【追記】ワープ装置ステーション
ほぼ世界設定用に書いたエピソードです。本編にさほど影響はありません。
目覚まし用のアラームが鳴り響いた。仮眠をとっていた私はベッドから出て伸びをする。
「おはようございます」
プライベートルームから操舵室に入ると、運転席にはミュートさんが映画を観ていた。無言で手があがるのを確認して、私は横の助手席に座る。
返事がないことに最初こそ苛ついたけど、いまは個性だと割り切った。大体のことは時間が解決してくれるものだ。顔がいいから許しているところもあるけど。
正面モニターに目をやると、光が密集する遠方に指輪みたいなリングが映っていた。宇宙間を移動するワープ装置だ。
きょうは人生初めての転移。だから予定時間をずらして起きた。
モニターで遠方を拡大すると、宇宙船が米粒みたいに見える大きさのリングが現れる。
実物を前に「おぉ」と声を漏らした。
画面に映るリングを押して検索をかけると、人口ワームホールの情報がでてくる。
ワープ装置6.42。別名は6番系統のプラチナ線。下りの行き先は惑星レグダ、ブラックホール方面だ。直径はおよそ1.048キロ、幅は12.1メートルの機械製リングとなっている。
私が生きている宇宙開拓時代だけど、中央政府の歴史とワープ装置の進化は同義といってもいいほど密接な関係にある。
以下は培養液の中で覚えたワープ装置の成り立ちと進化の話なので、割愛して構わない。
宇宙開拓時代の黎明期。
政府は天然のワームホールを発見し、それを研究して4対の人工ワームホールを生成した。とはいっても瞬間移動装置みたいなもので、入口と出口をそれぞれ設ける必要があった。しかも距離を伸ばすには、出口側を移動させなければならず、実際に宇宙を進み続けるしかなかった。
また、4対しか作れないのも課題であった。
というのもワームホールの仕組みは重力が絡んでいて、重ければ重いほど負荷がかかり、物質の維持が耐えきれなくなるのだ。おかげで、重力度の小・中・大・極大の4つしか作れなかった。
また、重力指数によって細かく指定できればよかったがそれもうまくいかず、たとえばワームホールに必要な重力度が4・6・8・10と分かれていた場合、5.5のような重力度を設定しても、必然的に数値の近い6の出口に飛ばされてしまう、大変大味な装置だった。(それでも銀河間を移動するには有益だったが)。
不便極まりないワームホールだったが、トネリコの研究により、人口ワームホールに【オメガ粒子】を流すことで、細かな設定が可能になる。さきほどの、重力指数の5.5の入口が、きちんと5.5の出口へと移動できるようになった。
これにより300近くのワームホールを生成することが可能となり、この【オメガ粒子】を用いた人工ワームホールをワープ装置と呼称するようになった。ワープ装置のおかげで4方向だった瞬間移動が、蜘蛛の巣状に次々と範囲を広げられるようになり、おかげで中央政府を中心に銀河環状線ができたのである。
補足の補足をいうと、
対となる人工ワームホールだが、入口を2つ、出口を1つにした実験を行ったことがある。しかし、異空間内で探査艇同士が衝突し、出口で装置がバラバラになった。安全を考慮して対以外の運用はおこなわくなった。
――復習終わり。
ワープ装置まで距離がまだあった私は、物品リストを整理した。
「生活用品は減っていますけど、ワープは1日に2回までです。この機を逃すと、12時間後になるので、買い物は後でもいいですか」
「好きにしろ」
相変わらず朴念仁だなぁ。この人はきっと映画とチョコレートがあれば生きていけるんだろう。
政府の公共放送が船内に割り込んで入ってくる。
次のワープは90分後です。必要な方は電子チケットを購入し所定の位置で待機してください。繰り返します――」
アナウンスとともに画面端にタイムリミットが刻まれる。
政府の放送からワームホールチケットの購入案内があったので、ミュートさんの名義で手続きを済ませた。宇宙船の所有者ということもあるから、この旅行はすべてミュートさん持ちだ。後で払うつもりだけど、気にするのだろうか。
当人は巨大リングを見つめている。
私みたいに驚きではなく、むしろ懐かしさを感じるような不思議な眼差しだった。




