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WANTED GIRL ~惑星をなおす少女~  作者: 野乃々
3章 惑星ピアート
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氷壁

 手順書を思い出しながら、端末画面を何度も切り替えてそのときに備える。

 レーザー兵器は宇宙航空用装備だからそのまま使用できるが、ドリルは潜水艇モードの切替が必要になる。タイミングが遅くなれば外部装甲を覆えず、船体は強酸性の水に溶けてしまう。


「レーザー発射後その方向へ直進する。タイミングはツクモに任すぞ」

 不意に名前をいわれて胸が熱くなるが、すぐに現実が押し寄せる。

「敵に撃たれたらかわせないってこと?」

「そのとおりだ。だから神様に祈れ」

 ちくしょう!

 私がいいだしたことなのは承知だけど、この人も存外無謀なところがあるぞ。


 重力の影響もあってトライズは地面に向かって加速し続ける。

 画面には氷の世界がはっきり映った。何もなければ胸を躍らせるところだが、そんな余裕はない。地表の隆起は激しく、巨大な氷山やクレーターの跡も見える。

 ――神様!

 祈りながらモニターを見ていると突破口を見出した。

「ミュートさん! あの氷山の間の谷間に沿うように入って! 進入角度は50度前後、垂直降下だと変形が間に合わない」

「わかった……。いい判断だ」


 操舵室を囲う人口重力の調整でも補えないほど、身体に圧がかかる。

 レーザー兵器の照準画面を表示し、エネルギー充電を行う。

 モニターにはトライズのシステム画面が映り、後部エンジンから両翼部にあるレーザー兵器にエネルギーが届く。

 照準器が黄色から赤に変わる。発射OKのサイン。レーザーの有効射程はカメラ倍率の2倍。画面をズームに切り替えてそのときを狙う。


 不意に後部からいくつもの光や弾丸が襲う。

 見なくても気配でわかる――政府からの攻撃だ。

 極限状態にいると、装甲越しから粒子の変化を感じ取れた。


 下部のエンジン部が小さく揺れる。被弾した。バリアを張っているから直撃に至らない。

 よし、運命は私にある!


 レーザー発射のパネルを押す。

 砲身に溜まった光の塊は一直線に谷底へ向かい、二つの巨大な氷柱となって宙を舞う。

「いくぞ」

 ミュートさんの声とともに、トライズが氷の煙の中に侵入する。


 潜水モードに切り替えながら、正面のドリルを起動する。

 モニターのシルエットは気球のような丸みを帯びた輪郭を作る。それに合わせて外部モニターは装甲に膜のような追加装甲が張られ、両翼が装甲に包まれる。


 早く早く!!


 ドリルは悠長にゆっくりと右に巻き始めたばかりだ。出力の30パーセンントしか届いてない。

 谷底に入ったトライズは、モード変化のなか照明機能を失う。モニターが暗闇に覆われ、急に気配が消える。


 錯覚だとおもっても身体が冷えたように感じた。氷の世界に入ったからか。

 とんだ錯覚だ。バカみたい。宇宙空間のほうが絶対に寒いのに。


 巨大なドリルが高速で回り出した。その瞬間に、先端が何かに触れ、ガガガガという掘削音が操舵室に響いた。

 照明機能が回復し、先頭下部の明かりが氷を削って道を作っているのがわかる。

 レンズを動かして外装を確認するが、追加装甲にダメージはない。惑星レグダの鉄鋼技術に感心せずにいられなかった。

「水中に到達するまでどれくらいだ?」

「氷の下は2~30キロまでだから、いまの速度で10分くらい。氷の壁を抜ければ海が広がってレーダーに反映するとおもう」

「そうか」

 ミュートさんはそっと操縦桿を離すと、正面デバイスのポケットから黒いチョコレートを一かけらとって、口に含み背もたれに身体を預けた。

 まるで強い重力から抜け出したときのよう。


 かくいう私も神経を使ってへろへろのへべれけだが。

 気持ちを楽にしたかったのか、座席の固定ベルトを外してミュートさんに向いた。

「探査班はいつもこんな危険なことしてるんですか?」

「いや……初めてだ。普段もこれなら命がいくつあっても足りない」

 ですよねぇ。思わず苦笑を浮かべる。

 今更だけど、頭おかしいよこの人。知りもしない後輩フェアリーの要望聞いてくれるし、お金も工面してくれるし、挙句には死ぬかれしないのに着いてきてくれるし。


「そういえば、命令違反しちゃいましたね。私たちトネリコに帰れるのかな」

「さあな。政府も本気で俺たちを殺すつもりはなかっただろ。操舵不能にすればいいと踏んでいた。その甘えがあったからここまで来れた」

 ――知らなかった。っていうかこの人はそれまで読んでいたのか。

 このイケメンパイロットの謎が深まるばかりだ。


「少し休む。海についたら起こせ」

 いうなりミュートさんは瞼を閉じて、鼻から深く息を吸った。まさか短時間でも眠るのか? わからないけど、そっとしておこう。海にも政府の船があるかもしれない。

「ここから私の仕事だね」

 胸が高鳴りが止まなかった。


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