改造宇宙船トライズ
船のエンジンをつけると、正面ディスプレイに外部カメラの映像が映った。星々がきらめく宇宙の空に、灰色の薄い膜がかかっている。地上のエアポートでは、しわのない作業着の工場長が満足げに腕を組んでいた。
工期は予定通り3日で完了した。試運転も行い、三形態の変形も無事済んだ。あとは実践を待つだけだ。わくわくするぜ。
「エンジン出力良好、これより改造宇宙船【トライズ】発進します」
「わかった……」
ミュートさんが不満げに声を漏らした後、
「…………しん」
耳を澄ませていないと聞き取れない! そんなに喋りたくないんか!!
トライズの船底にあるサブスラスターが吹いてゆっくりと宙に浮いた。
船首が斜め上に向き、高く伸びたビル群を目指す。
工場長と警備スパイダーは、飛んでいく私たちに手を振っていた。
船は次第に加速して灰色の幕を突き抜ける。
すぐさま純然たる星の海と、地表の建築物が見える。
短い滞在だった。あれから買い物や工場見学や博物館などをめぐり、時間をつぶした。テラ人の捜索も、あの男性も探したが、あれからまったく姿をみせなかった。やっぱり非常識すぎるな。
トライズがレグダの衛星圏を出た後、オート操縦に移行した。次の行き先はワープ装置があるステーションになる。
ちらりとミュートさんを見る。
この3日間、彼は何をしているんだろうか。
髪は長くてチリヂリだし、無精ひげを伸ばしている。せっかく有人惑星にいったのに、身なりを整えないなんて。
「ミュートさん、なんで髪を切らなかったんです?」
バツが悪いのか、ぷいっと顔を背ける。子どもか!
「時間もあったんですし、ヘアサロンに行けばよかったじゃないですか」
「機械に触れられるのは好きじゃない……」
なんのこだわりか知らないが、要するに行きたくないのだ。
いまどき散髪で生計を立てている人はいない。個別のヘアサロン機械があって自動で整えてくれる。
「そうかと思ってハサミとクシをもってきました。あとでシャワー室で切ります。休み中、3D演習でトレーニングしたので失敗しないはずです」
「…………」
嫌そうな顔を見せたあと、すぐにそっぽ向く。
「全部ミュートさんの世話になりっぱなしじゃ嫌なんです。せめて恩を返させてください」
「……いらない」
予想通りの返事に私はあからさまに嘆息した。
こうなったら仕方ない。最後の手段だ。
「正直、髪が臭いんですよ。船のあちこちで落ちて汚いですし。乗せてもらって感謝してますが、少しくらい私に配慮してください」
ミュートさんは恨めしそうにこちらを見るが、私は気まずそうに視線を外してアヒル口になる。お互い様だ。
ミュートさんも負けないくらい嘆息すると、
「……好きにしろ」
内心ガッツポーズした。
これで少しばかりの借りが返せる!




