうが好きらしい。

 いろいろ話したいけど、向こうが必要とするまで待とう。

 私はいろんなことを諦めて隣の座席に着くと、バックから小型デバイスを出した。

 起動画面が終わる間、操縦席にいるミュートさんに向いた。


「あの、無理を言ってすみません。レグダまでの運送料いくらがいいですか?」

 ミュートさんが静かに首を振った。

「それはダメです、せっかく無理をしてくれたのに」

「代わりに俺を連れていけ。調べたいことがある」

 意外な申し出だった。船もクルーもレグダで揃える予定だったけど、その手間が省けそうで助かる。

 ――とはいえ問題点も多い。

「強酸性の水では耐えられないって聞きましたけど、この船は大丈夫なんですか?」

「無理だ。プランを練ろ、費用は俺がだす」

 バカな! いろいろ頭ぶっ飛んでる。船の改造なんて考えたことないし、私のワガママでそこまでやってもらう必要ない。

「普通に考えたらメリットないです。トネリコから強引に出ていったし、クビになるかもしれないんですよ」

 ミュートさんは無視するように、ドリンクホルダーにささっていたストローつきの紙コップをくわえた。

「一緒に来てくれる動機が知りたいんです! あ、お金じゃないなら身体ですか、その……どうしても、というなら、覚悟……しています」

 ちょっと怖いけど仕方ない。でも、男の人がそういうのを好きなのは事実だし、テラのメディアでも、ネタとして使われてるくらいだし。


 静まり返る中、彼がおもむろに作業着から何かを出した。小分けされた一口サイズのチョコレートだ。包装紙を開けると彼は一口入れて口を動かす。そしてもう一つ手に取るや、そっと私に向けた。

 え? くれるの? よくわかんないんだけど。

「ありがとうございます……」

 ためらうのも気が引けたので口に含める。

 うぅ、苦い……。糖分が少ないやつだ。

 まるでこの人みたい。恨めしく思っていると当人が口を開けた。


「――過去がない俺たちは、何かが足りないと思いながら諦めていた」

 唾をのんで苦味を消す。じっとミュートさんを見る。

「けどあんたは求めた。それが、理由だ」

 ミュートさんはまたチョコレートの包装紙を開けた。

 ますますこの人のことがわからない。でも、ほんっっと、よくわからないけど、わかる気がする。

 任期を終えるフェアリーたちがいる中、彼はずっとトネリコに残った。やりたいことがないって噂だ。私だって、生き物という興味もなかったら、ブラックホールの外にいく理由がなかった。私たちは愛されて生まれてきたわけじゃない。必要とされているからでもない。

 自分の生まれた意味が希薄だから、任務に縋りたいんだ。

「座席を固定しろ。ブラックホール圏内を出る」

「はい!」

 慌ててシートを伸ばして肩から胴体を固定する。うぅ……小食だから身体が緩い。


 まっさらな宇宙空間に出るなんて初めて。引力の圏内を抜けたら、逆らうものはなく、何かに衝突するまで延々と飛び続けることになる。宇宙ってやっぱりすごい。

 なんかドキドキする。

 全てを飲み込む、死の頂き。宇宙の墓場。その極地から解放される。

 緊張が走る。

 巨大ディスプレイにはうっすら点々とした光が見え始めた。

 人口重力が備わっている船内で、背中から感じる重圧が和らぎ、身体が前にのびていく。錯覚だとわかっているのに。


 そろそろ――来た!

 漆黒の世界から宇宙の輝きに包まれる。

 そこは光の雨だった。色とりどりの小さな光がこちらに向いていた。

 すごい、これが宇宙! あの小さな輝きが惑星なのだ。

 いつもはデータでしかわからないけど、あんな巨大なものが、この宇宙に、無限大にあってそれぞれ輝いているんだ!

「300時間後、惑星レグダに着く。寄り道はなしだ」

 ミュートさんは操縦桿奥のディスプレイをいくつか触る。立体の星図が開き、その一部を推すと、船がオート操作に切り替わった。

「あとは好きにしろ」

 ぶっきらぼうに言い捨てた後、彼は操舵室を出ていった。

 悪い人じゃなさそうだけど。

 変な人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ