包囲
聞きなれた声だが、瞬時に疑念が浮かんだ。
ウラシマ現象のあるブラックホールから私たちを認識してここまで来たのはいささか無理がある。
タイムラグが発生してもおかしくなかった、
「動揺するな。政府公認の統合管制システムだ。大方、俺たちが失踪した後、中央政府のデータと繋いでアップデートしたんだろ」
緊迫する中、ミュートさんのやけに口数が多くなる。
先生の声が船内に響く、
『あなたたちは政府直属のチルドレンです。いますぐ引き返しなさい』
マイクの通信がONになっているのか、ミュートさんが口を開いた。
「長居するつもりはない。水中旅行を楽しんだ後、あの実験施設に戻るだけだ」
よく喋る姿に戸惑いつつ、私は声だけの先生にいう。
「本物の生命をこの眼で見たいんです。海に生命がいることを、惑星から命が宿ることも! 任務はあとできちんとやります。だから――」
『抵抗するならば容赦しません』
外部カメラが強制的に切り替わった。
周囲を囲んでいた球体型のAIと人型マシンが銃を構えて一斉にこちらを睨んだ。
戦艦の巨大な砲身もトライズに向いている。
『一〇秒以内に退避行動を行い、この区域を離脱しなさい。10……9……8』
どうしよう――尋ねようとした瞬間――いたっ! 舌を噛んだンゴ。
トライズが急加速する。身体はGの影響でぐっと縮んだようになる。
いきなりひどいでしょ!!!
「ちょ! ふつー!! 逃げるなら3とか2とかもっと短く引っ張った後にしないかな!」
「うるさい、気が散る」
いぃーー! 普段何もいわないやつがいうな! こっちは無視されるたびにイライラしてるんだぞ!!
「あーもう、説教! 説教です! ミュートさん!!!」
完全に頭に血が上り、座席の手摺りを握りながら隣の席に唾が飛んだ。
その直後、後部カメラにマシンガンのような連続した光弾が宙をかすめる。
危機的状況だけど、ぶっきらぼうで無愛想でぶしつけでふてぶてしい男のほが気になる。なにがクールだ、美形だ、陰険なだけじゃないか!
『ドッグファイトモードに移行――操舵室及び居住区間のみ人工重力対応。過度なバレルロールはシステムの不具合を生じる可能性があります。速やかに――』
ミュートさんは一瞬でデバイスに触れて、トライズのAIメッセージを切る。
「チャフの警告がきたら電子フレアで対応しろ。船が乗っ取られるぞ」
「いいけど! 使い方は!?」
「ボタンを押せ」
おい、適当すぎる!
言い返す間もなく、外部カメラが右回りで一回転を始め、横のカメラに細長いレーザーがすり抜けた。船体を一回転してかわしたみたいだ。
漆黒のはず宇宙が、クラブように青や白の光が現れては消えていく。ときおり後ろから小さな衝撃が走り、トライズを囲うバリア装置の表示が、水色から黄色に変わっている。
衛星ピアートの地表が画面いっぱいに広がった。急加速で逃げながら惑星に迫っている。
なにかきた!
画面横から人型AIが腕を伸ばした。ミュートさんはそれを予期し、操縦桿をあげてトライズを真下へ急降下する。バックモニターでは空振りした人型AIが映り、船は姿勢を戻してまたピアートに向いた。
危なかった!
――さすが、ブラックホール圏を運転一筋でやっているだけのことはある。
いつになくモニターを真顔で睨む彼だ。ちょっと見直したけど、舌の痛みを帳消しにはできない。ちょっとイケメンなのがマジで憎い。
『警告、惑星の重力圏に入りました。この速度では―――』
秒でAIの伝達を切るミュートさん。
「態勢を整える暇がない。落下しながら氷を割るぞ」
「無茶だよ!いくら地面が氷でも、ドリルが触れる前に船本体が衝突するって!」
「最初にレーザーを使え、熱で緩和するはずだ。氷中に入ればあいつらも迂闊に追ってこない」
「事前練習もなしに危険すぎるよ!」
「知るか、現場はいつもぶつけ本番だ」
なんだこいつ! 来る前は、水が船内に入ったら焼け死ぬって脅してたくせに!!




